第47話 滅殺の一撃
「ふん! 口先だけではなかったようだな、サカグチ。あれほど強力なドラゴンを召喚するとは」
中央の軍を率いていたテオドールは、突然現れたドラゴンに感嘆せずにはいられなかった。自軍が誇る騎兵部隊でも相手にならなかった敵を、容易く薙ぎ払っている。
これならいける! 咆哮を上げる竜を見て、テオドールは勝利を確信した。
そんな中、少し離れた場所でほくそ笑む人影がある。
「うまくいったな」
「ああ」
テオドールがいる部隊の後ろに、
それぞれフードの付いたローブを纏い、安全圏から戦場を見渡す。
「戦車が出てきた時はビビったが、ドラゴンには砲撃も効かないみたいだ」
「ハハハ、サカグチの言った通りだぜ。このアイテムがありゃ、アイツらなんて敵じゃねえぞ!」
彼ら四人の手首には、同じブレスレットが嵌められていた。
四人の魔力を使って発動する魔道具〝
戦車を蹴散らし、全て壊滅させてくれる。四人はそう考え、疑わなかったが――
「グオオオオオオオオッ!!」
竜が急に苦しみだした。戦車隊が前進すれば、それに合わせて竜が後退する。
先ほどまでとは逆の光景だ。
「どうした、何が起きた!?」
男たちは慌てだす。絶対的な強者である竜が苦戦するなど、ありえるはずがない。
「おい、おかしいぞ! さっきまでと砲撃が変わってないか!?」
一人が叫ぶと、他の男たちも気づく。言われてみれば確かに違うと。今までは龍に当たると爆発していた砲弾が、爆発せずに竜の体に着弾している。
「なんだ? 奴ら、なにをしたんだ!?」
◇◇◇
エイブラムスの砲身が爆発する。飛び出した弾体から装弾筒が分離し、空中でタングステン合金の鋭利な弾が現れる。
まっすぐに竜に向かい、その鋼鉄の体に深々と突き刺さった。
「ヴォオオオオン!」
貫通力に特化した徹甲弾に、竜は苦し気な鳴声を上げ、たたらを踏むように後ずさる。居並ぶ戦車は手を緩めない。
レオパルトや10式戦車、16式機動戦闘車が絶え間なく砲撃していく。
竜の体に弾体が食い込み、至る所から血を噴き出す。竜が炎を吐こうとすると、中距離多目的誘導弾搭載高機動車からミサイルが発射された。
レーザー誘導により、竜の頭に直撃する。
竜は頭を仰け反らせ、堪らず巨大な翼を開いた。地上での戦闘は不利だ。
高い知能を有する竜はそう考え、砂ぼこりを舞い上げながら飛翔する。上空から攻撃されては戦車部隊に勝ち目はない。
遠目で見ていたソウタが叫ぶ。
「空中戦だハルト! 空中で勝負を決めろ!!」
「ああ!」
ハルトは手を空に伸ばし、大声で宣言する。
「召喚、来い! AH-1Zヴァイパー、AH-64アパッチ2機!!」
縦に向きを変えた魔法陣を通って、三機の攻撃ヘリが現れた。いずれも頑強な戦車を破壊する装備を有する。
それは、すなわち鋼鉄の外皮を持つ
「撃ちまくれ!」
三機の両翼下部についた、対戦車ミサイル〝ヘルファイア″を発射。
翼を羽ばたかせ、上昇しようとしていた竜の体に次々と着弾した。激しい爆発音、巻き上がる炎。
竜は呻き、引き裂かれた皮膚からおびただしい血が流れ落ちる。
ヴァイパーやアパッチは、機首に装備した機関砲を敵に向ける。生身の人間では撃つことのできない機関砲が、何百発もの弾丸を放つ。
徹甲焼夷弾(API)が、傷ついた竜の外殻を貫く。竜も凶悪な
だが三機の攻撃ヘリは、急速旋回してギリギリでかわす。
プロペラから発する風も、炎の
銃弾は竜の翼に当たり、薄い膜を突き破っていった。
「ヴァアアアアアッ!」
グラリとバランスを崩した竜は、浮力を失って落下していく。そこにはテオドールの部隊がいた。
「なっ!? バ、バカな、来るな!!」
テオドールは顔面蒼白となり逃げようとするが、混乱に陥った馬がうまく動いてくれない。まごついている間に竜の巨大な体躯が迫る。
「うわあああああああ!」
テオドールと数名の部下の真上に竜が落下した。大地が揺れ、土砂が舞い上がり、重々しい音が鳴り響く。
静まりかえるゴルタゴ兵。自分たちの将が死んだなど、容易には信じられない。
だが、そんなことはお構いなしに、竜はけたたましい声を上げた。
全身から血がしたたり、羽はボロボロ。もはや息も絶え絶えといった様子だが、それでも戦うことをやめようとはしない。
ギラついた眼で、上空のヘリを睨みつける。
口の中に炎を溜め、ヘリが近づいてきた瞬間に一気に吐き出した。
それを見たヴァイパーのパイロットは、冷静に炎を回避する。両翼下部に取りつけられたミサイルポッドから、ハイドラ70ロケット弾を発射。
小型のロケット弾だが、傷ついた竜には効いてるようだ。
それでも対戦車ミサイルである〝ヘルファイア″を使い切っていたため、攻撃ヘリは決め手に欠いていた。
竜の周りを飛びながら、互いに睨み合い膠着状態に入る。
ソウタやアズサたちが不安気な表情を見せるが、ハルトは至極冷静だった。
「これでいい。相手の動きを止めることができれば、それで充分だ。すでに準備はできている」
上空を見上げるハルト。それは攻撃ヘリを召喚した時、ほぼ同時に召喚し待機させていた。
C-17大型輸送機――
機体はゆっくりと旋回し、竜の真上へとさしかかる。
後部ハッチを開き、パラシュートを使って大型爆弾を機外へと放出。弾頭を下にして、まっすぐに落ちてくる。
動き回っている相手には当てられないが、止まっていれば問題ない。
竜が気づいた時には、もう遅い。〝全ての爆弾の母″と呼ばれる大量破壊兵器、『
凄まじい光と、熱と、爆風で周りにいたゴルタゴ兵を巻き込み、あらゆる物を吹き飛ばす。
後ろに下がっていた攻撃ヘリも、衝撃で機体が大きく傾き墜落しそうになる。
なんとか体勢を立て直し、上空へと昇っていく。
かなり離れた場所にいたアズサやマイたちも、爆風で体を持っていかれそうになる。なんとか耐えたが、その爆発の威力に唖然とした。
「あ、あれもハルトの力なのか!?」
アズサが恐る恐るソウタに聞くと、
「まあ、そうなんだけど……あんまり深く考えるな」と、半ば諦めたような口調で答える。
ソウタもまた、ハルトの能力が規格外なのは充分承知していた。
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