操り人形

ひかげ

第1話 予兆

 高校1年生の2学期、転校生がやってきた。名前はアカネ、どうやら一年前に小説で大きな賞を受賞したことがあるらしく、それを機に小作家デビュー。私は本を読まないからよく知らないけれど、業界では有名のようで根強いファンもいるみたい。教師からも一目置かれていて、物静かな女の子。自分から誰かに話しかけているところは、少なくとも私は見たことがない。あまり自分のことを話したがらないみたいで転校してきた理由はみんな知らない。いつも休み時間は一人で本を読んでいる。余程本が好きなんだろう、自分で書いているくらいだし。一体いくら稼いでいるのだろう。多分みんな気になっているんだろうけれど聞いてはいけない、そういった暗黙のルールがある。小説家であることを除けばどこにでもいる普通の女の子だった。強いて変わっている点挙げるなら、夏なのに厚手のブレザーを着ているところ。以前気になって、なぜブレザーを着ているのか聞いてみたことがあったが、極度の寒がりらしい。見てるこっちが暑苦しくなってくる、本人の前では絶対に言えないけれど。

 「カエデちゃん、教科書次のページだよ。」アカネは転校してきたばかりで教科書の準備が間に合っていないようで、隣の席の私はこうして教科書を見せてあげている。

 「カエデちゃん聞いてる?」

 「あ、ごめんね。ボーっとしてた。」そう言って私は教科書をめくる。見せてもらっている立場なのに図々しいな、少しだけムカついたので前の席のミズキの椅子の裏を蹴った。

 「痛っ」ゴンッって鈍い音がした。どうやらつま先が椅子のパイプの部分に当たったようだった。

 「ちょっとカエデなにやってんのさー。」ギャルってイントネーションまでギャルなんだなって思った。ミズキとは幼馴染で昔から仲が良かった。ミズキは中学生でメイクを始め、いつの間にかギャルになっていた。私たちが通う高校はこの辺りでは名の知れた進学校で校則が厳しい。そのため髪を黒に染め直してバレない程度の薄いメイクをしている。なんでもっと校則の緩い高校にしなかったのだろうか、いつか聞いてみようと思っているが未だに聞けていない。

 「そこ、後ろの隅っこにいるカエデとミズキ、授業中くらい静かにしろ。」教師の注意で教室で笑いが起きる。ミズキは不満そうな顔をしている。アカネも隣で小さく笑っている。


 私はアカネの笑い方に違和感を感じている。笑い方だけじゃない。人との接し方、会話の内容も。どこか人と壁を作っているように感じていた。人見知りなだけなのかと思ったが多分違う。アカネは一人でいるときに思いつめた表情をすることがあり、私は何度もそれを見てきた。何か悩み事があるのかと思い尋ねてみても、取り繕ったような笑顔で「大丈夫。」と言うだけだった。


 翌日、アカネが学校を欠席した。



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