第42話 鋼鉄の化物
城の左に展開したミスト軍。城壁の上には弓兵がいるが、大した数ではない。
特に問題はないだろう、と左翼の将ミスト・ホーネスは自信を見せる。
あとは粘って戦っているアルマンド兵を、右側面に回り込んだドルトス軍と挟撃すれば終わり。なんということもない、楽な仕事。
そう思っていたミストだが、左手から何かが来ることに気づいた。
「なんだ……?」
ミストは怪訝な顔をする。ゴルタゴ軍ではない。
だとすればアルマンドの援軍か? 見る限り大した数ではないようだが。
「ミスト様、いかがされますか?」
後ろにいた将校がミストに指示を仰ぐ。無視しても問題はないだろうが、アルマンド軍と戦う時、背を向ける格好となるな。
ミストは仕方なく、戦力を裂くことにした。
「千騎送れ、早々に倒して戻るよう伝えておけ!」
「ハッ!」
ミストの命令通り騎兵千騎が大隊から離れ、近づいてくる敵に向かって疾走する。
敵を倒すには充分過ぎる戦力だろう。この時ミストはそう考え、疑わなかった。
◇◇◇
「来たな……」
ハルトは
『ハルト様! パンパン撃って、やっつけちゃいましょう』
シルキーは軽い感じで言ってくるが、ハルトは真剣な眼差しで前を見ていた。
「いや……もっと引き付けてから撃つ。確実に当てないと」
機関銃なら充分攻撃できる距離だが、ハルトは慎重になる。弾も無限にある訳ではないので無駄使いはできない。
ゴルタゴ軍の騎馬隊との距離が詰まる。
全ての車両はいつでも射撃できる態勢だ。ジリジリとした空気が張り詰める。
敵との距離が100メートルを切った時、ハルトが叫ぶ。
「今だ! 撃てええぇぇ!!」
車上に設置された機関銃が一斉に火を噴く。
鳴り響く掃射音、飛び散る薬莢、一分間に数百発発射される弾丸が、容赦なくゴルタゴ兵に襲いかかる。
馬に当たれば、苦し気な鳴声を上げ、その場に転倒。後続を走る馬が避けきれず、次々と落馬していった。
装甲車両の中でも87式偵察警戒車(通称ブラック・アイ)は、特にえげつない戦果を見せた。車体前方に取りつけられたエリコンKB25mm機関砲は、全装甲車の中で最強の威力を誇る。
使われているのは25x137mm徹甲弾。航空機や戦車の装甲を貫くためのものだ。
甲冑を着た人間など話にならない。体に当たれば易々と貫通し、馬と人を一撃の元に殺した。
73式小型トラック一型は、通称『ジープ』と呼ばれる車両。
取り付けられたブローニングM2重機関銃の他に、乗っている二人の兵士が20式5.56mm小銃を構え銃撃している。
最も多い銃弾を放つトラック四両が、戦場の敵を蹴散らしていく。
その他の車両も容赦なく銃撃していた。頭に当たれば即死、馬に当たれば落馬、体に当たっても重傷は免れない。
相手に取っては、阿鼻叫喚の地獄絵図。
千騎の部隊を任された、ゴルタゴ軍の将校ランバルドは何が起きているのか分からなかった。
走り続けるにつれ味方の兵士が落馬し、どんどん減ってゆく。
「なんだ!? どうしたというのだ?」
眼前にいる敵は、馬車のような乗り物で向かって来る。だが、その速度は尋常ではない。
単騎の騎馬より、速いように見える。
ランバルドは言葉にできぬ恐怖を感じていたが、ここで引き返す訳にはいかない。
「全軍、怯むな! 一気に距離を詰め叩くぞ!!」
「「おお!!」」
ランバルドの号令と共に、全軍が突撃した。
だが、彼らはすぐに後悔することになる。目の前にいるのは鋼鉄の化物。
生身の人間がどうにかできる代物ではない。
『ちょ、ちょ、ちょっと、ハルト様! ぶつかっちゃいますよ!!』
シルキーがあたふたして目を見開いた。
騎馬部隊が目前に迫る。機関銃の一斉掃射で数百騎の騎馬が倒れていたが、残った騎兵が構わず突っ込んできた。
「このまま突っ切る!」
ハルトの命令に従い、各車両は減速せず、アクセル全開で騎兵に向かう。
車上に取りつけられた機関銃が唸りを上げる度、ゴルタゴ兵は悲鳴を上げて馬ごと崩れ落ちていく。
そして残った騎馬には、装甲車で体当たりをした。
跳ね飛ばされる馬と人。「うわっ!」「ぎゃっ!」「あぶあっ!?」悲鳴と共に、フロントガラスにつく血飛沫。
ハルトはソウタたちを助けるため、こんな所で
かなり凄惨な光景だが、襲いかかってくる敵に容赦する訳にいかなかった。
何十体もの騎馬を跳ね、スピードを落とさずアルマンドの城へ向かう。だが、尚も食い下がろうとする敵が、諦めず追いかけて来た。
82式指揮通信車や73式小型トラックも、後ろの敵に向け一斉掃射した。
もはや馬に乗っている者はいない。全員が落馬し、動かなくなる。
ハルトは前方を見た。本番はここからだ。城の前でアルマンド軍に襲いかかる三万近い敵を、なるべく多く倒さなければならない。
「待ってろよ、ソウタ、アズサ、マイ。今から行く!」
速度を上げ、遠ざかっていく車両。それを血だらけになって地面に倒れるゴルタゴの将、ランバルドが見ていた。
乗っていた馬は死に、自分の体には何カ所も穴が開いている。
もはや立つこともできない。敵を止めることができず、全て行かせてしまった。
「なんなんだ……あれは……」
ランバルドは意識が遠のき、その場に力なく倒れた。
◇◇◇
「ミスト様! ランバルド様の兵が……」
部下の言葉にミストが振り返ると、先ほど見た敵の馬車が悠然と向かって来る。
ランバルド軍の姿はない。
「まさか……ランバルドが
ミストは驚愕した。千騎の兵を、この短時間で倒すなど信じられない。改めて敵を見る。
向かって来るのは恐らく
それに馬が見当たらない。どうやって走っているのだ?
疑問を並べればキリがないが、自分が相手を侮っていたことだけは間違いない。
「奴らを叩く! 第一から第七部隊まで、私についてこい!」
「ハッ!」
ミストは城を囲んだ二千の兵を残し、七千の兵を引き連れて打って出た。
アルマンドの城はドルトル軍だけでも落とせる。だが、こちらに向かってくるあの敵は危険だ。ミストの将軍としての直感が、そう告げている。
ミストは
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