第53話 示される道
イヴィル・フォレストは手を緩めず、サカグチを持ち上げたあと、思い切り床に叩きつけた。
大理石の床は砕け、衝撃音が辺りに響き渡る。
「あ、ぐっ……こんな……」
サカグチは藻掻き苦しむが、体に巻き付いた根が外れることはない。恐ろしい力で持ち上げられ、天井にも体を打ちつける。
イヴィル・フォレストは、全力でサカグチを投げ飛ばした。
壁に激突し、血を吐き出しながらズルズルと下に落ちていく。呻き声を上げ、なんとか立ち上がろうとするが、頭上から太い根が振り下ろされる。
叫ぶ間もなく、全身に衝撃が走った。
盾は砕け、剣は折れ、鎧は至る所にヒビが入る。いかに高い物理耐性があろうと、人外の力でねじ伏せられては、どうすることもできない。
サカグチは虫の息で、地べたを這い逃げようとするが、イヴィル・フォレストは逃がす気はないようだ。
長く伸びた蔦をサカグチの足に巻き付けると、壊れた壁から城外へと放り投げた。
為す術なく宙を舞うサカグチは、眼下のイヴィル・フォレストを見る。悪魔の木は大きく頭を振り、大量の葉を飛ばしてくる。
手裏剣のように回転した葉っぱは、鋭い斬撃となってサカグチに襲いかかった。体は鎧ごと切り裂かれていく。
「ぎゃああああああああああああああ!!」
もはや意識が無くなり、落下するだけのサカグチを、イヴィル・フォレストは
ピンポン玉のように弾け飛んだサカグチは、遥か彼方へと消えていった。
「…………終わったか」
役割を終えたイヴィル・フォレストは、淡く輝き消えていく。
ハルトは「ふぅ」と息を吐き、その場に座り込む。『ハルト様、お疲れ様です!』とシルキーが周りを飛び回るが、答えてやる気力も無くなっていた。
静かになったせいだろうか、扉から王や王妃が顔を覗かせる。
ハルトの姿を見つけると、従者と共に喜びだした。戦いに決着が着いたことを理解したのだろう。
ハルトは少しよろめきながら立ち上がる。
壊れた壁の外から、アルマンド軍の勝どきが上がる。戦場でも勝敗が決まったようだ。
――勝ったんだ。俺たち、みんなで勝ったんだ!
◇◇◇
全ての戦いが終わり、ハルトとソウタ、アズサとマイは王の間へと集まっていた。王座に座る王の前で、そわそわしながら並んでいる。
ハルトは壁にできた大きなヒビや亀裂を目にし、「やりすぎた」と反省する。
「この度の戦い、其方たちがいなければ到底勝つことはできなかった。国を代表して礼を言わせてもらう。ありがとう、冒険者たちよ」
王の言葉に、アズサとマイは顔を見交わし喜んでいた。彼女たちにとっては初めての大きなクエストだったのだろう。
それだけに、嬉しさは
王との謁見を終え、王の間を出るとリラが駆け寄ってきた。
「みなさん! ありがとうございました。本当に感謝してもしきれません」
「いいって、いいって! 俺たちも報酬をもらったし、みんなハッピーで良かったじゃねーか」
呆気らかんと言うソウタとは対照的に、ハルトは申し訳なさそうにリラを見る。
「すまない。城の一部を壊してしまって……」
「と、とんでもない! ハルトさんがいなければ、国自体が無くなっていました。この程度で済んだのなら、むしろ良かったです」
屈託のない笑顔で返され、ハルトはホッと安堵する。
「そんなことよりさ、クリアしたんだから経験値が大量に入ってるはずだ。確認しようぜ!」
一人テンションの高いソウタに促され、全員でウインドウを確認する。
「あ! レベルが4も上がってるぞ」
「私もだよ、アズサちゃん! レベルが5も上がって、新しいスキルも覚えてるよ」
喜ぶアズサとマイを横目に、ソウタも自分のステータスを確認する。
「おお! 久しぶりにレベルが1上がってるな。他にボーナス特典は……」
ソウタがクリアボーナスが無いか確認しようとした時、ウインドウの右下にあるメッセージアイコンが点滅していることに気づく。
「なんだ?」と思ってタップすると、運営からの通知だった。
『重要なお知らせ』と件名に書かれているメールを開く。
『クエストクリア、おめでとうございます。『アルマンド公国を防衛せよ!』のクエストを特殊条件‟参加人数五人以下”でクリアされました。つきましては、特殊クエスト『アルマンドの領地を奪還せよ!』を選択することができるようになりました。是非、ご参加下さい』
「これって……」
ソウタが驚愕する中、シルキーは「ふんふん」と頷きながら腰に手を当て、辺りを飛び回る。
『とうとう見つけましたね。それは【剣と魔法のクロニクル】を攻略するために必要な隠しクエストの一つです』
シルキーの言葉に、ソウタとハルトは目を見開く。未だに、このゲームの攻略ルートは見つかっていない。
ガチ攻略勢が必死になって探しているものを、
「なんだ? 新しいクエストが発生したのか?」アズサが興味を示すと、マイも話に参加してくる。
「え? そうなの! だったら四人でまたやろうよ。きっと成功するよ!」
マイが無邪気にはしゃぐのを見て、ソウタとハルトは笑ってしまう。自分たちはガチ勢ではないので、無理矢理クエストを受ける必要はない。
だが、アズサやマイがやりたいと言うのなら――
「そうだな、みんなで受けてもいいかもな……。そのことはおいおい考えるとして、それよりハルト! お前のレベルも上がってるだろ? 見せてくれよ」
「ああ、レベルは三つ上がってるんだが……」
奥歯に物が挟まったような返事を返すハルトに、ソウタは眉を寄せる。ハルトのウインドウを覗き込むと、レベルアップによる特典が表示されていた。
レベル28
『【軍事用ドローン(MQ-9 リーパー)】×8機 操縦員【二等兵】16名』
[装備 ペイブウェイIIレーザー誘導爆弾 ヘルファイア]
レベル29
『追加ウェポン:【対物ライフル(T-Rex)】×10【ロケットランチャー(AT4)】×20【対物ライフル各種マガジン】×40【サーモバリック爆弾(ATBIP)】×1基』
「おお! すげーな、ドローンもあるじゃねーか!! それに対物ライフルやロケットランチャーの追加もある。かなりの戦力アップだな」
ランランと目を輝かせるソウタだったが、レベル30の項目を見た時、ピタリと動きを止める。
「……え? これって……」
「そう……だよな。俺の見間違いじゃないよな」
ハルトは困惑した表情でソウタを見る。ソウタもまた、信じられないといった顔でウインドウを見つめていた。
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