第20話訓練の日々

 そして次の日、慧の宣言通り、模擬戦が始まる。


「よし、今日から模擬戦を始めよう。」


 鈴華は、斧を、達人を超える精度で扱える為、レベルが近しい者には簡単に勝てる。従って慧が鈴華に教えるのは、圧倒的な強者と戦う術だ。


「普通にやっても勝てない相手には、工夫が必要だ。例えば、わざと死なない程度に、荒い防ぎ方をして、雑に攻撃して、相手がとどめを刺しにきたり、隙を見せたりした瞬間に自分の実力を出して、倒すとかだ。今から僕が、必死に考え、力を出し尽くしたら、ぎりぎり勝てるかもしれないぐらいの実力で戦う。いろいろ試してみて。」


 鈴華は慧の予想を大幅に超えるスピードで成長していった。




 

 四日目は座学だった。


「各武器の特性を知ることで、戦いを有利に進めることができる。僕達はそういう情報や、駆け引きを知識として身につけなくても、何となくで戦えてしまうが、神の恩恵に頼りすぎると足元を掬われる。そういう知識を知る為の授業だ。」


 鈴華は、学校で勉強しまくっていた実績がある。この授業は、それ程模擬戦程辛くはなかった。

 




 五日目は再び模擬戦の日である。


「今日はスキルを試すよ。」

 慧が鈴華に言う。そう、慧が鈴華の弱点を補い得るとして、注目していた、『魔力装束』だ。


「まずは心の中で、スキル『魔力装束』で力を強化したいって、念じてみて。」


 鈴華は言われた通りに念じてみる。すると、鈴華は力が湧き上がるような感覚を受けた。初めて使うが、今自分がどれくらいの力を出せるのか、かなり正確に知覚できている気がした。


「発動したっぽいよ!」


 その報告を受け、慧は剣を持ち上げた。


「そうか、ならばこの剣に思い切り斧をぶつけてみて。」


 鈴華は剣に向かって本気で斧を振る。それを受けた慧は、ピクリとも動かなかったが、それに反して、慧の顔は驚きに染まっていた。


「鈴華の力が格段に上がっている。恐らくレベル十以上。——スキルをフルに使って、神力も最大限使えば、恐らくレベル二十くらい上がる?——思った以上に協力なスキルだな。」


 慧は驚きのせいか、普段は外に出さない心の声が口に出ていた。


「慧?次はどうすれば良い?」


「ああ、次は防御力についても試してみよう。それが終わったら、部分的な能力向上が可能かどうかも。」


 結論から言うと、どちらも出来た。防御力は、魔法への耐性が特に強くなり、物理的な攻撃に対しては、魔法相手程の効果は無かった。部分的な能力向上に関しては、全身の強化よりも若干効率は落ちるものの、実戦で大いに活用できることが分かった。


 慧はスキルの評価を鈴華に伝え、鈴華はその高さに素直に喜んだ。


 慧はスキルのあまりの威力に、人知れず身震いをした。




 

 こうして、最初の二週間、模擬戦と座学のローテーションの日々が過ぎ、——鈴華はレベル五まで上がっていた——遂に、大アバドン探索初日となった。

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