第41話 出陣
「ナルサス様ーーー!!」
アレスが慌てて駆け寄り、馬を止めてナルサスを降ろす。
もはや呼吸はしていない。なぜ、なぜこんなことに? アレスは自問自答するが、答えが出るはずもなかった。
敵の攻撃なのは明らか。ここから退避せねば。
そう思ってアレスは側にいる兵士に命令する。だが、ここはスナイパーの射程内。
ナルサスが不用意に近づいたため、だれが将なのか判別できる距離だった。
アレスがナルサスの遺体を馬に乗せ、下がろうとした時、城壁の上から一発の弾丸が放たれる。
その弾は回転しながら、まっすぐに向かってきた。
アレスの意識がプッツリと途絶える。彼は最後までどうやって攻撃されたのか理解することができなかった。
◇◇◇
「一体、なにをしておるのだ。ナルサスは!」
腕を組み、自陣で報告を待っていたテオドールは、敵城制圧の知らせが未だこないことに苛立っていた。
周りにいる将校たちも、ピリピリとした空気を感じ、一様に押し黙る。
そんな折、戦場から早馬が来たと報告が上がった。
「やっと来たか……」
テオドールは重い腰を上げ、軍用テントから出て報告にきた兵士の元までゆく。
跪き、頭を垂れているのはナルサス軍の兵士だった。
「ご、ご報告申し上げます!」
「ふむ、敵の城は落ちたのであろう? 全軍で入城せねば――」
「い、いえ、それが……」
兵士の様子がおかしいことに、テオドールを始め、その場にいた者たちが気づきだした。兵士は額に脂汗をかき、蒼白な顔をしている。
「どうしたというのだ?」
浅い呼吸を繰り返す兵士が、意を決したように口を切る。
「ナルサス様、副将のアレス様、共に……共に戦死されました!!」
その場の空気が凍り付く。一軍の将が殺されたというのであれば、それは戦の敗北を意味する。
俄かには信じられない言葉に、テオドールは当惑した。
「バカな……殺されただと……あの程度の軍勢に……」
そんな時、テオドールに向かって歩いてくる影がある。
「やはりダメでしたね。我々の言う通り手強いでしょう? 奴らは」
それは国王から派遣された〝サカグチ″と名乗る冒険者だった。ニヤニヤと薄笑いを浮かべ、挑発するようにテオドールに話かける。
「いつでも力を貸しますよ。将軍」
「黙っておれ! 貴様らに出番などないわ!!」
テオドールが睨みつけると、サカグチはおどけるような仕草を見せる。
「ドルトルとミストの軍を出撃させよ! 時間をかけず、一気に叩き潰すのだ!」
「ハッ!」
テオドールの命令に、部下が慌ただしく動く。すぐに二つの軍が動きだした。
ドルトル軍、ミスト軍、計2万の軍勢が平原を駆ける。未だ混戦状態になっている城門前の戦場に向かって。
◇◇◇
「やっと来やがった!」
ソウタが敵兵の攻撃を払い除け、平原に目を移す。
そこには地を埋め尽くす大軍が、土煙を上げながら向かってくる。ソウタは自分のウインドウを開き、出撃した敵軍を確認する。
「合計……2万か。よし!」
「ソウタ!」アズサも向かって来る敵の大軍に気づいた。このために必死で耐えていたんだ。そう思い、ソウタに次の指示を仰ぐ。
「もっと相手を引き付けるんだ! まとまってれば、ハルトが攻撃しやすい」
「分かった!」
アズサがマイに伝え、二人で力を合わせ敵を押し返す。
アルマンド軍も力を振り絞り、踏ん張っていた。アルマンドの将カイマンには、細かい作戦は伝えていない。
リラから最大限協力するよう言われているだけだ。
「アルマンド軍を城の中に避難させたいけど……そんな余裕はないな」
そんな事をソウタが考えている間に、2万の軍勢は目前まで迫っていた。カイマンやアルマンド兵たちも、敵の援軍に気づき始める。
それは絶望的な戦力差。
1万の軍勢を足止めするだけでも奇跡に近いのに、今度はその倍だ。
アルマンド軍の兵士たちに、悲観的な空気が広がる。
それでも戦うことをやめる兵士は現れない。
自分たちの国のため、忠誠を誓った君主のため、貧しい国でも必死に生きる国民のため、そして自分たちの誇りのため。
力の限り、最後の瞬間まで戦い抜く。
アルマンド兵全員が、覚悟を持って死力を尽くす。だが、その思いを残酷に飲み込むように、敵の大兵団が襲いかかってきた。
左右に別れたドルトルとミストの軍2万が、アルマンド兵を囲い込むように陣形を展開する。もはや誰の目にも勝敗は明らかだった。
だが、次の瞬間―― ソウタは自分のウインドウに向かって、大声を張り上げる。
「今だ! ハルトーーーーーーーーーーーーー!!」
グループ通話機能を利用し、1キロ先にいるハルトに合図を送る。
それは瞬時に届いた。
「きた!」
ずっと開いていたウインドウから、ソウタの絶叫が響き渡る。ハルトは木の陰から飛び出し、手を前に向けて叫んだ。
「召喚!
厳つい装甲車が姿を現す。後部のハッチが開き、ハルトが飛び乗った。
『ま、待って下さい! ハルト様~』
シルキーが慌てて追いかけるが、車は発進。『ひいいい』と悲鳴を上げながら、シルキーは必死に羽をバタつかせ、なんとか車内へ飛び込んだ。
『ゼィ、ゼィ、ハア……ハア……ハルト様、ひどいです。置いていくなんて……』
「時間がないんだ。かまってられないよ」
至極あたりまえのように答えるハルトを、鬼のようだとシルキーは思った。
「召喚! 【装甲車部隊】!!」
走行する
更に左右に、73式小型トラックが2両づつ展開。87式偵察警戒車も両翼に配備された。
召喚された車両は合計11両。
並走する鋼鉄の車体は、城を包囲する大軍勢に向けて速度を上げていく。
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