第43話 圧倒
『ハ、ハルト様! さっきよりいっぱい来てますよ。突っ込んで大丈夫ですか!?』
「ああ、やることは変らない」
ハルトは兵士たちに弾薬の補給をするよう命令し、自身もMPを回復させるため、『ハイエーテル』を飲み干した。
MPは満タン近くまで戻り、準備は万全だ。
騎馬部隊にも銃撃が有効なのは間違いない。
向かってくる敵との距離は100メートルを切った。銃の射程としては充分。ハルトは大声で号令をかける。
「全軍射撃用意! 撃てぇーーーーー!!」
放たれる弾丸は、高密度の弾幕となってゴルタゴ兵に襲いかかる。騎士の鎧を無慈悲に貫き、前進することを許さない。
戦場を駆ける兵士たちは、なにが起きているのか分からなかった。気づけば仲間が次々と崩れ落ちている。
混乱する中、見れば敵の馬車が目の前に来ていた。
「うわああああああああああっ!!」
弾け飛ぶ馬と人。勇猛果敢な騎馬部隊だが、何トンもある鋼鉄の塊が相手では何もできず跳ね飛ばされる。
銃弾の嵐に加え、装甲車の突撃で何百という騎兵が死んでいった。
更にハルトは車両を呼び出す。
「召喚! 3 1/2tトラック四両!!」
8トン以上ある大型トラックが、
速度を上げ、眼前の敵を蹴散らしていく。その様子を、騎馬部隊の後方で見ていたミストは唖然とした。
「なんだ……あの馬車は!?」
近くで見て初めて分かった。馬車は鋼鉄でできている。
恐ろしい速度で走っているため、ぶつかればただでは済まない。しかも車上から、なにかを飛ばしている。
最初は矢を射ているのかと思ったが、まったく違った。
なにか別の物を連続して放ち、それに当たったゴルタゴ兵が為す術なく倒されていた。鋼鉄の馬車が、ミストの脇を横切ってゆく。
なにもできず、見送るしかできない。
走り去る間にも車上から攻撃が続き、ミストの側にいる兵士が悲鳴を上げながら、バタバタと倒れていく。
「ダ、ダメだ! 奴らを行かせてはならん!!」
今、城に行かせてはゴルタゴ軍に多大な被害が出てしまう。それはなんとしても避けねば。ミストはそう考え、残った兵を率いて馬車を追いかけた。
その時、大型の馬車の後ろから複数の兵士が顔を覗かせる。
何かと思えば、兵士は持っていた筒状の道具をこちらに向けた。けたたましい音と光の点滅が繰り返される。ああ、またあの攻撃だ。
ミストを守る騎士たちが倒れてゆき、最後はミストも視界が暗転し地に落ちた。
聞こえてくるのは怒号と蹄の音だけ。七千の兵を用いても、あの
部下たちが駆け寄り、ミストを助けようとするが、もはや誰の声も届かない。
最後に、ミストは弱々しく呟く。
「ドルトル……逃げろ……」
その後、部下たちがミストの言葉を聞くことはなかった。
◇◇◇
「来やがった!」
ソウタが声を上げると、アズサやマイも振り向いて、援軍を確認する。
「ハルト!」
「わ~ん、やっと来てくれたよ!」
もはや限界だった。倒しても倒しても、次々に襲ってくるゴルタゴ兵。
回復用のアイテムは使い切り、武器の耐久値も下がり続けていた。アルマンド兵に至っては、三千いた人数が一千にまで減っている。
敵の増援も強力な兵ばかり、もうダメだと思っていた所に、ハルトが来てくれた。
ゴルタゴ軍も異変に気づき始める。左を固めていたはずのミスト軍の姿がなく、十数台の馬車が向かって来る。
「なんだ? ありゃ」
ゴルタゴ兵の一人が眉を寄せる。あんな物が来るなど聞いていない。
敵なのか味方なのか困惑していると、胸になにかがぶつかった。なんだ? と思って見ると胸に穴が開き、おびただしい量の血が流れ出る。
「えっ!?」
気づけば周りにいる仲間たちも、同じように体に穴が開いてゆく。
頭に、顔に、肩に、胸に、腹に。馬もまた同じように傷ついていった。
戦場は大混乱となる。楽勝と思われていた戦いで、ゴルタゴ帝国の兵士たちは地獄を見ているのだ。
城の右に陣を敷いていた将軍ドルトルにも報告が入る。
「なに!? 左から敵の新手? ミストはどうした、奴の陣地だろう」
「それが……分かりません。敵を倒すために陣を出たとの報告もありますが、詳しいことはなにも」
「チッ、まったくなにをやってるんだ!」
ドルトルは苛立ちを見せるも、左翼に援軍を送ることにした。だが【装甲車部隊】は、すでに城の目前まで来ている。
「ソウタたちの近くにいる敵を排除する! そのまま進め」
十五両の車両が100キロ近い速度で突っ込む。鳴り響く機関銃の掃射音、離れた場所にいる敵も気づいた時には撃ち抜かれている。
「3 1/2tトラック二台と偵察警戒車二台は左側面へ、残りは中央を突っ切る!」
ハルトの命令通り、二台のトラックは城の左を囲う敵兵力へ向かわせる。ゴルタゴ兵の背後につけると、トラックの荷台から兵士が降りてきた。
一台につき19人。二台合計38人の上等兵が銃を構え、敵兵と相対する。
ゴルタゴ兵はなにか起きたのか分からず困惑していると、上等兵の一斉射撃が始まった。フルオートで撃ちだされた弾丸は、易々と敵の体を貫く。
「ぎゃあ!」「なんだ!?」「敵だ! 敵襲だ」
悲鳴を上げる敵兵たち。騎馬は馬ごと城の堀に落下し、歩兵も一撃で瞬殺される。
だが二千近い数の兵士を、たった38人で相手にするのは無理があった。弾幕を掻い潜り、何百人もの兵が襲いかかって来る。
その時、側面から銃弾が撃ち込まれる。一発の弾丸で、何人もの敵兵をまとめて貫ぬく。その弾丸が何十発も。
ハルトが送り込んだ87式偵察警戒車、二両だ。
最強の機関銃を搭載した87式偵察警戒車が、恐れ
更に上空から何かが降りてくる。ゴルタゴ兵が見上げれば、そこには二つのプロペラを回して、ホバリングしているV-22‟オスプレイ”の姿があった。
ハルトが決着をつけるため召喚した援軍だ。
後部ハッチを開けると、自動小銃を構えた数人の兵士たちが狙いを定める。
上空からの一斉射撃。銃弾の雨が降り注げば、馬上のゴルタゴ兵は悲鳴を上げて落馬していった。オスプレイはゆっくりと高度を下げ、着陸する。
中から24名の一等兵が降りてくると、オスプレイは光の粒子となって消えていく。
城の左側面は、38人の上等兵と二両の偵察警戒車、そしてオスプレイから降りた兵士たちで完全に制圧してしまう。
要した時間は、わずか数分だった。
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