第4話アストライヤー
…………どうやら眠ってしまったようだ。
慧に起こされて、意識が覚醒した鈴華はぼんやりとそのように思いながら、車を出る。
いつの間にか、運転手は居なくなっていたようで、車庫から出たのは鈴華と慧だけだった。
鈴華と慧は馬車に乗り換え、慧はこれからの事を説明し始めた。
「僕達が今から向かうのはこの世界では無い、もう一つの人界、通称『アルムズ』。あ、因みにこの世界、日本とかがある世界は『ミズルズ』って呼ばれているから。そして、僕達の敵は三つ目の世界、魔界『グラムズ』から来る魔物だよ。
僕達の戦場は二つ。
一つ目は人界全域。これは魔物にしか使えない『魔鏡』を通ってくる、魔物への対処だ。魔鏡は、どこにでもワープできる鏡だと考えてくれれば大体正しい。魔鏡が人界に直接繋がれるのに対して、当番制で見張り、来たら撃退していく。今日の僕の仕事はこれの援軍だったんだ。まあでも当番も援軍もレベルが上がるまで君は気にしなくていい。二つ目は人も魔物も使える、世界を繋ぐトンネルのようなもの、『ユグドス』。人界二つを繋ぐユグドスは短いけど、アルムズとグラムズを繋ぐユグドスは全部長い。だからそれぞれ小ユグドス、大ユグドスって分けて呼ぶことも多いよ。で、大ユグドスのほうなんだけど、何個かあるんだけど、僕と同じ所で戦って貰う。」
ここで慧は一息つく。
「それでだ。——もし良ければ、僕の派閥に入らないか? 設備も揃っているし、強くなりたいというなら一番良いと思うんだけど。」
鈴華にとってそれは願っても無い事だ。
「うん、入る。慧と同じところ!」
そして、鈴華がそう言ったタイミングでちょうど馬車が止まった。
「オッケー、さあ着いたぞ! ここがユースティティア帝国アストライヤー自治区の一大都市、『スヴァルト』だ‼︎」
そこは中世ヨーロッパのような街だった。大きな城があり、、大通りには商店街があり、道には、鎧を被った大柄の人がいた。
鈴華が初めて見る景色に心奪われながら、慧に付いていく。
その傍ら、鈴華は慧に尋ねる。
「ユースティティア帝国アストライヤー自治区?」
「ああ。この近くにある大ユグドスの周辺には、十の王国があった。それがユースティティア帝国として纏められ、各王国は、当時の領地を自治することになったんだ。ま、王国とは名ばかりの武装集団だったんだけどね。」
「ふーん。その十個の自治区の内の一つがアストライヤー自治区ってわけね。」
そして二人は、一際大きな城にたどり着いた。
「ここが僕達の家、そして王城でもある『シェーンフェルト城』だ。我らが派閥『アストライヤー』へようこそ。鈴華、これからよろしくね。」
「うん、よろしく!」
※
という訳で『アストライヤー』に鈴華を入れる事が出来たのだが……
「お帰り、慧さん。で、その女の子、誰?」
「お帰りなさい、慧様……その女性は?」
「何訳の分かんねーの城に入れてんだよ。」
あんまり歓迎されていないなー。
偶々三人、大広間にいたが、二人は訝しげな表情、もう一人に至っては嫌悪感丸出しの表情で睨んでいる。
「お帰り! この子は鈴華、うちの派閥に入れるから。あとアン、様付けはやめて、でもかといってレイ、口が悪すぎるのも考えものだな。」
「「「……………………」」」
皆呆気に取られて声も出ないようだな。
「「「はあああああぁぁ!」」」
あっ、復活した。
「ふざけんなよ、慧。有望な戦士にこんな小娘いなかっただろ!」
「そもそも、彼女は戦士なのですか。その美貌なら、ある程度話題に上るはずだと思いますが。」
「我らは、誇り高き最強派閥『アストライヤー』、半端者に居場所なんてありません!」
口々に僕と鈴華に言葉が飛んでくる。——僕は気にしていないが、鈴華は早々に萎縮してしまったようだ。
「レイ、アン、この子はレベル0、まだ戦士じゃ無いよ。そしてサリー、この派閥が最強な理由を忘れたのかい?」
