ティマーは足でまといだと言われてパーティを追い出されました。

栗原猫

第1話

「貴様はこのパーティの足手まといだから今日でクビだ。」


 アジトに到着した途端、リーダーのディエゴが言った。


 A級冒険者パーティ『銀の翼団』この街でNo.1の強さを誇るパーティだ。私はそのパーティーのメンバーで、テイマーのユリ、スライム使いである。


「スライム使いなんて、大して役にも立たないし、金の無駄だからな。」


 あらあら、残念です。リーダーとその恋人で盗賊シーフのロティ以外は、とても気さくで良い人ばかりなので、居心地も良く、結構気に入っていたんですけどね。


 でも、急にそんな事を言い出すなんて、一体ディエゴはどうしたと言うのでしょう?


 確かに元々オレサマな奴ですが、仲間意識も強くて、他のメンバーの助言には聞く耳を持っていたのに……。


 半年前にロティと知り合ってから、段々オレサマがエスカレートしてきた気がします。恋が彼を狂わせたのでしょうか?


 そして恋人になったロティをパーティに加入させたのが3ヶ月前……。2人でイチャコラしてる分には全然構わないのですが、報酬の分配やら仲間達への態度が段々悪くなってきて……。特に私への風当たりは、もう、最悪としか言いようが無かったですね。皆の前で、罵る、貶める、蔑む……、まあ、大方ロティがある事無い事囁いたのでしょうけど。


 ただ、周りの仲間達が諌めてくれるウチは良かったのですが、最近はもう、皆呆れてまたかと溜息を吐く程でした。


 私も2人の罵詈雑言、もう、聞き飽きたし、そろそろ潮時なのかも知れませんね。ディエゴが見ていない所でのロティの嫌がらせにも嫌気が差しましたし……ね。もう、何度突き飛ばされ、足を掛けられて転ばされた事か……。


「あら、ごめんなさい。」


 口では謝って居たけど、ワザとなのは見え見えでしたよ。


 私ははーーーっと大きく溜息を吐くと、ディエゴを見た。


「解りました。今までお世話になりました。」


 その言葉にロティの口許がニヤリと嗤う。


「そのローブは銀翼の支給品でしょう?置いていってよね。」


 このローブ、耐火仕様だし、フードも付いていて気に入ってたのだけど、ロティはコレが欲しいらしい……。仕方ないか……。


 私はローブを脱いだ。下には当然シャツとズボンを履いていたので脱いでも大丈夫だ。


 ローブを脱ぐ事で、アルビノ特有の白い髪、赤い目が顕になる。私の姿にディエゴが息を飲み、惚けた表情になった。ロティも驚いた表情をする。私の容姿は目立つので、ローブのフードを目深に被って顔が見えないようにしていたのだ。虫除けも兼ねて……ね。だから、男性であるディエゴと加入間も無いロティは私の容姿については知らなかったのである。


「それではお元気で。」


 ニッコリ笑って私はアジトを出ると、近所の行きつけの店でフード付きのコートを購入して着込むと、そのまま下宿先へと戻ったのだった。


 部屋に戻った私は、ベッドに腰掛け肩から提げていたバッグの蓋を開ける。


「ぷ。」


 と、声がして、中から水色のポヨポヨした球体……、従魔でスライムのスーちゃんが飛び出して、私の膝にピョンと飛び乗った。


「ごめんね、スーちゃん。」


 膝の上でポヨポヨしているスーちゃんを撫でながら私は話し掛けた。


「ぷぷ?」


 スーちゃんは気持ち良さげに撫でられている。


「パーティクビになったから、暫く休んだら、新しいトコ探さなきゃ、だね。」


 溜息を1つ吐いた。でも、ここの所大変だったから、休むのは良いかも知れない。精神的にも凄く疲れたし……ね。明日から何しようかな〜〜。買い物とかいいかも知れない……。


 そんな事を考えていると、部屋の外からドンドン!!とノックの音がして、返事をする前に勝手にドアを開け、飛び込んで来た者が居た。銀翼のメンバー、魔法使いのヒルダだ。ヒルダは私に駆け寄り抱きつく。


