第48話 両翼の攻防
戦場には大きなキノコ雲が上がり、地面にはクレーターができていた。
竜の姿はどこにもない。跡形も無く消えたのだ。
攻撃ヘリと戦車部隊は、残ったゴルタゴ兵の掃討へと向かう。ただでさえ少なかった敵戦力は、追撃を受け壊滅状態となる。
もはや誰の目にも、この戦場の勝敗は明らかだった。
◇◇◇
正面の争いが決着しても、両翼の戦いは続いている。
装甲車部隊と兵士たちの銃撃で相手を圧倒していたが、弾が切れ始めると様相は変わってくる。
兵の数は敵の方が遥かに多い。
味方の屍を乗り越えて、雪崩れ込んでくるゴルタゴの兵士たち。こちらの兵も残弾の無くなったアサルトライフルを投げ捨て、ホルスターから拳銃を抜く。
必死の抵抗を見せ、何人もの敵兵を倒すが、攻撃力の低下は否めない。
徐々に押し込まれていく。何とか活路を開こうと、機関銃の弾を使い切った装甲車がアクセルを全開にして敵に突っ込んでいく。
何十人も跳ね飛ばすが、飛びついてきた敵に車内に侵入され、運転手を殺されてしまう。ハンドルを切って横転した車は、光の粒子となって消えていった。
もはや魔力も、魔力を回復する『エーテル』も尽きてしまったため、追加の兵士を召喚することはできない。
「ソウタ! 両翼で苦戦してる。援護に来てくれ!」
「おう! すぐに行く、待ってろ!」
正面の敵はほぼ壊滅しているため、守りを固める必要はなかった。
「カイマン将軍とアズサ、マイは兵500を連れて右に行ってくれ! 残り500の兵は俺と一緒に左へ行く!」
「あい分かった」
「ああ!」
「うん、私がんばるよ!」
兵は二つに分かれ、それぞれの戦場へと
◇◇◇
右翼の戦場に入ったアズサとマイは、壊滅状態となった装甲車部隊を目に止める。トラックは横転し、地上にいたはずの兵士たちもすでにいない。
城壁の上にいる弓兵と狙撃兵だけが応戦していた。
ゴルタゴ兵は隙を突き、高い
「マイ、行くよ!」
「うん!」
アズサが刀を抜き、ゴルタゴ兵に向かって駆け出す。それに気づいた敵兵は怒声を上げ、剣や槍を構える。
アズサは怯むことなく前を見据えた。
「侍の剣技スキル発動――〝
刀の峰を横に倒し、流れるような動きで敵の間をすり抜け、あっと言う間に五人の兵士を斬り伏せた。斬られた兵は白目を剥き倒れていく。
奥にいたゴルタゴ兵も異変に気づいた。
「なんだ、この女!?」「おい! やっちまえ!!」
アズサに向かって襲いかかって来るが、その刹那、アズサの背後から人影が飛び出す。短刀を手に携えたマイが、宙を舞う。
「忍の忍術スキル発動――〝
マイが振り抜いた刀から、いくつもの風の刃が乱れ飛ぶ。ゴルタゴ兵の体を傷つけていくが、一つ一つの傷はごく浅いものだ。
だが短刀の毒属性と合わさって、負傷した兵はアワを吹いて倒れていく。
「今だ! アズサ殿やマイ殿に続け!!」
カイマン将軍が剣をかかげ、五百のアルマンド兵を率いて雪崩れ込んできた。敵兵と激突し、乱戦になる。
勢いはアルマンド軍が上だった。相手を押し込み、立てかけられた梯子を外す。
城壁からの射撃と、アズサたちの奇襲によって右翼の戦局はアルマンド側に傾く。
そして左翼の戦場でも――
「どおりゃあああああああ!!」
ソウタが大剣で薙ぎ払うと、ゴルタゴ兵が木の葉のように飛んでゆく。
敵も必死に抵抗しようとしていたが――
「オーバーリミット・ブレイク!!」
ソウタが突き出した大剣が光り輝き、盾を構えた敵が吹っ飛ぶ。その光景を見た敵が怯んだのを、ソウタは見逃さなかった。
「今だ! 突っ込め!」
ソウタの合図と共に、アルマンド兵五百が雪崩れ込んでいく。相手は度重なる戦闘で負傷している者が多く、体力も消耗していた。
数でこそ劣るが、充分戦える。
ソウタはここが勝負所と考え、大剣を握る手に力を込める。
向かって来るゴルタゴ兵。ソウタは大剣を振り下ろし、地面もろとも敵を粉砕した。
◇◇◇
ハルトは城壁の上から両翼の戦況を見ていた。
どちらも味方が善戦しているようだ。ハルトは安堵の息を吐く。
ソウタから、たった四人で挑むのは難しいクエストだと聞いていたが、なんとかクリアできそうだ。
これでリラの国を守れる。
安心したら、どっと疲れが出てきた。ハルトは城壁にある段差に腰かけ、ウインドウで敵の数を確認する。
敵3000と味方が1000ほどか……ざっくりとした数字しか表示されないため、実際にはもっと優勢になっているだろうと、ハルトは思った。
そんな時――
『ハルト様~』
シルキーが飛んできた。今までどこに行ってたんだ? と
『大変なんです! あ、でもこれって言っていいんですかね~、私一応ナビゲートAIなので公平な立場ですから、あんまりハルト様に肩入れしていると後々問題になるかもしれませんし……』
「なんなんだ、一体?」
もったいつけるシルキーをハルトが睨みつけると、シルキーは『仕方ないですね』と言って話し出す。
『裏門が壊されて、敵に侵入されてますよ!』
「えっ!? 本当か?」
『間違いありません! この目で見てきましたから、数十人はいましたよ』
シルキーがハルトの顔の間近まで迫り、自分の目を指差す。ハルトは邪魔なものでも払うようにシルキーを手でどかし、顎に指を当て考え込む。
――ウインドウでは大雑把な敵の数しか分からない。数十人では表示されないってことか?
ブツブツと文句を言うシルキーを無視して、ハルトは裏門の方角に目を移す。
――ソウタと話し合っていた時、裏門は簡単には落ちないと言っていた。この城は周りを深い堀に囲まれ、渡ることができるのは正面と裏門の吊り橋だけ。その上、万が一に備えて裏門には多くのアルマンド兵を配置している。
それを数十人で突破したとなると、相手はそうとうの手練れ……。
ハルトは顔を上げ、すぐに走り出す。
――王族の警備にはアイツらをつけてるが、正直心配だ。外にいるソウタたちでは助けに行いけないし、俺が行くしかないな。
ハルトは城壁に備え付けられた階段を下り、王の間へと向かった。
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