第9話『料理でメロメロ』作戦
「鈴華さん、料理は出来ますか?」
リビングを抜け、奥の部屋(私の部屋らしい。ここだけで、昔の自宅の敷地面積を優に超える広さがあってびっくりした)に入ったあと、エレンさんにそう聞かれた。私はお母さんが一日中働いていた関係で、家事全般が得意だ。
私が肯定すると、エレンさんはそれは良かったと笑う。
それを見て、可愛いなと思った私は今更ながら思う、この派閥の人、美男美女が多くない?と。
エレンさんはメイドのイメージ通りのヨーロッパ辺りにいそうな金髪色白美女、恐らく歳は二十代だろう。
他にも、廊下ですれ違う女の子達も可愛らしい子が多い気がする——大体の人がこちらを見て、良い顔はしないし、中には敵意を隠さず、睨んでくる人もいるけど。
男の子に関してもそうだ。慧はあんまり気にしていないようだが、女の子が十人いたら、八人はイケメンって答えるだろうし、風翔を見れば十人中十人がイケメンだと答えるだろう。
慧を巡る争いは苛烈を極めそうだ。
っと、それは置いておくとして、そんな可愛いエレンさんは続けた。
「では、ドキドキ同居作戦第一弾は、『料理でメロメロ』作戦です!」
いつの間にか、作戦名が決まっていた。しかも、良い!と感動する程良くも、ふざけてるの?ときれる程酷くも無い、なんともコメントに困るセンスだ。
そんなことを考えているうちに、エレンさんが説明を始める。
「この階の部屋は、風翔様の計らいで、非常に男女の同居に適したものになっています。」
それはあのチャラ男君が女性を連れ込む為? そう思って聞いてみるとエレンさんは笑って否定した。
「いえ、この設計は慧様の為のものです。そもそも風翔様は慧様以上にモテてますけど、誰とも付き合ったことは無かった筈ですよ。本人曰く、『何かしっくりこない』だそうです。」
何かしっくりこないって……。でも正直驚いた。あんな感じだから、めっちゃ経験豊富なんだと思ってた。超偏見だけど……
「風翔様はあんな感じの雰囲気なので誤解されることが多いですが、本質は、真面目で一途な方なんです。」
話が脱線しましたね、とエレンさんは仕切り直す。
「寝室やらなんやらが二つずつあるのも、そして——リビングにキッチンが併設されているのも、です。幸か不幸か、慧様は料理、洗濯、掃除、片付けなどあらゆる家事が出来ません。料理は、城の食堂で済ませ、他の家事はメイドに任せています。」
彼の弱点の一つですね、エレンさんは言う。
「そこで今回の『料理でメロメロ』作戦はズバリ、料理を振る舞って心を掴もうという事です‼︎」
ババン‼︎と効果音が付きそうくらいドヤ顔で言ってるけど、うん、知ってたよ。むしろその作戦名でそれ以外、思いつかないでしょ。
まあ、でも作戦としては良さそうだ。胃袋を掴めば、男の子は堕ちるって、誰かが言ってた気がするし。
「鈴華さんは、慧様がリビングにいる時に料理を作って下さい。鈴華さんのエプロン姿!初めて見るその姿と、その姿で料理して家庭的な一面を見せる鈴華さんに、慧様もドッキドキです。そして食卓で一緒に食べて下さい。鈴華さんが料理を並べるのを見て、慧様がおずおずと手伝いを申し出ます。一緒に合掌して、慧様が料理を食べて、おいしい!と感動します。感想を言おうと前を向くと、そこには返事をドキドキしながら待っている鈴華さん。『お、おいしいよ』『あ、ありがとう』。ぎこちない会話の中で、あれ?、慧様の胸に味わったことのない感情が! キャーーー‼︎」
————彼女は何をしているのだろう。
「エレンさん、落ち着いてください! キャラ変わってますよ⁉︎」
「おっとすいません。恋愛事になるとついつい興奮しちゃうんですよね……。まあ、とにかくこれでいきましょう‼︎」
※
——作戦の結果、ほぼエレンの妄想通りに、大成功に終わったが、慧が自分の感情を隠し通したので、鈴華は失敗と結論づけた。
因みに慧が一番ドキリとした台詞は「明日からもあなたの為に、料理作って良いですか?」だった。爽やかに「もちろん」と答えた裏で、滅茶苦茶取り乱していたのは慧だけの秘密である。
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