第52話 放たれた弾丸

 男の顔には見覚えがあった。確かアズサとマイにからんでいたP・Kプレイヤーキラーだ。どうしてここに?



「テメーに恥をかかされてから怒りが収まらねーんだ。たっぷり仕返ししてやるよ!」


「今はクエスト中のはずだ。どうしてプレイヤーであるお前がここにいる!?」


「はっ! このゲームはな、他のプレイヤーがやってるクエストに介入することもできるんだ。まあ、もっとも大変な割に報酬や経験値なんかはほとんど入らないがな」


「だったら、どうしてそこまでして……」


「決まってんだろ! テメーに復讐するためと、テメーが持ってるレアアイテムを奪うためだ!」


「レアアイテム?」


「しらっばくれんじゃねーよ! テメーみたいに特殊な職業に就く時は、アイテムを使ってなるしかない。そして、そのアイテムは常時持ち歩いているはずだ!」



 ハルトは相手が何を言っているのか分からなかった。この『軍人アーミー』は1億人特典でなれるようになっただけだ。


 アイテムなど使っていないが、相手には分かるはずもない。


 もっとも、説明したところで納得などしないだろうが。ハルトがそう思っているとサカグチは盾を構え、ゆっくりと近づいてくる。


 持っているのは分厚い鋼鉄の盾。以前使っていた物より丈夫そうだ。


 ハルトは20式5.56mm小銃を投げ捨て、手を前に突き出す。



承認アプセープト! バレットM82A1」



 ズシリと重い対物ライフルが出現した。ハルトはライフルを構え、ボルトを引いて狙いを定める。まずは、相手が持っている『盾』を破壊しないと。


 トリガーを絞ると、衝撃と共にマズルから煙が噴き出した。


 放たれた弾丸が盾に直撃する。サカグチは一歩下がるが、盾は破壊できていない。



「フハハハハ! どうだ。前に使っていた『盾』とは訳が違うぞ! 『黒龍の盾』と『黒龍の鎧』だ。物理攻撃に対して圧倒的なアドバンテージがある。お前の馬鹿デカイ銃でも貫けないだろう!!」



 なるほど、とハルトは思った。カイゼルの使っていた拳銃は、オートマチックの中で最強の破壊力を誇る。その銃でも破壊できなかった『盾』と『鎧』……。


 ハルトはバレットM82A1を、床にそっと置いて片膝を着いた体勢になる。


 確かに銃では貫けないようだ。だったら――



承認アプセープト! パンツァーファウスト3!!」



 腕の中に、ハルトが使える最大火力の兵器が現れる。グリップを握り、発射筒を肩に乗せ、弾頭をサカグチに向けた。


 突然出てきた無反動砲に、サカグチは目を丸くする。



「ちょ、ちょっと待て――」


「喰らえ!」



 トリガーを引く。筒の後部が煙を噴き上げ、同時に弾頭が発射された。青ざめるサカグチが構える盾に着弾する。


 爆発。光りと炎が弾け、衝撃と煙が辺りを覆う。


 手応えはあった。これで倒れてくれれば……。



「おいおい……とんでもない物もってんなあ~」



 煙の中からサカグチが現れる。盾や鎧に大きな変化はない。



「さすがにビビった! おかげで盾と鎧の耐久値がごっそり持っていかれた。まあ、それでも何とか耐えることができたがな」


「……ダメか」


「ハッ! 今のがお前の奥の手か? 残念だったな、俺を仕留められなくて」



 そう言ってサカグチは笑い、剣を構えて近づいてくる。


 ハルトは床に置いたバレットM82A1を、再び手に取った。



「確かに、お前の装備を破壊するのは難しそうだが……」


「なんだぁ? いまさら銃なんか持った所でムダだぞ!」


、そうだろう」



 ハルトは胸のポケットから一つの銃弾を取り出す。それはバレットM82A1用の12.7x99mm弾だ。だが、他の物とは明らかに違う。


 弾頭部分が翡翠のように透き通り、白い紋様が描かれている。


 交易都市カルタロで加工してもらった、『神樹の魔石』で作った弾丸だ。クエストが始まる前、カルタロまで行って完成した物を受け取っていた。


 ハルトはバレットM82A1のマガジンリリースレバーを押し、弾倉を取り外す。


 『神樹の弾丸』を込め、再びマガジンをセットしてボトルをガキンッと引く。


 銃口を向けると、サカグチはせせら笑っていた。長剣を鞘にしまい、背中から片刃の大剣を抜いた。



「さあ、この‟悪食の剣”で、テメーから何もかも奪ってやるぜ!!」



 サカグチが鬼気迫る形相で襲いかかってくる。『神樹の弾丸』は、まだ試したことがないため、どんな効果があるかは分からなかった。


 だが、もう魔力が尽きて召喚を使うことができない。奴を倒す方法はこれしかないだろう。


 ハルトは覚悟を決め、バレットの引き金を引いた。


 マズルから発砲煙が噴出し、回転する弾丸が放たれる。まっすぐサカグチに向かっていくが、分厚い盾によって阻まれた。


 盾はガンッと鈍い音を立て、衝撃を吸収してしまう。


 目と鼻の先まで迫っていたサカグチは、にやりと頬を緩め、持っていた剣を高々と振り上げた。



「ハッハッハーーーッ! 終わりだ拳銃野郎!!」



 剣が振り下ろされる。ここまでか……そう思った刹那、メキョっと奇妙な音が聞こえてきた。


 サカグチの動きが止まる。自分の持つ盾に目を移すと、盾の中央に刺さった弾丸から、なにかが



「な、なんだコレは!?」



 小さな芽はニョキニョキと育ち、盾から植物の根や、枝や、蔦が



「うわああああああああああああああ!」



 植物に巻き込まれていくサカグチは絶叫した。


 なにが起きているか分からないまま、体に巻き付いた植物は成長し、天井付近まで持ち上げられている。どれだけ藻掻いても逃れることができない。


 やがて形をなした、をサカグチは見ることになる。



「こ、これは……」



 サカグチは唖然とする。それは大きな木だった。


 天井を突き破り、床に根を張る異様な樹木。ハルトはその木を見たことがあった。



「あれは……イヴィル・フォレスト!!」



 神樹の森にいた強力なモンスター。あの『神緑の弾丸』を使うと、この魔物を出現させる力があったのか!?


 だとしたら召喚と代わらない。


 木の幹には悪魔の顔が浮かび、何本のも太い根を触手のように動かしている。サカグチは、その根の一本に巻き取られ絶叫した。



「なんなんだ!? くそっ! 離しやがれ!!」



 イヴィル・フォレストはゆっくりと体を揺らし、大気を切り裂くような雄叫びを上げる。ハルトは思わず耳を塞いだ。


 神樹の森にいたイヴィル・フォレストは声を発しない。

 

 だとしたら、こいつはイヴィル・フォレストよりもシドラ・フォレストに近いのか? ハルトがそんなことを考えていると、魔物は根を大きく振り上げ、そのままサカグチを壁に叩きつけた。



「がはっ!!」



 壁は粉々に破壊され、全身を打ちつけたサカグチは口から血を吐き出した。

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