第50話 悪党VS悪党
「ひゃ~はっは~!! 最高だぜ! 全員、皆殺しだ!!」
ガトリングガンを乱射し、辺りの敵を蹴散らすアレキサンダー。
毎分3000発も発射されるM134は、通称〝ミニガン″とも呼ばれる。それは航空機や艦艇に用いられる機関砲を、人間が持てるサイズにまで縮小したためだ。
だが、実際人間が持てば厳つい機関銃であることは間違いない。
アレキサンダーの上半身に巻かれた弾帯から補給される7.62x51mmNATO弾が、嵐のように撃ち出され、サカグチの仲間を殺していった。
「くそ! このままじゃ
盾を寄せ合い、必死に
そんな時、後ろから大声が聞こえてきた。
「どけ! 俺がやる!!」
ドスン、ドスン、と音を立て、前に出てきたのは全身に鎧を纏った一人の戦士だった。あまりにも重装備のため、顔すら確認できない。
「おお、カマタ! 上級職 【重戦士】のお前なら、あいつを倒せるぜ! 頼んだぞ!!」
「任せておけ!」
アレキサンダーの前に、大柄の重戦士が立ちはだかる。それを見たアレキサンダーはニヤリと笑い、ガトリングガンの銃口を向ける。
「やっと歯応えのありそうな奴が出てきたな。いいぜ、相手になってやる!」
巨躯な二人の男は睨み合い、じりじりとした空気が漂う。一触即発の中、飛び出したのは重戦士の方だった。
持っていた斧を振り上げ、アレキサンダーに襲いかかる。
アレキサンダーも「ふん!」と鼻を鳴らし、M134のトリガーを引く。回転する銃口が唸りを上げ、撃ち出される数多の弾丸で迎撃した。
重戦士は鋼鉄の鎧で弾丸を弾きながら、渾身の力で斧を振り下ろす。
寸でで躱したアレキサンダーは、わずかによろめくも、すぐに体勢を立て直し再び銃撃。
重戦士は斧と腕で頭を守り、そのままの格好で突っ込んでくる。
「おっと!」
近づき、斧を振り回す重戦士だったが、アレキサンダーは冷静に攻撃を避けてゆく。高い攻撃力と防御力を誇る〝重戦士″だが、速さにおいてはアレキサンダーに
相手の動きが鈍った所に、銃撃を叩き込む。
重戦士はあまりの衝撃に踏鞴を踏み、ヨロヨロと後ろに下がった。いかに分厚い鎧であっても、ガトリングガンの猛攻にそうそう耐えられるはずがない。
事実、鎧には無数のヒビが入り、ボロボロと小さな破片が落ちている。
長くは持たないだろう。アレキサンダーはそう考えたが――
「能力解放――
重戦士は地面を踏み鳴らし、激しい震脚と共に一気に距離を詰めてきた。
装備していた足鎧の能力を使い、劣っていた速さの差を埋めたのだ。振り下ろされた斧の斬撃。
アレキサンダーは「ちっ」と舌打ちし、持っていたガトリングガンで受け止める。
衝撃音と共にガトリングガンがひしゃげ、完全に破壊されてしまった。
使い物にならなくなった鉄の残骸をアレキサンダーが投げ捨てると、遠巻きで見ていた重戦士の仲間から歓声が上がる。
「ふははは、終わりだ!」
重戦士は斧を振り上げ、アレキサンダーの頭に向かって斬りかかった。
勝利を確信した重戦士だったが、斧がピタリと止まってしまう。見れば右手首を、男にがっしりと掴まれていた。
それも左手一本で押さえ込まれている。
「な、に……」
腕力に絶対の自信があった重戦士は、自分と互角の力を持つ敵に驚愕する。
「はっ! やるじゃねーか。俺をここまで追い詰めるとはな!」
アレキサンダーは軍服のポケットに入っていたMK3手榴弾を右手で取り出し、ピンを抜いた。
重戦士はその様子を見て、唖然とする。
「お前の強さに敬意を表して、右手はくれてやるよ!」
アレキサンダーはそう言うと、手榴弾を握っている右手を、重戦士の喉元に押し付けた。
