第19話デート?

「訓練二日目だけど、今日はお休み! 買い物に行こう!」


 慧は翌朝、鈴華にそう言った。


「えっと、慧が?」


「僕が」


「私と?」


「鈴華と」


「二人きりで?」


「ん? まあ、そうだけど。」


 ………デートの、お誘いですか、デート、のお誘いですよね、ヒャッフーとキャラに合わないような叫び声を心の中で上げても仕方ないですよね、まさかの慧からのデートのお誘い、初めてのデート、まさかあの慧——鈍くて、堅物で難攻不落のあの慧から誘ってくれるなんて、というか恥じらって遠回しにしか誘えなかったのでしょうね、初心すぎませんか、可愛いすぎませんか⁉︎

 と、鈴華、喜びで大パニックである。


「慧、一時間後集合で良い?」


「え? 今からで良くない?」


「ダメに決まってるじゃん。女の子には色々と準備があるんですー。」


 まったくー、相変わらず女心が分かってないですねー、まったくー上機嫌じゃなかったらお説教ですよー、と言いながら、鈴華は自室に戻り、準備を始める。


 一番お気に入りの服に着替え、髪を整え、普段しない化粧も薄くして、きっかり一時間後に、鈴華は慧と城を出て、北に進む。


 そして数分歩いた後、慧は一つの店の前に止まった。


 そこは——鍛冶屋でした。


 ————そんなとこだと思ってたよ。そう思いながら、不機嫌になった鈴華は鍛冶屋に入っていった。



 


 何故だろう。


 何故、鈴華は機嫌が悪いのだろう。


 出だしは良かったはずなのだ。何故か準備に一時間も使ったが、それ以外は、何も無く、鈴華も終始ご機嫌だった……ように見えた。


 なのに今は機嫌が悪い……気がする。


「あの、鈴華?」


「何?」


 やっぱり声にとげがある……と思う。


「鈴華、どうしたの?」


「どうもしません。」


 絶対機嫌悪い……多分。


「えっと、何かしたいことある? 一緒に来てくれたお礼に何かあったらしてあげるけど。」


 まあ、鈴華の物を買いに来てるんだけど。


 でも、これで機嫌がちょっとでも直ってくれ。


「んー、じゃあ、洋服を選んでください。」


「分かった。」


 ——これはあれだな、女の子の服選びが長くて、男の子のほうがぐったりするパターンの奴だな。

 




 全然ぐったりしなかった。


 だって鈴華、超可愛いんだもん。


 色んな服を着て、ポーズをとったりしながら、恥ずかしそうに「えっと、似合って…ますか?」って言ってきたり、「どうですか?」って笑いかけてきたり、思わず何回か、「可愛い」って言っちゃったじゃんか。


でもそれを聞いて嬉しそうに恥ずかしがるのも可愛い。


 結局、一時間ぐらい飽きることなく鈴華の試着ショーを楽しんだ。


「どの服にしよう。まず、慧が可愛いって言ってくれた奴に絞って……」


 鈴華は試着した大量の服を見て悩みだす。


 だが僕は思う、それは愚策だ、と。


「店員さん、この子が試着した服全部下さい!」


「え、三十着ぐらいあるよ⁉︎」


「問題ない!」


 店員さんはホクホク顔で、シェーンフェルト城に買った服を送ってくれることを了承してくれた。

 




 そして慧以外の誰もがデートだと答えるであろう二人が最後に訪れたのは……ジュエリーショップだった。


「なななななんで、ジュエリーショップ⁉︎」


「え? 見たいのがあるからだけど…」


 鈴華、本日二度目の大パニックである。


 そんな鈴華を他所に、慧は中に入っていく。


「まままままさか⁉︎ 誰かあげる予定がある人でもいるの?」


 そうだとしたら絶望してしまう。鈴華はとても不安だった。


 しかし——


「予定っていうか、普通に鈴華用なんだけど」


 ————っっ⁉︎


 全部吹っ飛んだ。顔を真っ赤にして鈴華は慧を見る。


 しかし、慧の顔に恥じらいは無かった。


 そして慧は追い討ちをかける。


「すいません、この子の指のサイズが知りたいんですけど?」


 指輪ー⁉︎ え、え、ネックレスとかそういうのじゃ無くて、指輪ー⁉︎ いきなり! 大胆すぎるよ慧! でも嬉しすぎるー慧からの指輪、婚約? 婚約なのーーー⁉︎


 鈴華、三度目の大パニックである。


 そんな鈴華をよそに、店員は直立して固まっている彼女の手を取り、指のサイズを測っていく。


 鈴華はその間、ぽけーっとしては顔をブンブン振り、またぽけーっとしては……を繰り返していた。


 そして指のサイズを測り終えた後、慧がこそこそと店員に何かを告げ、その後慧と鈴華は店を出た。





「明日から本格的に体を動かす訓練に入るよ。」


「うーん、そうだねー。」


 鈴華はジュエリーショップの件が嬉しすぎて、心ここにあらずというような状況であった。


「今日は早く寝ろよ?」


「うーん、そうだねー。」


「鈴華? 話聞いてる?」


「もっちろーん。」


 ダメだこりゃと慧は思う。慧はなぜ鈴華がこうなっているのか分からなかったが、辛いとかそういうのでは無さそう、寧ろ幸せの絶頂にいるように感じたので無理矢理話を聞かそうとは思わなかった。

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