「ユリ〜〜。クビになったんだって?!」


 そう言うと、半泣きで私の頭を抱き締めたまま撫でる。


「アイツ、バカなの?!」


 あっ、今度は怒り出した。


「アンタのお陰でウチらのパーティはBからAに上がったってのに……。今まで皆のフォロー全てやってたのユリなのに〜〜!!」


 もぉアイツ、見る目無さ過ぎ!!とヒルダが叫んだ。


「……ヒルダ……ちょっ……苦しい……。」


「ぷ〜」


 私とスーちゃんが抗議の声を上げると、ごめん、とヒルダは慌てて離れた。危うくヒルダの胸で窒息するところだったわ。恐るべし、Fカップ。


 そしてヒルダは私の隣にポスンと腰を下ろした。


「……で、これからどうするつもり?」


 ヒルダが私に尋ねた。


「うん、暫くゆっくり休んでそれから新しいパーティを探すつもり……。」


「そっか、じゃあ冒険者を辞めるつもりは無いのね?」


 ヒルダが念押しした。私がうん、と頷くと、ヒルダはニヤリと笑って、


「良かった。」


 と、答えた。


 ん?なんで悪い顔……?心無しか、そう見えたのは気のせいか……?


 ヒルダは、んじゃあまた来るわね。と言い残して手を振りながら出ていった。いつもながら賑やかなお姉さんだよね〜と、スーちゃんに言いながら、その日はゆっくり休んだ。


 数日後、ゆっくり休んで心身共にリフレッシュした私が新しいパーティを探しにギルドに行くと、そこにはヒルダが待っていた。


「ユリ〜〜♪。」


 と、手を振るヒルダ。


「どうしたの?」


 と、私が首を傾げると、ヒルダはニッコリ笑った。


「新しいパーティ探しに来たんでしょ?私が紹介してあげる♪」


 えっ?と戸惑う私の手を引っ張りヒルダはあるアジトに連れて行く。コンコンとノックすると、中から出てきたのは元パーティメンバーの戦士、リカルドだった。


「おう、来たか。入れ入れ。」


 戸惑いながら二人に促され中に入ると、テーブルに着いていたのは、ディエゴとロティ以外の元パーティの面々だった。


「えっ?みんな……、どうしたの?」


 不思議に思った私が尋ねると、皆が笑った。


「俺達も銀翼辞めたんだよ。」


「それで新しいパーティを作ったの。」


「やっぱりユリと一緒が良いし……。」


 えーーっ!みんな私の為にこんな事を……?良い人達だ……。


 ちょっと感動してうるっとなると、ヒルダが肩にポンと手を置いた。


「大丈夫、ユリの為だけじゃないから(笑)」


 ユリの事は唯のきっかけなのよ、とヒルダが言うと、他の面々も頷いた。


「最近のディエゴには嫌気が差していたしな……。」


 重戦士のラエルが言った。


「俺達も色々忠告したんだけどな……。アイツはもうダメだな……。」


「そうそう。」


 僧侶プリーストのマーニャが言葉を続ける。


「私もちょっと調べたんだけどね……。」


 マーニャが言うには、ディエゴはロティに魅了の魔法、チャームを使われているらしい……。メロメロにされていて、もう、今更解呪もできない状態だそうだ。そんなロティの異名は『パテクラッシャー』。今までもそうやって、色々なパーティを解散に追い込んで来たらしい……。


「まあ、元々アイツにはリーダーの素質なんて無かったしな。」


 と、リカルドが呟く。そうなのだ、実はディエゴはただのお飾りで、実質の業務とかは副リーダーのラエルがこなしていた。


「もう子守りは沢山だよ。」


 ラエルは手を広げて首を竦めた。


「だから、これからも俺達で助け合って行こうや。」


 リカルドの言葉にみんなが頷いたのだった。





 その頃、ディエゴは二人きりになったアジトで怒っていた。


「なんなんだよ、アイツら!!」


 と、テーブルをダンっと叩く。ロティもそうよね〜〜っと同意する。


「あの女のせいなんじゃない?」


 ロティが呟いた。


「ユリ……か?」


 ロティが頷く。


「あの子が死んじゃえば、他のみんなも目が覚めて帰ってくるんじゃないかしら?」


 ロティの言葉にディエゴは下卑た笑いを浮かべた。


「そうだな……。」


 その夜……。たまたま帰りが遅くなった私は夜道を急いでいた。周りは真っ暗で、周りには誰も居ない……。そんな時、突然後ろから口を抑えられ、背中に硬いものを突きつけられた。


