第23話慧の敗北
二十五日目は、ユグドス探索だ。
私と慧はいつものように大ユグドスを下っていき、適正レベル十の深さまで来た。ここまでの魔物との遭遇数は五、いつもより少ないなと思いながら、足を一歩踏み出す。
そして——それ以上動けなかった。前方に大きな魔獣が現れたのだ。それは、実践では一度も味わったことの無いオーラ、初めて自分が心の底から恐怖する程の殺気に包まれていた。
それは段々近づいてくる。そして、その正体を見た時、私は、体が急激に冷えていくのを感じた。あれは……あれはヒュージベアー、私が殺されかけた最初の魔物、夢でお母さんを殺したトラウマ。——————私は……完全に戦意を無くした。
「——————!」
慧が何かを叫んでいる気がする、でもそれの意味を認識出来ない。頭の中が恐怖に支配される。
その時だった。ヒュージベアーの背後から何かが飛び出してくる。それは全身黒ずくめの謎の人物。彼は黒ずくめの服から唯一見えている口を歪め、何かを唱えた。慧が何かを叫びながら鈴華の前に立ち塞がる。
そして……私は目を疑った。あの慧が吹き飛んだのである。
※
ほう、と黒ずくめの人物──風翔は感心する。
鈴華はずっと恐怖に縛られていた、しかし慧が吹き飛ばされた瞬間、それが解けた。
自分が死ぬ恐怖に慧を失う恐怖が勝ったのだ。
そんな健気な鈴華を心から称賛し、だからこそ風翔は悔やむ。
「こんなに愛されているのに、それを裏切るのに加担するのは流石に心苦しいな。だが、この裏切りも慧の鈴華への愛から来るもの。——まったく、やってらんない。」
そして最後に、慧の所に到着した鈴華に風翔は願う。
「お願いだ、鈴華ちゃん、どうか…慧の試練を乗り越えてくれ。そうしないと、全ての愛が報われない。最低最悪のバッドエンドだ。その可能性を理解しながら協力する僕が言える立場では無いのだろうが——化けてくれ……」
その場から風翔は立ち去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます