第6話相談

「風翔、保護した鈴華の件で話があるのだが。」


 鈴華とエレンを見送った後、僕は風翔の部屋に訪れた。


 一瞬の間が空いた後、風翔からの返事が来る。


「入って良いよ。」


 風翔の了承を得て、僕は部屋の中に入った。


 玄関を通ってリビングに入る。


 そしてそこに風翔はいた————ニヤつきながら。


「いやー、まさかあの慧が女の子を連れて来るなんて。しかも特例まで使って。驚きだよ。」


 …………人聞きの悪いことを……。それじゃまるで、僕が職権濫用までして女の子を誑かしてるみたいじゃないか。


「茶化すな。あの素質だぞ。連れてくるに決まってる。」


 僕は風翔が用意してくれた紅茶を一口飲んで相談を始める。


「鈴華の家族は、父、母、鈴華の順で三回も魔物に襲われている。」


 僕がそれを言った途端、風翔は驚きに顔を歪めた。


 そのまま少し考える素振りを見せた風翔は、それは確かにおかしい、と呟く。


 やっぱり、風翔もそう思うよな……。


「日本支部の記録には無い……よな。」


「ああ、確認済みだ。一家族に対する襲撃の回数と、それらが揉み消されていることを見ると————」


「作為性を感じずにはいられない、と?」


 その通り——だが、


「いや、もっと端的に言おう。————恐らく第三勢力、犯罪組織『アバドン』だ。」


 風翔の顔が驚きを示す。


「どうして、特定できる。」


「彼女の父は知らないが、少なくとも彼女の母に関しては魔物対策連合日本支部に記録がない上、鈴華への支援も無い。故意に隠蔽されたのだろう。先の戦で、魔物軍と繋がっていることがほぼ確定したことを考えれば、魔物の襲撃も不思議では無い。」


「そんなことが可能で、且つこんな陰湿なことをするのは……確かにアバドンしかいないな。」


 僕は頷く。


「何らかの理由でアバドンが鈴華の素質に気づき、絶望させることによって鈴華を取り込もうとしていた、とかそんな感じだと思う。」


 風翔はしばらく黙った後、口を開いた。


「うん、筋は通っている。どうやって鈴華ちゃんの素質を見抜いたのかは、さっぱり分からないけどね。」


「だが、アバドンは謎が多い。出来ないとは断言できないだろう?」


「そうだね。——でもそれは『ミズルズ』での出来事でしょ? 魔物対策連合に丸投げしちゃえば良くない?」


「ああ、今日の本題は、一連の和泉家襲撃事件について、アバドンのことを鈴華に告げるべきかどうかだ。」


 これが最大の悩みの種だ。


 しかし風翔は、さして考える様子を見せずに言う。


「言わなくて良いんじゃない? 私情が入ると判断が鈍る。」


 それはそうだ、だけど……頷いてから、反論する。


「でも、鈴華の今の精神状態は大切な人を失った今、恐らく非常に不安定だ。そこをアバドンにつけ込まれたら——」


「鈴華がアバドンに入るかもしれない、か? 無い無い、あの子がそんなことする訳ないよ。」


 確信したような態度で僕の言葉を遮って否定する風翔を不思議に思う。風翔は普段、こういう内面的な問題に関して、慎重派だというイメージを持っていたんだけどな。


 風翔を確信させる何かがあるのだろうか。


「なぜ分かる?」


 風翔は真面目な顔で言う。


「彼女は慧を信頼し、溺愛している。そんな彼女が慧を裏切るなんてあり得ないよ。」


 ————は?


 ふざけてる場合じゃ無いんだけど。


「茶化す場面では無いだろ。」


 しかし、風翔は僕に顔を寄せる。


「茶化してないよ。今のが僕の抱いた感想だ。」


 ——————どういうこと?


「分からないかい?…………まあ、今はそれで良いよ。いつかは分かってあげないと鈴華ちゃんが可哀想、それこそ絶望しかねないけど…………ま、慧なら大丈夫でしょ。——チョロそうだし。」


「おい」


 いつの間にか、いつものニヤつき——からかいの表情に戻っていた風翔は、最後に自信満々に笑みを浮かべる。


「大丈夫。鈴華ちゃんは強い。僕としては、アバドンに引き込まれるより、真実を知った彼女が無謀にアバドンに戦いを挑むほうが怖い。」


 数秒、腕を組んで考えこんだ。


 そして、迷いはあったものの、決断する。


「分かった。今回の疑惑について、鈴華には言わないことにするよ。」

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