「このまま黙って従え……。」


 くぐもった声が聞こえるが、その声は明らかに……。


「……ディエゴ?」


「良いから黙って言う事を聞け!!」


 口を抑えられているので、大きな声は出せない。だから黙って頷いた。そして、促されるまま連れていかれたのは街外れの森の中。


「ユリ、よくも俺の仲間を奪ってくれたな!!」


 そう言うと、ディエゴは私を突き飛ばした。私は傍らの木にぶつかり、そのまま座り込んだ。


「アンタはパーティから出ても目障りなのよ!」


 ディエゴの隣でロティが喚く。


「ユリのクセに私よりキレイだなんて、赦せない。」


ユリのクセにって何だろう?この女、一体何様?


「何処かのエロ貴族にでも売り飛ばせばいい金になるかもしれないとは思ったが、足でまといとは言え、A級冒険者だからな……。お前には死んでもらう。」


 ディエゴがニヤッと笑った。


「俺様をコケにしたんだ。死んで謝まれよ。」


 ディエゴが持っている剣を振ると、剣撃が私の頬を掠り、ツツ……っと血が流れた。


「アルビノだから違う血の色かと思ったけど、同じ紅なのね……。」


 ロティが哄笑した。


「心配しなくても、じわじわと殺してやるよ。いい声で鳴いてくれよな。」


 ディエゴの嗜虐心に火が着いたようだ。


「貴方達……。」


 私は頬に手を当てて呟く。


「人を殺そうとするなら、当然、自分が殺される覚悟もできているのよね……?」


 いつもと違う私の口調に一瞬びくりとするも、直ぐに高笑いに変わる。


「アハハ、ばっかじゃねーの?テイマーなんかより剣士の俺の方が強いに決まってるじゃねーか!」


「そうよ、アンタなんかただのスライム使いじゃないのよ!」


 馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ、とロティが笑いながら言ったその時だ。


 -我の番つがいを傷つけるのは何者だ?-


 何処からか聞こえてくる声に、二人は慌ててキョロキョロと見回す。


「誰っ?」


「何者だっ!?」


 二人の声に私の影がゆらりと揺らいだ。そしてそこから姿を表したのは巨大な影で……。


「ひっ?!なに?」


「ドラゴン……?!」


 私のすぐ隣にはドラゴンが佇んで居た。


「お前の従魔なのかっ?!」


 ディエゴの言葉に私は首を振った。


「番って……言ったでしょう?」


 擦り寄る様に顔を寄せたドラゴンを私は撫でた。


「ひっ!!ひいぃっ……」


 恐怖の余り逃げ出そうとした二人にドラゴンはブレスを吐いた。あっという間に灰になる二人。


 私は溜息を着いた。


「……ルーク、やりすぎ……。」


 だが、ルークはしれっとしている。


「ユリを傷付けた罰だ。」


「でも、助けてくれてありがとう、ルーク。」


 私が微笑むと満足気に頷いて、ルークは影の中へと帰って行った。私もそのまま帰宅することにした。


 気の毒だとは思うけど、これ迄の仕打ちを思えば、同情はできません。


 結局二人は夜逃げでもしたのだろうと、暫くは噂する者も居たけど、そのうち誰も気にしなくなった。冒険者の世界はシビアだ。


 そして私は今日もパーティのメンバーと共に楽しく冒険者を続けている

 そのうちルークが人化して同じパーティに加入した……と言うのはまた別の話…。


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ティマーは足でまといだと言われてパーティを追い出されました。 栗原猫 @naoko755

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