非難の声を一つずつ捌いていく。——自分の立場を利用してるから、ちょっとずるい気もするけど……
案の定、サリーは、それ以上の反論はしてこなかった。
そのかわりに、今度はレイが声を荒げる。
「そういう問題じゃねーだろ! 大体、規則に反して──」
——が、それを爽やかな声が掻き消した。
ちょうど良いところに来たな。
「そこまでにしようか。」
奥の扉から出てきた長身のイケメン、僕の親友、
「そこの可愛いお嬢さんも萎縮してしまっているじゃないか。全く、ここは誇り高き『アストライヤー』だよ。」
風翔は、さっきのサリーの言葉を引き合いに出して爽やかに笑った。凄く人付き合いの上手い彼らしいジョークだ。
しかし、何故だか無性にイラッとした。
「良いところに来たな、風翔。庇ってくれたのはありがたい。けど、鈴華に色目を使っているのなら——殺すよ。」
僕と風翔以外は固まって動けない程の圧力をかける。この中では、僕達に次ぐ実力者であるレイも、口を開くことさえ出来ないだろう。
しかし、風翔は軽い空気を壊さなかった。
「別に僕がその子の事を口説こうと、君にどうこう言われる筋合いは無いと思うんだが? むしろ僕だったら、不幸にさせないよ。それとも——君にどうこう言えるのかい?」
僕の動揺を見透かすように——いや、実際見透かしているのだろうが——風翔はこちらに問う。
——ちっ……何かないか………………そうだ!
「それは……ぼ、僕はこの子の家族だ。軽い気持ちで預けるはずないだろう。」
「僕が軽い気持ちで行動してはいない事は君が一番知っているくせに。それに僕のこの口調は誰が相手でも変えてないよ? 何で口説いてると思ったんだい?」
くっ…一瞬で論破された。何でこんなに苛ついているのだろう…………?
そんなことを考える僕に風翔はそっと近づき、耳打ちする。
「まっ、期待してるから。君の戒めが解けて、その子が恋愛的な意味で大切な人に——」
余りにも突拍子も無いことを言う風翔に思わず叫び声を上げてしまう。
「なる訳ないじゃん! 家族だって言ってるでしょ!」
「あの、慧?」
わっ! …………びっくりした、鈴華か。いつの間に近付いたんだ?
「その家族ってどういう意味?」
僕は一瞬考え、青ざめた。
「ごめん、烏滸がまし事言って。そうだよね。大切なご両親と同じだなんて。」
僕はなんてことを言ってるんだ…………。
配慮が足りないにも程がある。
——しかし、僕の反省とは裏腹に、鈴華は首を振った。
「ううん、私のこと大切に思ってくれるのは嬉しいし、私も慧のこと、お母さんと同じくらい大切に思ってるよ。でも、私はその……ね、君の隣に立ちたいって言ってるじゃん……か。だからその、保護者みたいな考えはやめて欲しい……かな? まあ、実際は完全に保護されてるけど。」
——そういう事か。
確かに、腹立たしい気持ちも分からないでは無い。
「そうだな、悪かった。僕達は競い相手だからな!」
………………あれ? 鈴華の機嫌が直らない。
むしろ、悪化してさえいる⁉︎
「はあ。そういう意味じゃ……無い事もないけどでも言いたかったことはそうじゃ無いのに……」
「へっ?」
やっぱり違うの⁉︎
でも、ライバル視してほしいっていう話だったじゃん。どういうこと?
「もう良いよ。——今からどうするの?」
混乱している僕を見て、鈴華は伝えるのを諦めたようだ。
何か申し訳ないな……。あと何故か風翔が笑いを堪えている。急にどうしたんだ?
「本来なら派閥に入れるのはレベル十以上の人だけなんだけど、特例っていうものを使えば、それ以下でも入れるんだ、幹部達の審査はあるけど。だから、今からその審査に行く。」
鈴華に派閥のルールの説明をする。
——あっ、ちょっと緊張しちゃったかな?
僕の推薦の時点で審査は合格みたいなもんなんだけどな……
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