第7話エレンと買い物
鈴華とエレンはシェーンフェルト城を出て、店の立ち並ぶ通りへと歩いて向かう。
その途中、エレンは鈴華に話しかけた。
「鈴華さん、あなたは慧様のことがお好きなのですか?」
いきなり⁉︎と鈴華は同様するも、ここで引く訳にはいかないとエレンを見る。
「はい、好きです。けど何でそんなことを? ……まさか、ライバル⁉︎」
まさか、と焦る鈴華に、しかしエレンは、
「違いますよ。私、結婚してますし。——でも良かったです。」
と否定する。
その言葉に、安心と同時に「良かった」というエレンの言葉に鈴華は疑問を覚える。
「何がですか?」
「あなたが慧様のことが好きだということが、です。私が見てきた中で、一番慧様が好意を持って接している女性はあなただと私は考えています。それが女性としてなのか、家族のように見ているのか、それとも別の理由か、それは分かりませんが。」
それを聞いて鈴華の顔が綻ぶ、が、対照的にエレンの顔が険しくなった。
「ですが、慧様を堕とすのは相当難しいですよ。まず、ライバルが多い。彼は顔も整ってますし、性格は仲間思い、賢いし、何よりとてつもなく強い。お金も、会ったばかりの鈴華さんの為に、『適当に使える』程には持っています。このように慧様は表向きは、完璧超人です。派閥の中にも外にも、慧様を狙っている人、憧れている人はたくさんいます。」
鈴華は息を飲む。今まで、色々あって考えが及んでいなかったが、慧を好きな女性は多いらしい。
エレンは続ける。
「——そして更に問題なのはここからです。慧様は、色々な女性から猛アタックを受け、告白などもたくさんされてきましたが、彼は、その全てを即答で断っています。相手がどんなにどんなに可愛いくても、賢くても、強くても。」
「つまり?」
「つまり、彼は永遠に誰とも男女として付き合う気はないということです。」
鈴華は青ざめた。彼が誰とも付き合っていないのは望外の喜びであったが、それ以上に彼が自分と付き合う事はないということに絶望感を隠しきれなかった。
それは鈴華の生きる意味そのものだったから。
——しかし、とエレンは続ける。
「落ち込むのは早いですよ。私は可能性の無い人にこんな話はしません。——それで、です。彼が女性と付き合わない理由は、実は分かっています。さっき私は慧様について、『表向きは完璧超人』と言いましたが、彼は隠している弱点がいくつか、いえ、いくつもあり、その中の一つがとても致命的なものなのです。その正体についてはお話し出来ませんが、慧様は、それがあるのに付き合える訳ないだろ、と寂しそうにおっしゃられていました。私は彼のその戒めをあなたに解いて頂きたい。」
そこで一度エレンは話をやめ、鈴華を見る。
鈴華も釣られて、顔をエレンの方に向ける。
「だからあなたにお尋ねしたい。本当にあなたは彼を愛し続けられますか? 絶望的な、あなたを苦しめるような弱点が彼にあったとしても。」
エレンの試すような目つきは、決して嘘をつくことを許さない迫力があった。
エレンは覚悟を求めていた。
そして、その質問は鈴華にとってそれは考えるまでもないものだった。鈴華は慧の為なら、どんなことでも耐えられる。それぐらいの心持ちで、慧について来たのだ。
だから鈴華はもちろん、と即答する。
それを見たエレンは満足げに頷いた。
「分かりました。それでは、作戦を提案しましょう。まず、今付き合ってと言ったところで断られるのは見えています。でも意識はさせたい。——そこでです。」
エレンがニヤリと笑う。
「あなたが彼の最大の弱点を知らない内に、約束を取り付けるのです。しかも期間と覚悟が必要な。ある程度の期間一緒にいれば、弱点も自ずと分かるので、後は覚悟を示せば、彼はその弱点を言い訳に出来なくなります。その約束を果たして、改めて告白すれば…チェックメイト」
「えっと……どういうことですか?」
「つまり、『————という目標を私が果たして、慧様の弱点を知った上で、私が、まだ慧様のことが好きだったら、その時に付き合って下さい。』この形に則って告白するのです!——これで慧様は、自分の弱点を理由には、断れません。」
これはエレンが、慧の戒めを解きうる人が現れた時のために長い年月をかけて練っていた作戦であった。
そして、それならばと、鈴華は出会った時に慧に告げた、慧への宣言を思い出す。
「なるほど、じゃあ、『慧の強さに追いついて、その時に慧の弱点を知っていてなお、慧の事を私が好きだったら、付き合ってください』と言えば良いんですね?」
鈴華は、笑みを浮かべて言う。
しかし、それを聞いたエレンの顔が見る見るうちに強張っていった。
「いや、合ってますけど……慧様のレベルに追いつくって、正気ですか? 正直、戒めを解くのと同等以上の難しさですよ。」
エレンの唖然とした口調で発された言葉を聞いて、鈴華が挑戦的な笑いを作る。
「じゃあ、慧に追いつける可能性は無いと思いますか?」
しかし、エレンはこれを否定した。
「いえ、あなたも、予言の子ですし、魔素、神素量を見る限り慧と同じくらいのスペックはあるのでしょう。そこに彼の弱点が重なれば、抜く事も可能かと。というか、それを達成するには、彼の弱点の露見が必要不可欠なので、難易度を度外視すれば、寧ろ理想的です。」
「じゃあ決定ですね。」
簡単にそう言う鈴華にエレンは呆れた視線を向けたが、頷く。
「はい。あ、でもこの作戦をしても上手くいくとは限りません。油断せずに頑張りましょう。」
「はい!」
双方にとって大切な話を終えた二人は、その後鈴華の服や、化粧品などを買った。
鈴華が服の触り心地に感動し、化粧品の質に驚き、今日使った金額を聞いて気絶しそうになったのは余談である。
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