第10話初めての朝

 翌朝、私は少し早めに起きて、朝食の準備をする。慧に振る舞う初めての朝ごはんは、オーソドックスにサンドイッチにすることにした。


 昨日買ってきた食パンの耳を切り、対角線で切って三角形にする。最後に、丁寧にパンにチーズやレタスを挟んでいく。


 驚いたことに、家電製品や、ガス、水道設備は日本と同様のものが使われていた。むしろ貧乏な私の家のものより、余程高品質だ。


 エレンさんによると、日本にユースティティア帝国が戦士を派遣して魔物から日本国民を守っているのに対する報酬として、家電製品などを輸入しているらしい。


 ただし、動力は電気ではなく、魔物のドロップアイテムだそうだ。


 おかげで料理はしやすい。


 またこれもエレンの話だが、慧は少食らしく、昨日の晩ご飯から見ても、それは正しいようだった。あれなら、私のほうが沢山食べる。


 今、私が食べすぎだと思ったそこの人?


覚悟しておいてくださいよ。あとで慧にセクハラされたって言いに行きますから。


 まあ、それはともかく、慧と私の分のサンドイッチを作り終えた。そろそろ、慧を起こした方が良いだろう。


 慧の部屋の前に行く。


 そして何となく、ドアノブを回した。


 ガチャ


 あ、開いた……


 恐らく、昨日までの癖で閉めずに寝てしまったのだろう。慧には起こす時はドアの前で声を出して起こして欲しいと言われたが——どうしよう……


 しかし、今日開けっ放しにしていたことに慧が気づけば、明日も開いている可能性は極めて低いだろう。そうなると……


 行くしかない。


 だって、慧の寝顔見たいし。


 という訳で部屋に入る。


 中の大きさ、形は、私の部屋と同じくらいだった。


 そして、その一番奥にベッドがあった。そろーっと近づいていく。


 慧は横向きに寝ていた。枕を縦にして抱きつくような体勢をとっている。いつもの凛々しい顔とは違い、口を少し開けた、少し間抜けた、あどけない横顔を晒していた。


 かわいいなー、と思いながら、髪を撫でる。


「んー……」


 慧が身動ぎする。可愛い。


「慧、そろそろ起きて。朝だよ。」


 慧の耳元で囁く。


「んー、まだ。」


 慧はそう言いながら、もぞもぞと体を動かし、ベッドの上に乗っている私の手をぎゅっと握った。可愛い。


 じゃあ、もうちょっとだけ。


 慧の手、少し硬いけど、温かくて、ドキドキする。


 はー、ずっとこの時間が続けば良いのに。


 ……はっ、危ない、そろそろ起こさなきゃ。


「慧、そろそろ起きないと、今日も朝から予定あるでしょ?」


「んー……」


 慧が目を擦りながらゆっくりと目を開ける。可愛い。


「りん……か、鈴華?」


 こちらをぼーっと見つめていた慧の焦点が合っていき、しだいに怪訝そうな顔になる。

状況を把握したようだ。


「おはよう」


「おはよう、鈴華。——ちょっと説教ね。」


 ——まあ、どれだけ説教されてもお釣りがくるぐらいのものは貰ったけどね。




 

 という訳で、シェーンフェルト城の最上階、慧の部屋のリビングでは、朝から説教タイムが始まっていた。


「何で僕の部屋にいたのかな?」


「開いたから。」


「うん、僕の部屋の扉のことね、うん、それは悪かったよ。でもね、何で入ってくるのかな?」


「だって、今日の夜、鍵開けて寝る?」


「そんな訳ないじゃん。」


「そうでしょ。だから今日がラストチャンス。」


「何の?」


「慧の寝顔を見る」


「本当に何言ってるの?」


「戦果はあった」


 鈴華は慧に親指を立てる。


「いや、寝てるとこ見られるの、普通に恥ずいんだけど。」


「大丈夫、可愛かったよ。誇っていい!」


「何を⁉︎」


 ——何ともおバカな会話である。


 しばらく取り乱していたが、その後落ち着いた慧は、溜息をついて言う。


「鈴華、一緒に暮らすのを認めた僕も大概だけど、流石にね、僕以外にはやったらダメだよ。君は知らないと思うけど、世間には悪い人がいっぱいいるんだよ。」


「分かった、慧だけにしかしない、約束するよ。その分、慧にはいっぱいする。」


「いや、そういうことじゃ無いんだけど。——まあ、他の人よりマシか。」


「じゃあ明日からも、鍵は開けて寝てね。」


「いやだ。」


「何でーーーー。今日の朝の慧、超可愛いかったの。明日からも見たいの。ギブアンドテイクみたいなもんじゃん。私はあなたの寝顔を貰う。あなたは私の安心を得られる。二人とも幸せで一杯!」


「いや、君の得ばっかりじゃん。」


「風翔君の部屋とか、お邪魔してみよっか——」

「良いですよ、毎回僕の部屋まで起こしに来てくれて! ただし朝だけ! 夜中とかに来たら、閉めるから!」



 ——恋する乙女は強かった。

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