第49話 四人の軍曹

「ハハハ、やったなサカグチ。簡単に中に入れたぜ!」


「ああ」



 アルマンド城の廊下を進む集団があった。その数四十六名。


 サカグチを筆頭に、武装した男たちは薄ら笑いを浮かべ歩いている。



「――にしてもテオドールのおっさん。まさか自分たちが全員おとりに使われてるとは、夢にも思ってなかったろうな」



 集団の一人が饒舌に語りだす。それを聞いたサカグチも、にやりと笑って口を切る。



「まあ、ドラゴンの召喚も奴らの気を引くのに丁度良かった。こんなにも作戦通りにいくとはな」



 サカグチは歪んだ笑みを浮かべたまま、目の前の扉に手をかける。全てがうまくいった。ここで王族を人質に取り、駆けつけて来たあの男をなぶり殺しにする。


 それがサカグチの描いた復讐計画だった。


 クエストを失敗させ、持っているアイテムは全て奪えば、さぞ悔しがるだろう。何もかもが順調……そう思っていた瞬間――


 目の前の扉が弾け飛ぶ。


 耳をつんざく爆音。訳の分からない衝撃に、その場にいた男たちは身を屈めた。扉は粉々に砕け、硝煙と残響だけが辺りに広がる。


 仲間が何人も倒れる中、サカグチは扉の向こうを視線を移す。


 そこには大型のガトリングガンを持った巨漢の男が立っていた。



「なんだ、全員ぶっ殺したと思ったが、まだ結構残ってるな。さすが冒険者、頑丈じゃねーか!」



 ざんばら髪を肩まで伸ばす、筋骨隆々の男。「てめー!」と腹を立て、サカグチは立ち上がる。辺りを見渡せば、十人の仲間が死んでいた。



「おいおい、勝手なことを言うな」


「そうだよ! 俺たちの獲物でもあるんだから、独り占めはダメだよ!」


「ああ!? なに言ってやがる! 全部俺のものに決まってんだろ!!」



 よく見れば、部屋の中には大柄な男以外に数人の人影があり、言い争っている。


 それぞれが違う武器を持っているが、同じ軍服を着ている以上、仲間なのは間違いない。


 その男たちの中心に、椅子に座って足を組む男がいた。


 逆立った短髪に鋭い目をしたその男は、ニヤニヤと笑いながらサカグチたちを見ている。



「このクソどもが!!」



 サカグチは憤怒の形相で相手を睨む。



「お前ら、あの拳銃野郎の仲間か? それともアイツに召喚された兵士か?」



 サカグチは戦場にいた大勢の軍人を見て、ハルトの能力が軍隊の召喚だと見抜いていた。



「まあ、どちらにしても皆殺しだがな!」



 後ろにいたサカグチの仲間が戦闘態勢を整え、前に出てくる。ある者は呪文を唱え、ある者は矢を弓に番える。剣や槍を構え、突っ込んでくる者たちも。


 対する軍人も武器を構えた。


 真ん中に座っていた男は、ゆっくりと立ち上がり二丁の拳銃を抜く。


 サカグチは奴がリーダーだと確信し、剣の切っ先を向ける。


 こうしてサカグチたちと、【レッドスコルピオン】の戦いが幕を開けた。



 ◇◇◇



 階段を下り、狭い通路を抜けて王の間へと続く回廊に出る。


 ハルトはウインドウから20式5.56mm小銃を取り出し、走る速度を速めていた。


 遠くから銃声が聞こえる。それも乱射するような激しい音。


 間違いない。敵の勢力はレッドスコルピオンと戦っている。ハルトは王の間にいる王や王妃を心配した。


 あの乱暴なレッドスコルピオンの隊員なら、王族の護衛より敵を倒す事を優先するかもしれない。そうなればクエストは失敗、自分たちの敗北だ。


 そんな不安を抱きながら、ハルトは前に進む。



「頼むから間に合ってくれよ……」



 ◇◇◇



 M134ガトリングガンを派手にぶっ放し、敵を蹴散らしていくのは二等軍曹のアレキサンダーだ。


 サカグチの仲間は盾をかかげて必死に耐えるが、あまりの弾数に盾の耐久値が急速に削られていく。なんとか反撃しようと前に出るが、足元に何か転がってきた。



「え?」



 それはMK3手榴弾。気づいた時には爆発し、辺りを巻き込んでいた。



「ぎゃああああああああ!」



 吹っ飛んだ男たちに、追撃のガトリングガンが止めを刺す。



「ハッハッハ、どうした? もう終わりか、歯応えが無いぞ!」


「くそっ!」別の敵が、真横からアレキサンダーに斬りかかる。重量のあるガトリングガンでは迎撃が間に合わない。そう思ったアレキサンダーだったが。



「がはっ!」



 敵は体を撃ち抜かれ、血を吐いて床に転がる。アレキサンダーが振り返ると、そこにはスナイパーライフルを構えた男がいた。



「ふん! 油断しすぎだぞ」


「おいおい、余計なことしてんじゃねーぞ、サミュエル! 敵が来てることぐらい分かってんだよ!!」


「大男の言い訳は見苦しいな」


「なんだと!?」



 アレキサンダーに食ってかかったのは、二等軍曹のサミュエル。


 細身の長身で、スナイパーライフルAX50を持つ。



「おい、なんだコイツ!」


「やっちまえ!!」



 二人の敵が襲いかかってくるが、サミュエルが慌てる様子などない。


 淡々と狙いを定め、引き金を引く。


 弾はまっすぐに敵の額に当たり易々と貫いた。敵は糸の切れた人形のように後ろに倒れ、動かなくなる。


 その射撃は正確無比。百発百中の精度を誇る。



「怯むんじゃねええ! 囲い込んで、ぶち殺せ!!」



 サカグチは青筋を立て、怒声を上げる。仲間たちも敵の強さを理解し、慎重に囲い込もうとするが。



「ぎゃあ!」「ああっ!?」「うわあ!!」



 男たちが吹っ飛ぶ。激痛を感じ、自分の体を見ると小さな穴が開いている。


 なんだ!? と思って顔を上げると、一丁の長い銃を持った男が見下ろしていた。



「君たちの小賢しい戦法など、私たちには効きませんよ」



 不敵に微笑むのは二等軍曹のデービット。散弾銃ショットガンのモスバーグ M500を構える。


 物腰の柔らかな紳士に見えるが、その戦闘スタイルは狂暴の一言。


 散弾銃であらゆる敵を吹き飛ばすことに、興奮を覚える戦闘狂だ。



「くそ! この野郎!!」



 敵の一人が飛びかかってくると、デービットは至極冷静に銃口を向け、フォアエンドを引いてからトリガーを絞る。


 発射された散弾が敵に当たると、着ていた鎧がズタボロに砕け飛んでいく。


 更に二度、三度とフォアエンドを引いて弾を装填し、サカグチの仲間たちに大ダメージを与えていった。



「こ、こいつら!!」



 サカグチが加勢しようとすると、別の方向からアサルトライフルの乱射を喰らうことになる。盾で防ぐが、身動きが取れない。


 サカグチが盾の横から敵を見ると、そこには若く真面目そうな軍人が小銃を構えていた。



「君は行かせないよ」



 立ちはだかったのは二等軍曹のオーウェン。金髪の青年で、戦闘スタイルはバランスの取れたオールマイティ型。


 構えるアサルトライフルは【ブッシュマスターACR】、腰のホルスターにはオートマチックの【グロック17】装備する。


 銃口を向けられたサカグチは、苛立ってほぞを噛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る