第25話 初デート ①
家から電車で約30分。
2回の乗り換えを経てやって来たこの場所。
ららもーる東京。
服屋、雑貨屋、飲食店などの一般的な店舗だけには留まらず、映画館や小ステージなど、数々の娯楽施設まで完備されたその建物は、商業施設とは思えないほどの広大さと圧倒的知名度を誇っており、休日ということもあってか、たくさんの利用者ですぐ隣にある最寄駅は溢れかえっていた。
”買い物”
その単語を聞いた瞬間。
俺は真っ先にこの場所を思い浮かべた。
大学の時1度来て以来、疎遠だったこの場所だが。
まさか彼女との初デートでまた来ることになるとは。
「相変わらず人がすごいな」
某有名テーマパークを彷彿とさせる。
駅の時点でこの人混みとは、流石人気の商業施設だ。
時刻は午後1時45分。
何とか集合時間の15分前に着くことができた。
あとは麗子さんの到着を待つのみだが……。
「はっ⁉︎ もう着いてる⁉︎」
どうやらすでに到着しているらしい。
麗子さんからケータイにメッセージが届いていた。
しかも着信時刻は1時15分。
つまり30分前にはここに着いていたということになる。
「マジか……全然気づかなかった……」
遅刻していないとは言え。
あの人を30分も待たせるのは非常にまずい。
あなたにとって私はその程度の人ってことでしょ!
みたいな感じのことを言われて、今日1日まともに口を聞いてもらえなくなる未来が容易に想像できてしまう。
(とにかく早く合流しないと……)
確かな不安を抱えながら。
俺は足早に待ち合わせ場所の南口へと向かった。
そして——。
「ハァ、ハァ……お待たせしてすいません」
何とか麗子さんと合流し。
俺は息を切らしながら必死になって頭を下げた。
「まさかそんな早く来てるとは思わなくて」
これは絶対に怒られる。
そう思いながらも恐る恐る彼女の顔を覗くと。
「別にいいわ。行きましょう」
なぜか麗子さんは怒ってこない。
それどころか何事もなかったかのように歩き始めたのだ。
「どうしたの? 早く行きましょう?」
「あ、はい」
表情はいつも通り。
声のトーンもいつも通り。
ここ最近の勘で何となくわかる。
今の麗子さんはなぜか怒っていない。
絶対怒られると身構えていたので。
これには俺も拍子抜けした気分だった。
「今日は楽しみですね」
「そうね」
「どこか行きたいお店とかあります?」
「まあ一応」
「そ、そうですか」
しかしだ。
怒っていないはずなのに、なぜか会話がぎこちない。
その上麗子さんからは、幾度となく謎の視線を感じるのだ。
「あ、あの」
「何かしら」
「俺の顔に何か付いてたりします?」
「いいえ、特には何もないけれど」
「ならいいんですけど」
じゃあなんで俺を見るんですか。
そうは思ったが口には出さなかった。
その後人波に流され何とか建物までたどり着き。
モール内をぶらぶらと散策していた俺たちだったが。
ここへ来てもなお、隣からの視線は一向に途絶えない。
「よ、よく目が合いますね」
「そうね」
時間が経てば経つほど。
モール内を進めば進むほど。
隣からの視線を感じる頻度は増え、それに比例して麗子さんの表情がどんどん曇っていくのは明白だった。
(待たせたことやっぱり怒ってるのか……?)
一度は許そうとしたけどやっぱりダメでした。
なんてことがこの人の場合はあるかもしれない。
何にせよ。
真実を確認しないことには俺の気が収まらなかった。
「麗子さん」
「何かしら」
「もしかしてですけど、怒ってたりします?」
俺がど直球に尋ねると。
麗子さんはわかりやすく拗ねた顔を浮かべた。
「ちょっとだけ怒ってる……」
やっぱり怒っていた。
最初こそ見抜けなかったが。
あらかた俺が考えていた理由でだろう。
そりゃ30分も待たされたら怒る。
たとえ俺が遅刻していなかろうとも。
麗子さんの性格を考えれば納得がいった。
「今日は待たせてしまってすいませんでした」
だからこそ俺はすぐに謝った。
こんなことでせっかくの初デートを台無しにしたくないから。
そして何より、今の空気はどこか淀んでいて居心地が悪かった。
それはきっと麗子さんも同じ気持ちだろうし。
今日ばかりはあっさり許してくれると信じている。
なんて簡単に考えていたのだが……。
「違う。そっちじゃない」
「へっ……?」
いいよ、とか。仕方ないな、とか。
てっきりそういう言葉が返って来ると思いきや。
そっちじゃない?
一体この人は何を言っているんだ。
そっちって一体どっちのことを指しているんだ。
おかげで俺の頭の中は『?』でいっぱいだった。
「やっぱり気づいてくれてないのね」
「気づく……? 一体何のことですか?」
「この服、今日のために新しく買ったんだけど」
そっちかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
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