第44話 初戦の行方

 残った装甲車は、まっすぐに戦場を駆ける。



「82式指揮通信車と軽装甲機動車二両、3 1/2tトラック二台は戦場を突っ切って、城の右に回り込め!」



 ハルトの命令で部隊は二つに分かれた。


 輸送防護車ブッシュマスター、73式小型トラック四台は足を止め、ソウタたちの救出に向かう。



「召喚! 【砲撃歩兵部隊】」



 魔法陣から15人の兵士が姿を現す。ハルトも輸送防護車ブッシュマスターから降り、20式5.56mm小銃を構えて敵に向かってゆく。


 アルマンド兵と戦うゴルタゴ兵の、ちょうど背を討つ格好だ。



「撃て!!」



 その場にいた兵士全員による一斉射撃。アルマンド兵と戦うのに気を取られていたゴルタゴ兵は、意表を突かれ混乱に陥る。


 砲撃歩兵部隊はロケットランチャーを放つ。十基の弾頭が敵に直撃し、激しく爆発した。弾け飛んでいくゴルタゴ兵。


 戦場は狂気の渦に飲み込まれる。


 ロケットランチャーを使い切った兵士は砲筒を投げ捨て、肩にかけていたアサルトライフルを構えた。


 召喚した15名の兵士と、小型トラックから降りた8名の兵士。そして輸送防護車ブッシュマスターと小型トラックに搭載された機関銃による援護射撃で相手を倒していく。


 数は少なくても一方的な戦いだった。


 敵兵力が少なくなってくれば、フルオートからセミオートに切り替え、味方の軍に当てないよう細心の注意を払う。


 そして――



「ハルト!!」


「ソウタ、無事だったか」


「ああ、なんとかな!」



 ソウタはそう言って、目の前にいるゴルタゴ兵を斬り飛ばした。アズサやマイも無事のようだ。


 ハルトは弾幕を張りながら、ソウタと合流を果たす。



「お前が召喚してくれたスナイパーのおかげで、なんとか生き残れたぜ!」


「それなら良かった」



 アズサとマイも、敵兵を斬りはらいながらハルトの元へやってくる。



「ハルト! 凄いな、あの車も召喚なのか!?」



 アズサが目を見開いて装甲車を指差す。ハルトが「そうだよ」と答えると、そんなのがあるんなら早く言ってくれ。と苦笑いしていた。



「ハルトーー! 怖かったよ~」



 マイが半べそになって駆け寄ってくる。「もう大丈夫だ」と声をかけ、召喚した兵士たちに敵の掃討を命令した。



「ハルト、右にかなりの敵兵がいる。すぐこっちに雪崩れ込んでくるぞ!」


「それなら心配ない。もう手は打ってある」


「え!? 手は打ってあるって――」


「もう戦力は送ってるんだ。すぐに報告が上がると思う」



 ◇◇◇



 戦場を突っ切った装甲車部隊は、向かって来る敵と相対した。


 二千を超える敵の騎兵だが、兵士たちは淡々とハルトの命令を遂行する。車上の機関銃で狙いを定め、より近づいてくるのを待つ。


 兵士たちは阿吽の呼吸でタイミングを合わせ、一斉に掃射した。


 何百もの弾幕は、騎馬が進むことを許さない。騎馬は間断なく倒れてゆき、騎士も地べたに叩きつけられ、動くことができなかった。


 顔を上げようとすれば、鋼鉄の馬車が目前に迫る。



「うわああああああ!」



 ドルトル軍も、装甲車両を止めることは到底できない。



「ドルトル様!」


「どうした? そんなに慌てて」


「そ、それが、敵の集団がこちらに向かって来ます!」


「なに!? 援軍に送った兵はどうした?」


「わ、分かりません。しかし、あれは左翼から来た馬車かと……だとしたら、我が軍の兵は倒されたとしか……」



 部下の報告にドルトルは憤る。この程度の城攻めで不覚を取るなど、あってはならないことだ。 


 それだけに左翼のミストに対して、憤懣ふんまんやるかたない。


 

