第45話 互いの軍議
「貴様……」
歯ぎしりをして睨みつけるテオドールを前にしても、サカグチが怯む様子はない。
「テオドール様、我々なら奴らを葬り去れます。あなたの失敗も無かったことになる。悪い話じゃないでしょ?」
テオドールの眉がピクリと動く。
「貴様なら何とかできると言うのか!?」
「ええ、もちろん。そのために来たのですから。奴らを倒す策を授けましょう」
しばしの間、テオドールとサカグチは睨み合う。緊迫した空気が辺りを包むが、先に視線を切ったのはテオドールだった。
「ふん! まあいい、貴様の案に乗ってやろう。だが失敗した時は分かっておるだろうな」
「ええ、もちろん、覚悟しております」
テオドールは振り返り、部下に指示を出す。
「将軍たちを集めよ! 軍議を開く」
「はっ!」
その後開かれた軍議によって、サカグチの作戦は正式に採用された。
◇◇◇
「やったなサカグチ。こっちの狙い通りだ」
「ああ、それにしてもあのクソおやじ! 無駄に人間みたいな態度取りやがって」
苛立ちを覚えながら、自分たちに
「めんどくせーから、ぶっ殺しちまえばよかったんじゃねーか? そしたら俺たちが将軍になって……」
「いや、ダメだ!」
サカグチはきっぱりと否定する。
「このゲームじゃ、NPCは全部AIによって統制されてる。設定を与えられた上で、自分で考え、行動し、経験を積んでいく」
「まるで人間みたいだな」
「そうだ。だからこそ言動やかけ引きを間違うと、クエスト自体中止になることだってある」
サカグチはハルトに復讐するため、コルタゴ帝国の宰相に取り入ることに成功していた。せっかくクエストに介入できたのに、ここで失敗すれば目も当てられない。
「それにしても本当なのか、サカグチ。相手が激レアなアイテムを持ってるってのは?」
「ああ、恐らくな。あいつが使った銃は、このゲームじゃありえない武器だ。イベントか何かでレアなアイテムを引いて、特殊な
サカグチは忌々しいものでも思い出すかのように、唇を噛む。
「奴からは何もかも奪い取って、なぶり殺しにしてやる!」
辿り着いたテントの入口を開くと、中には完全武装した男たちがひしめき合っていた。サカグチを含め、総勢五十人。
全員が目をギラつかせ、歪んだ笑みを浮かべる。
「さあ、俺たちを舐めるとどうなるか……たっぷり教えてやろうぜ!」
◇◇◇
アルマンド公国・王城――
城の中にある会議室。広い部屋に年季の入った正方形の机が置かれ、その周りにはハルト、ソウタ、アズサとマイ、アルマンドの将軍カイマンとその部下二名。そしてリラがいた。
机の上には大きな地図が広げられ、全員で覗き込んでいる。
地図を指し示しながら、ソウタが口を開いた。
「敵は二万以上の兵を失った。次で総攻撃を仕掛けてくるだろう。それを凌ぎ切れば、俺たちの勝ちだ!」
「最後の攻撃か……」
アズサがごくりと息を飲む。
「それで、兵の配置はどうする?」
ハルトがそう尋ねると、全員の視線がソウタに集まる。ソウタはニヤリと微笑み、地図上にある敵の陣地を指差す。
「相手は突然現れた装甲車部隊を相当警戒するはずだ。たぶん兵を横に広げて、銃で狙い撃ちされないような戦略を取ってくるだろう」
「城を囲い込んでくるってことか?」
「ああ、たぶんな」
ハルトの言葉にソウタが頷く。
「で、それより問題なのが、こっちの敗戦条件だ。敵にアルマンドの王族を殺されるとクエストが失敗したことになる。リラ、王様と王妃様の警護はどうなってる?」
ソウタがリラに聞くと、リラは真剣な表情で頷き、
「し、心配いりません。王の間には複数の兵士がいますので、警護は万全かと。私にもカイマン将軍が、信頼できる部下をつけて下さっています」
「そうか……だが、念には念をだ。カイマン将軍、王族の警備を増やしてくれないか? 心配の種は摘んでおきたい」
「ふむ、ソウタ殿がそう言われるなら……委細承知した」
ソウタは満足そうに口の端を上げ、再び地図に目を落とす。
「ハルト、軍の細かい配備についてなんだが……」
「ああ」
その後話し合い、それぞれの役割分担を決めていく。
そして、その日の正午。互いの陣地に兵が並んだ。ゴルタゴ軍はソウタの予想通り、横に長く、縦に薄い陣形を敷く。
対してこちらは正面に戦車部隊を並べ、まっこうから迎え撃つ構えだ。
戦車部隊の後ろには、ソウタとアズサ、マイと1000人のアルマンド兵がいつでも飛び出せる格好で控える。
ハルトは城壁の上に立ち、召喚し直したスナイパー部隊と共に眼下を見下ろす。
敵は諦めていない。ならば徹底的に叩きのめし、相手を降伏させるまでだ。
ハルトは強い決意を抱き、ゴルタゴ軍が向かって来るのを待った。
そして――
一斉に駆け出す、万の軍勢。
ゴルタゴ軍が先陣を切った。土煙を上げ、雪崩れ込んでくる。横に広がっていた兵が更に間隔を開け、銃撃に備えているようだ。
「全軍前進!」
ハルトの号令で戦車部隊が動き出す。戦車の砲撃なら騎兵程度、簡単に粉砕できるだろう。
だが敵もそれが分かっているのか、正面から向かって来る敵の数は少ない。合わせても五千ぐらいか。多くの戦力は左右に別れ、両翼から襲いかかってくる。
「これもソウタの予想通りだな」
ハルトは会議室でのソウタの言葉を思い出す。
『恐らく、敵は左右に主力をおいて城壁を登ろうとするだろう。
『それなら左右の城壁にも兵を置いて、警戒させよう』
『ああ、それで問題ないと思うが、最悪を考えて城の中にも兵士を置いた方がいい』
『城の中……そうなると、アイツらが適任か……』
気乗りしなかったが、万が一の備えは必要だ。
ハルトは改めて眼下の敵を見下ろす。戦車部隊の砲撃が始まった。
主力戦車であるエイブラムスの、44口径120mm滑腔砲が唸りを上げる。放たれた砲弾は【多目的対戦車榴弾】。
今まで使っていた【装弾筒付翼安定式徹甲弾】より貫通力は落ちるものの、砲弾自体を爆発させ周囲を巻き込むものだ。
事実、狙いが外れ地面に着弾した砲弾でも、爆発して辺りの騎兵を吹き飛ばした。砲弾の中に入っていた鋼球が飛散し、兵士の体を貫いていく。
人を倒すのに特化した兵器は、その威力を存分に発揮した。
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