第24話 デートプラン
——場所とかは俺が決めておきますから。
とは言ったものの。
いざ行き先を決めるとなるとなかなかに難しい。
昨日麗子さんが帰ってから、WEBなどを活用しながらしばらくプランを練ってはみたのだが、初デートにふさわしいような場所は、これといって思い当たらなかった。
「なあ堀」
「んー」
「もし彼女とデートするなら、お前だったらどこに行く?」
だからこそ俺は隣の堀に助けを求めた。
こんな奴でも一応は恋愛上級者なのだ。
「そうだなー。動物園とか水族館とか、あとは映画なんかもいいな」
「割と普通なんだな」
「まあうちの彼女はそういう定番スポットの方が喜ぶから」
さすが5年付き合っているだけある。
どうやらこいつは彼女の好みを完璧に熟知しているらしい。
うちの彼女は定番スポットの方が喜ぶから〜。
とか、彼女自慢もいいところだ。
そんなに手のかからない女が偉いんですかね。
「惚気かよ」
「お前が聞いてきたんだろ!」
あまりにも堀が円満すぎて。
ついつい嫌味が出てしまった。
「すまんすまん。冗談だよ」
「まったく……嫌味言いたいだけなら瀬川さん本人に聞けよな」
「やっぱりお前もそう思うよな」
確かに堀が言うことは最もだろう。
行き先に悩むくらいなら麗子さん本人に聞けばいい。
というかそれで解決するなら、俺はとっくにそうしている。
「でも麗子さんは俺の行きたいところがいいって」
「ほーん。じゃあお前が考えるしかないな」
麗子さんも俺も滞りなく楽しめる。
それが理想的なデートの形ではあるが。
あいにく俺はそういった場所に関する知識に疎い。
(藍葉にも聞いてみるか)
あいつなら色々と知ってそうだ。
それに麗子さんと同じ女性でもあるし。
自分で悩むよりかは良い案が期待できそうではある。
「ちょっと藍葉にも聞いてくるわ」
「それはいいんだけどさ」
「ん、何かいい案でも思いついたか?」
「いい案ってか。お前今”麗子さん”って」
「うっっ……それは……」
「いつから瀬川さんのこと下の名前で呼ぶようになったんだよ」
ニヤニヤしながら茶化してくる堀。
こういう時のこいつが世界で一番うざい。
「お前だって彼女のこと下の名前で呼んでるだろ」
「そりゃあこちとら5年も付き合ってるからなー」
「名前の呼び方に期間は関係ねぇよ!」
本当は一発ど突いてやりたいところだが。
これ以上構っていてはそれこそ堀の思う壺だ。
俺は一度掲げた拳をゆっくりとおろし。
ニヤつく堀に構わず、藍葉の元へと向かった。
* * *
「なあ藍葉」
「センパイですか。どうしたんですかそんなに顔真っ赤にして」
「ああいや……ちょっと熱っぽくてな」
「えっ……なら近付かないでくださいよ」
「べ、別に大したことないからいいだろ」
話しかけて早々拒絶された。
だからといって俺はそう簡単に引き下がらないが。
「ちょっと相談があるんだが」
「センパイが相談? なんか意外ですね」
「俺だって相談の1つや2つする時だってある」
確かに藍葉に相談するのはこれが初めてかもしれない。
麗子さんとの関係を知られているとはいえ、妙な緊張感を覚えた。
「デートの話なんだが……」
早速俺が本題に入ろうとすると。
「センパイ。喉乾きました」
間髪入れず藍葉にそう言われた。
私に相談したくば相談料を払えということだろうか。
「何がいいんだよ」
「そうですね、今はお茶の気分です。あ、もちろん冷たい方で」
「はぁ……ちょっと待ってろ」
後輩にこき使われて我ながら情けなくはある。
でも初デートを成功させるためには仕方ないことだった。
俺はすぐさま社内の自販機コーナーへ行き。
言われた通り冷たいお茶を買って藍葉の元へと戻る。
「ほら、買ってきてやったぞ」
「麦茶って……私緑茶派なのに」
「お前お茶ってしか言わなかっただろ」
「でも普通わかるでしょ。緑茶派って」
「エスパーじゃないんだから……そんなの分からねえよ」
「まあいいですけど」
怒りがこみ上げて来たが何とか堪え。
再度藍葉にデートの件についての意見を仰ぐ。
「お前だったらどこに行く?」
「そうですね〜。買い物とかいいんじゃないですか〜」
「ほう、その心は」
「だって一緒に買い物に行けばお揃いのもの買えるじゃないですか〜。あのクソババ……じゃなくて、瀬川さんならそういうの喜ぶんじゃないですかね。知りませんけど」
確かに。
藍葉にしては随分とまともな意見だ。
買い物なら歩いてるだけでもそれらしくなるし。
お揃いのものを買えば、きっと麗子さんも喜んでくれる。
「参考にさせてもらう」
「はや……れてし……のに」
「ん、今なんか言ったか?」
「別に何も〜」
続けて藍葉に何か言われた気がしたが。
こいつのことだから仕事の愚痴か何かだろう。
「朝も言ったがやるべき仕事はちゃんとやれよ」
「は〜い。わかってま〜す」
藍葉の”わかってます”は信用ならないが。
相談を持ちかけた立場でこれ以上ガミガミは言えなかった。
(上司は上司で大変なんだな)
昔は後輩をしつこく怒るような上司にはなりたくないと思っていたが、いざ自分が先輩の立場になると、上に立つ者の苦労が少しずつだがわかってきた気がする。
特に藍葉はうちの部署でも一番の問題児だ。
いかにして彼女の持つ能力を仕事に活かせるか。
指導係として日々悩んではいるものの、一向に答えは出ないままだった。
「今のうちデートのこと麗子さんに言っとくか」
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