第51話 一等軍曹カイゼル・クラウン

「はははは、残念だったな! 俺と二人きりになりたかったようだが、これで四対一の戦いだ!!」



 サカグチがあざけるように言うと、カイゼルも「フッ」と笑い、軽く腕を振った。


 その瞬間、後ろにいた仲間たちが糸の切れた操り人形マリオネットのように倒れていく。サカグチには何が起きたのか分からなかった。



「な、なにを……」



 サカグチが呆然とする中、カイゼルはもあらんといった表情で口を開く。



「これで二人きりだな。まあ、ゆっくり遊ぼうか」


「て、てめぇ!」



 睨み合う二人。サカグチは驚愕していた。


 相手の射撃があまりにも速かったからだ。こいつ、他の兵士より遥かに強いんじゃないのか……? そんな不安を抱くが、顔に出す訳にはいかない。


 サカグチは相手を睨みつけ、口の端を吊り上げて問いただす。



「フンッ! それなりに実力はあるようだが……てめーが集団のリーダーで間違いないな?」


「ああ、まだ名乗っていなかったな」



 カイゼルは冷笑し、右手に持っていた銃を肩に乗せる。



「俺はレッドスコルピオン隊の隊長、一等軍曹のカイゼル・クラウンだ。短いつき合いになりそうだが、まあ覚えておいてくれ」



 そう名乗った直後、カイゼルは両手に持った剣銃をサカグチに向け、躊躇うことなく引き金を引く。


 盾や兜、足に腕、腹や胸など、まるで鎧の強度を確かめるように次々と着弾させていった。だが、カイゼルが放った50アクション・エクスプレス弾は、全てサカグチの鎧や盾によって弾かれていく。


 サカグチはニヤリと笑みを浮かべ、カイゼルを見た。

 


「ムダだ! ムダムダ!! この装備は拳銃野郎を殺すために大枚叩たいまいはたいて買った物だ! お前の持つ拳銃じゃ破壊なんてできねーよ!!」



 サカグチは持っていた剣で斬りかかるが、カイゼルは難無くそれをかわし、二丁の拳銃で反撃する。


 だが、やはり盾で防がれてしまう。



「なるほど……本当に銃が効かない防具のようだ」


「ハハハッ、てめーに勝ち目なんてねーんだよ! 諦めてくたばりやがれ!!」



 サカグチは剣を振り回し、カイゼルを斬り殺そうとする。


 だが、その斬撃をカイゼルは紙一重で躱し、剣と盾を手で押さえつけ、サカグチの顎を蹴り上げた。



「がっ……は!?」



 よろめくサカグチに、カイゼルは拳銃を向け引き金を引いた。兜に覆われていない顔を狙ったのだ。


 サカグチは「がぁ!」と声を上げ、必死で身をよじる。


 弾丸は逸れ、サカグチの頬をかすめた。恐怖が込み上げる。銃弾が顔に当たればクリティカル判定になるだろう。


 そうなれば無事ではすまない。


 サカグチは乱雑に剣を振り、後ろに下がって距離を取る。



「く、くそ! ふざけやがって!!」



 サカグチが怒鳴りつけるが、カイゼルは気にする様子もない。


 小刻みにステップを踏む。それはボクサーが行うステップに似ているが、どこか違う。サカグチは警戒した。


 間違いなく接近戦はこちらに分がある。だが、不用意に近づけば先ほどの二の舞になるのではないか?


 ――軍人だから格闘術を学んでいるのか!? だとしたら、あの男の格闘術は相当なものだ。


 躊躇するサカグチを見て、カイゼルは口角を上げた。


 軽快なステップから、一気に距離を詰める。サカグチは咄嗟に盾で防御するも、盾を蹴り上げられ、顔面に銃口を向けられた。


 右腕で必死にガードし、何とか弾丸を弾く。


 ――ぐっ! このままじゃまずい、拳銃野郎と戦うまで取っておくつもりだったが……仕方ない!


 サカグチは自信が身に付ける『武器』や『防具』、『装飾品』の力を解き放つ。



「能力解放―― ‟殺刃炎舞” ‟魔神の外殻” ‟嵐渦守り人” ‟韋駄天”!!」



 剣は炎を纏い、黒い鎧は禍々しいオーラを放つ。更にサカグチの周囲には風の結界が巻き起こり、足鎧には素早く動くための付与魔法エンチャントがかかる。



「ハッハッハーーー! これならテメーを血祭にできるぜ、さあ覚悟しろや!!」



 カイゼルは「やれやれ」といった表情でサカグチを見ると、恐れることなく踏み込んで行った。


 サカグチは剣を構え、それを迎え撃つ。


 両者の最後の激突が始まった。



 ◇◇◇

 


 城内を走っていたハルトは、目的の王の間へと辿り着く。扉を開け室内に入ると、数人の人たちがいた。



「無事ですか!? 王様、王妃様!」


「おお、ハルト殿ではないか!」



 見れば王様と王妃様が、側近と護衛兵に守られながら部屋の隅で固まっている。


 酷く怯えた様子だが、ハルトは無事が確認できたことにホッと胸を撫で下ろす。王や王妃も安堵の表情を浮かべていた。


 ハルトは近くまで寄って尋ねる。



「どうして避難しないんですか? ここは危険です!」


「うむ、そなたが守備につけてくれた者が、敵がどこから来るか分からないので不要に動くなと言われての、ここに留まっておった」


「レッドスコルピオンが? あいつらは今、どこに!?」


「か、彼らは隣の部屋にいった。そこで戦うことになったようだが、どうなったかまでは分からぬ」



 王が指さした扉を見る。どうやらカイゼルたちは、命令に従い王や王妃を守ってくれたようだ。だが扉の向こうからは、先ほどまで聞こえていた銃声が聞こえない。


 ハルトは嫌な予感がした。



「ここにいて下さい」



 王にそう言うと、ハルトは扉の近くまで素早く移動する。


 いつでも発砲できるように20式5.56mm小銃を構え、扉のノブを慎重に回す。小さく息を吐いた後、扉を一気に開き中へ入った。


 ハルトの目に飛び込んできたのは、凄惨な光景だった。


 何十人もの死体が横たわり、おびただしい血が辺りに広がる。ゲームだと分かっていても、とても嫌な気分になる。


 そして、その男は部屋の中心にいた。



「よお、大将……遅かったな」



 声の主はカイゼルだった。無事だったかと思った瞬間、異様な情景に息を飲む。


 カイゼルは胸を長剣で貫かれ、上に持ち上げられていた。浮いた足から、血がポタポタと滴り落ちている。



「カイゼル!」


「ふふ……すまないな大将……命令は完遂できなかった。一人残しちまった……」


「いや、いい充分だ! あとは俺がやる!」



 ハルトの言葉を聞くと、カイゼルは光りとなって消えていく。最後までニヒルな笑みを浮かべていた。


 その様子が彼らしいと思いながら、ハルトは消えゆくカイゼルを見つめていた。


 そして残ったのは剣をかかげ、立っている一人の男。


 全身に黒い鎧を着こみ、数多の屍の中に佇む姿は、異様な雰囲気があった。



「ははは……やっと会えたな。拳銃野郎!」


「お前は……!?」

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