第22話始まる悪夢

 その日、鈴華はいつもより早く目が覚めた。母が死ぬ夢を見たからだ。自分を襲ってきたのと同じ魔物——ヒュージベアーがその大きなかぎ爪で胸を引き裂き、母を殺すのだ。鈴華は、その場面を直接見た訳では無いが、嫌にリアルで、目からは涙が溢れ、吐き気までしてきた。


 はー、前を向こうって決めたのになー、と溜息をつき、頭から追い出す為に着替えてから外に行き、素振りを始めた。


 何故か今日は、慧の部屋に行く気分にはなれなかった。


 思えばそれは警鐘だったのかもしれない。英雄として地獄のように苦しい運命へ足を踏み入れる鈴華への。


 慧が導き、鈴華が辿る、最初の地獄が始まる。

 



 

「兄貴、命令された場所まで来ました。」


「ああ、あとは魔物が魔鏡を使って、こっちに来るまでの見張りだけだ。」


 黒いローブの二人に男が近づいていく。


「ご苦労様です。」


 警戒する二人に男は話しかける。

「っ!誰だ?」


「そう警戒しなくても結構ですよ。」


 黒のローブの男の一人がホッとした様子で言う。


「兄貴、我々の計画を知っているようです。我々の仲間では?」


 兄貴、と呼ばれたほうは警戒を解かず、慎重に男に尋ねた。


「そうなのか?」


 それに対して男は————ヘラヘラとブチ切れた。


「笑えないなー、冗談でも、一瞬でも、お前らごときの仲間だと思われるなんて。裏切り者とその傀儡達の一員なんて、死んでもなりたくないよ。」


 黒いローブの二人は、一瞬の内に放たれたオーラに固まる。


 そして、男が二人の目の前から消え、次の瞬間には斬られていた。そして驚く。男の正体は、この場には、この企みには、似合わない程の大物だった。


「閃風、……宮…崎風……翔」


「お前達の悪巧み、利用させてもらうよ。」

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