「くそ! 第二から第四の騎馬部隊で止めろ! これ以上醜態を晒すなよ」


「はっ!」



 命令通り騎馬部隊が出陣したのを見て、ドルトルは嫌な予感がした。アルマンド軍だけなら、なんの問題もない。


 だが、こちらに向かってくる敵は恐らくアルマンド軍ではないだろう。


 だとしたら、一体何者が……。そんな事を考えていた時、突如轟音が鳴り響く。


 出陣したばかりの騎兵が蹴散らされ、兵士たちの悲鳴がこだまする。


 数台の馬車が、大地を削りながら疾走してきた。ドルトルはよく見えなかったが、車上から何かの攻撃を行っている。


 ドルトル軍の兵士が地面に倒れ、のた打ち回る。


 更に空からは巨大な鳥のような物が、バリバリと音を立てやって来た。


 その光景を見たドルトルは、全身から血の気が引く。なんだこれは? なんなんだこの敵は!?


 巨大な鳥は大地に降り立ち、中から武器を構えた敵が降りてきた。


 帝国軍の兵士として、幾多の戦場におもむいたドルトル。


 その経験が言っている。この敵とは戦うなと。次の瞬間、ドルトルは考えるより先に叫んでいた。



「全軍、撤退! 撤退だ!!」



 ドルトルの号令に呼応し、騎兵隊は全員駆け出した。歩兵隊も慌てて後に続く。


 味方がどんどんやられているが、かまっている余裕はない。ドルトル軍は恥も外聞もなく、戦場から一目散に敗走した。


 

 ◇◇◇



 中央の敵をほぼ制圧したハルトとソウタは、逃げ出す大軍に目を止める。



「右の奴らだ。逃げ出しやがったか」



 ソウタが舌打ちして、敵の背を睨む。



「追いかけたいが、さすがに弾切れだ。【攻撃ヘリ部隊】を召喚すれば追いつけると思うが……」


「いや、やめておこう。作戦は予定通り成功した。魔力は温存しておいた方がいい。あんまり、こっちの手の内を見せたくないしな」


「そうか……分かった」



 逃げてゆくゴルタゴ兵の姿は、城の正面や城壁にいるアルマンド兵も、ハッキリと確認できた。


 戦場に残った敵兵も自分たちの敗北を悟り、ちりじりに逃げてゆく。


 アルマンド兵は勝利したことを確信し、割れんばかりの勝どきを上げる。


 自分たちが勝った。初めてゴルタゴに勝ったのだと。それは城の中にいた王族にも伝わり、リラは涙を溜めて喜んだ。


 アルマンド城の攻防。初戦はハルトたちの、完全勝利に終わった。



 ◇◇◇



「なん……だと……」



 ゴルタゴ軍本陣。膝まづくドルトルを見下ろし、こめかみに青筋を浮かべるテオドールの姿があった。



「敵にやられ、おめおめと逃げ帰ってきただと……」


「も、申し訳ありません。テオドール様」



 ゴルタゴ軍はこの戦いで二万二千もの兵を失い。残った兵も、その多くが負傷していた。


 それはゴルタゴ帝国の歴史において、まさに大敗だった。


 

「テオドール様、ここまで兵を失っては……」


「アルマンドの援軍も危険です。一旦引いて立て直すべきかと」



 後ろに控える将校が進言するものの、テオドールの怒りに火をつけるだけだった。



「戯言を言うな! アルマンド如きに敗北したなど、生き恥を晒せと言うのか!!」



 その場の誰もが凍り付く。


 それほどまでにテオドールの怒りは苛烈だった。しかし一人だけ、嘲笑いながら口を開く者がいる。



「ハハハ、やっぱりこうなりましたか。俺の言った通りでしょ?」



 数人の仲間を引き連れて現れたのは、サカグチだった。

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