「や、やめ……」
「あばよ」
手榴弾が爆発する。
衝撃で鎧は砕け、重戦士の喉は
グラリと巨躯が揺れ、背中からドスンッと倒れる。重々しい音がした後、辺りは静まり返っていた。即死だった。重戦士が起き上がってくることは、もはやない。
その
「いててて……やれやれ、この辺が限界か……」
立っているのがやっとの状態のアレキサンダーを見て、周りにいる男たちは声を張り上げる。
「い、今だ! やっちまえ!!」
武器をかかげ、一斉に襲いかかって来た。槍や剣でアレキサンダーの体を貫いていく。力が抜けたようにだらりと腕を垂らし、巨漢の男は、ふと自分たちのリーダーであるカイゼルに目をやった。
「ふんっ……俺は、ここまでのようだ……まあ、楽しかったから……いいけどな。先に行くぜ……カイゼル」
「ああ」
そう言い残し、アレキサンダーは光の粒となって消えていった。
仲間が死んでも顔色一つ変えない目の前の男に、サカグチは不気味さを覚える。
別の戦いでは狙撃銃で何人も殺していたサミュエルが、複数の男に囲まれていた。男たちは一定の距離を空け、呪文を唱えている。
スナイパーは離れた場所から攻撃すれば無敵に近いが、中距離戦では敵の攻撃を防ぐ手段を持たない。
「ふぅ、これで終わりか」
男たちが炎や雷の魔法をサミュエルに放った、その刹那。
サミュエルもまた、三発の弾丸を撃ち込む。
魔法などより遥かに速いアクションで三人の男に着弾。頭や心臓を撃ち抜き、相手を絶命させる。
そして魔法を浴びたサミュエル自身も、ボロボロと体が崩れていく。
最後にシニカルな笑みを浮かべたまま、サミュエルは光となって消えていった。
そして――
「おやおや、弾が切れたようですね。仕方がありません」
散弾銃で戦っていたデービットの足元には、多くの死体が転がっている。その体には散弾の生々しい傷跡が残っていた。
「うわあああああああ!」
今まで一方的にやられていた男たちが、ここぞとばかりに向かってくる。
だが、それを見てもデービッドが慌てる様子はない。逃げようとも、避けようとも、防ごうともしない。
無数の斬撃が、デービッドの体を斬り裂いていく。
「ええ、久しぶりに楽しい時間でした。お相手をして下さった皆様に……感謝を」
最後まで真摯な態度を取った殺人鬼は、満足そうに光の中へ消えていった。
「ふん! ご自慢の仲間も三人死んだ。後はお前ら二人だけだ」
サカグチは挑発するように嘲笑うが、カイゼルは特に気にする様子もない。
サカグチと対峙している二等軍曹のオーウェンに対し、柔和に声をかける。
「オーウェン、残りの兵は任せていいか? こいつは俺がやる」
「ああ、分かった」
オーウェンはブッシュマスターACRを構え、まだ複数いる敵兵に向かって歩を進める。相手が武器を取るや、すかさず銃撃。
その戦い方は、極めて実直だった。
まるでお手本のように小銃を構え、負傷している兵から確実に倒してゆく。派手さはないが、それゆえに隙もない。
敵は小瓶を取り出し、その中身を飲みほして傷を治していた。
それを見たオーウェンは、優先的に小瓶を破壊してゆく。アサルトライフルの残弾が無くなれば、オートマチックのグロック17を抜いて残りの敵を迎撃にあたる。
だが、最後は全ての銃弾を使い切り、戦う手段を失ってしまう。敵はまだ三人残っていた。
「すまん、カイゼル」
オーウェンもまた、敵の凶刃の前に倒れ、光りとなって消えていった。
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