第21話実戦

 大アバドンの外見は、大きな洞窟の入り口のようであった。


 入る前に慧が言う。

「ここが大アバドンだ。君は今、レベル五だから取り敢えず今日は、適正レベル五の深さまで行くぞ。」


「分かった。」


 大アバドン内は薄暗く、慧が明かりを灯して進む。


 五分くらい、慧の助言を聞きつつ、鈴華は警戒しながら歩く。所々、死体が転がっていた。


 そして目の前にゴブリンが現れる。


「低深度の魔物の定番、ゴブリンだね。ここ、適正レベル一だし、余裕だと思うよ。」


 そして鈴華はゴブリンの前に立ち——体が重くなるのを感じた


 それを見た慧が説明する。


「それは、ゴブリンからの殺気、オーラの一種だ。殺気は、死への恐怖を引き起こす。だから、相手が弱いうちに乗り越えろ。」


 それ以外には、特に問題は起こらなかった。ゴブリンの攻撃を軽くいなし、頭に斧を振り下ろす。『魔力装束』を使うまでもなかった。


 そして慧は死体に近づき、ゴブリンの爪をナイフで丁寧に剥がしとった。


「これがゴブリンの『不消部』。他の部分は時間が経てば劣化してって最後には跡形もなく消えるけど、『不消部』は消えない。これは、装備や、ポーションなんかの素材になるよ。余裕があるなら、これを傷つけずに殺すことが望ましいね。」


 慧は、ゴブリンの爪を自分のバッグに入れ、他の部分は横に寄せておく。


 その後は、鈴華の無双だった。スライム、コボルト、大型な魔物では、オークやミノタウロスなど、全ての魔物を一撃で粉砕していった。戦いの後は、慧の指南の元、鈴華が死体を解体する。


「それにしても、ザ・雑魚キャラって感じの魔物が多いよねー!」


 緊張が解れてきた鈴華は慧に話しかけた。慧は、あー、それねーと答える。


「それはミズルズの創作物に、アバドンの魔物達がモチーフになってるものが結構あるからだよ。現実にあるものだからリアリティが出て、売れて、雑魚キャラとして定着するんだろうね。」


 ふーんと鈴華は納得する。


「じゃあいつか、私達も物語になってるかもねー!」


「そうだったら面白いね。」


 そうこうしているうちに、適正レベル五の深さに到達する。


「よし、ここは能力が似通った魔物が多いから、しっかり警戒して戦うんだ!」


「分かった」


 最初に遭遇したのは、ダークウルフの群れだった。


「うーん、しょっぱなから群れかー。まあでも、多対一の良い経験だ。囲まれないように戦って!」


「了解」


 鈴華は、慎重に近付いてくる敵には自ら走り近付いて叩き、集団でかかってきたら下がりながら、一撃で複数の相手にダメージを与えた。重さのある斧の、一撃一撃が強力だという長所と、攻撃と攻撃の間に大きな隙が出来やすいという弱点を上手く活かし、カバーする動きで圧倒する。


 結果、相手は十数匹もいたが、鈴華は、神懸かった技をもって一切寄せ付けず、ものの数分で倒しきった。


「——さすが鈴華、もう才能を開花させ始めたか。」


 探索初日は大成功に終わった。







 

 模擬戦では、着々と実力をつけていった。鈴華自身は気づいていないが、慧は段々と手加減の量を減らしており、スキルを使えば、レベル三十の相手とも、互角に戦えるくらいの実力になった。


 座学では、駆け引きを覚えていった。模擬戦や、アバドン内で時折発揮されるそれは、慧を大いに驚かせた。


 そしてアバドンでの実践では、模擬戦と座学でつけた力を活かして暴れ回り、大きな自信をつけた。スキル『魔力装束』も、十全に使えるようになった。


 鈴華のレベル九、戦いの基礎が完璧になり、ベテラン戦士にも劣らない戦いが出来るようになった彼女を見て、慧は大きく口を歪める——全ての準備が整ったと。そして訓練開始二十五日目、ついに慧の悪魔の策略が顔を表すのだった。

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