第5話入団審査

 私が、慧、風翔さんと共に奥の扉を抜け、廊下を歩いて行く。


 ちらりと横を見ると、慧は何か考え込んでいるのだろうか、難しい顔をしながら歩いていた。


 そして緊張で肩が強張っている私に先行して歩いている風翔さんが話しかけてくれる。


「ごめんね、みんなの対応が悪くて。特にレイの。でも、彼は女性恐怖症、とはちょっと違うけど、女性を嫌ってるんだ。他の子も、この派閥に入るのに苦労した子が多いからね。できれば許してあげて欲しい。」


「いえ、むしろ庇っていただいてありがとうございます。」


 慧は軽く、入らないかい? みたいな感じで誘ってきたが、やはりこの派閥に入るのは難しいらしい。


 私のようななんの経験があるわけでもない人が本当に入れるのだろうか。


「まあ、彼らは良くも悪くも実力が価値観の大半を占めてるから、強さを見せつければ評価もガラッと変わるんじゃないかな。」


 風翔さんはそういうけど、私にそんな強さなど存在しない。


 彼も、慧の推薦だから、私に何か凄い力があると勘違いしているのではないだろうか。


見たところ、慧はこの派閥の中でも、立場のある人間のようだし。


 そんなことを考えている内に目的地にたどり着いたのだろう。風翔さんが扉——幹部応接室と書いてある——を開けるとこちらを向く大きな椅子が三つと、奥を向いたパイプ椅子が二つ並んでいた。そして、壁の近くに一人の女性が立っていた。


 肌の露出の一切無いメイド服を着た彼女は目鼻立ちがクッキリとした美人さんでピンと張った姿勢も相まって凛とした印象を受ける。


 やはり大きな城である。メイドさんもいるんだなあ、と場違いな感想を抱いて現実逃避をしていると、風翔さんが大きな椅子のうち一番右に座る。そしてそれに対面する形で、慧とそれに従った私がパイプ椅子に並んで座った。


 壁際の女の人以外が全員が座ると、すぐに風翔さんが話し始める。


「ちょっと遅れたけど、僕は宮崎風翔。ここの幹部だよ。」


 緊張しながらも、急いで返す。


「わっ、私は和泉鈴華です。——えっと……そちらの方は?」


 壁際の女性に聞いてみた。


「私はエレン。メイドです。」


 やはりメイドさんだった。まさに外見の予想通りというか、凛とした涼しげな声で名乗ったメイドさん——エレンさんだが、そこに冷たい雰囲気は無く、むしろ、私と……慧も?——を暖かく見守っているような感じがした。


 そして遂に、一通り自己紹介が終わったので、風翔さんが話を始める。


「じゃ、鈴華ちゃんを慧が特例を使って推薦するって事で、幹部の同意を求めてきたってことで合ってる?」


 慧が肯定する。


「ああ、推薦理由はこれだ。」


 そう言って慧は、魔素と神素を量る計測板を取り出し、私に当てて検査し、風翔さんに見せた。


 風翔さんは目を見開き、板を見つめる。


 数秒後、風翔さんが口を開き、慧がそれに答える。


「新しい予言の子かい?」


「ああ、『十英傑』四人目はこの子、和泉鈴華だ。……ということで、認めてくれるだろ?」


 私の不安を他所に、風翔さんは慧が私の面倒を見ることを条件に同意し、私の入団が正式に決まった。

 



 

 部屋から僕と鈴華、そしてエレンが順に出て、大広間に行く途中、エレンが話しかけてきた。


「慧様、この後はどうするご予定で?」


「ん? 今から武器を選びに行こうかなって。」


 武器は戦士の命だ。早めにあげて、武器に慣れておいたほうが良いだろう?


 しかし、僕がそう言った途端、エレンは呆れた顔で溜息をついた。…………僕、そんなおかしなこと言ったか?


「慧様、馬鹿ですか?」


「酷くない⁉︎」


 少なくとも、主に発するべき言葉では無いだろう。


 しかし、エレンはなおも罵倒を重ねてきた。


「酷いのはあなたの感性です。手ぶらで引っ越ししてきた、しかも女の子に最初にすることが武器選びって——馬鹿なんですか?」


 あ……


 全くもって配慮が足りていなかった。


「すいませんでした。僕が間違っていました。」


 素直に謝る僕にエレンは笑いかける。


「ふふ、分かればよろしいのです。そこで提案なのですが、生活に必要な物を買いに行くのは、私の方が適任かと。女性同士の方が何が欲しいか共有しやすいと思いますし、部屋の間取りも把握しておりますから。」


 ——なるほど、一理あるな。


 ちょうど僕も、和泉家の一連の事件について風翔に相談したかったし。


「確かにそうかもな。鈴華、それで良い?」


 鈴華も頷く。


「うん、助かる。」


「決まりですね。慧様は休憩でもしていて下さい。」


 とんとんと、話が纏った。


「ああ分かった。お金は僕のを適当に使えば良いから。」


「かしこまりました。」


 エレンが敬礼し、鈴華とエレンを、街に出て行くのを見送る。


 「行ってきます」と微笑む鈴華に「行ってらっしゃい」と返す。


 それだけで胸の中がポカポカと温かくなったように感じた。

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