第37話 イレギュラーな参加者
「なんだ、なんだ。なんの騒ぎだ?」
ギャアギャアと騒ぐ、マイとシルキーを見てソウタが眉根を寄せる。
「ナビゲートAIの〝シルキー″じゃないか。なんでこんな所にいるんだよ?」
当然の疑問だよな。と思い、ハルトが説明しようとすると『ああ! あなたがソータですね!』と何故かシルキーは、怒りの矛先をソウタに向けてきた。
ソウタの頭の周りを飛び回り、光の粉を撒き散らす。
『ハルト様と一緒に旅をするのは私の役目なんですよ! それを余計な知識を使って邪魔をするなんてー!!』
そう言ってシルキーはポコポコとソウタの頭を殴り始めた。ソウタはうっとうしそうに手で払い除けようとする。
「いたたた、なんだ!? ハルト、説明してくれ!」
「いや、話すのも面倒なんだが」
ソウタの手がぺちんと当たると、シルキーは『ぎゃあ』と叫びながらクルクルと回転して吹っ飛んでいった。
地面に落ちる寸前に体勢を立て直し、よろよろと浮き上がり戻ってくる。
「ああ、悪い。ちょっとびっくりしたもんだから……」とソウタが謝るが、シルキーは死んだ魚のような目をしながら、ソウタを睨みつけた。
『私の役割が……ブツブツ……データを取らなきゃいけないのに……ブツブツ……無能だと思われたら……ブツブツ……暴力男め……』
「なんかブツブツ言ってて怖いんだけど」
「いつものことだから気にするな」
四人はシルキーを無視して、それぞれ準備に取りかかった。
「この正面の城壁にスナイパーを配置しておくよ」ハルトはそう言って召喚を使い、10人の狙撃手と5人二等兵の【スナイパー部隊】を、その場に出現させた。
「うわ! これがハルトの召喚か、話には聞いていたけど凄いな」
アズサが目を丸くして、マイと一緒にまじまじと兵士たちを観察する。
「助かるよハルト。こいつらに援護射撃してもらえれば、戦いはかなり楽になるだろうからな」ソウタはニカリと笑みを漏らす。
「気をつけろよソウタ、俺が助けに行く前にやられるなよ」
「ああ、分かってるさ!」
四人が自分たちの配置につこうとした時、後ろで申し訳なさそうに控えていたリラが口を開く。
「み、皆様、少しだけよろしいですか?」
「どうした、リラ」と、ソウタが心配そうに声をかける。
「な、情けない話ですが、本当は諦めていました。もう何をやっても、国が滅びるのは変わらないだろうと……」
リラは目を閉じ、自分の言葉を噛みしめるように俯いた。
今まで抱いてきた苦悩が見て取れる。それでもハルトたちに感謝を伝えるため、再び顔を上げる。
「皆様のおかげで、もう一度希望を持つことができました。ありがとうございます」
まだ幼いリラが見せる笑顔に、ハルトたちも顔が綻ぶ。
なんとしてもクエストを成功させたい。自分たちのためだけじゃなく、自分たちに期待してくれたリラのためにも。
「どうか皆様、ご武運を!」
「おうよ!」
「ああ」
「任せて」
「がんばるからね~!」
四人は自分の持ち場へと移動する。シルキーだけが『ん? 今、クエスト中ですか?』とウインドウで確認し始めた。
ハルトが小走りで城壁塔の階段から降りてゆくと、シルキーは慌てて『ハルト様! 待ってくださ~い』と言ってついていく。
かくして、中級クエスト【アルマンド公国を防衛せよ!】が幕を開けた。
◇◇◇
アルマンドの王城を視界に捉える平地。そこに集まった五万の軍勢。
指揮を任されたのはゴルタゴ帝国軍大将、テオドール・ゴドーだ。屈強な体躯に、長く伸びた顎髭を蓄え、鋭い眼光で戦場を見渡していた。
「テオドール様、城の跳ね橋が下ります。奴ら打って出るようですね」
遠眼鏡で城の様子を窺っていた部下の報告に、テオドールは「ふんっ!」と鼻を鳴らし、冷めた目で城を見据える。
「くだらん! 大した兵もいない弱小国が、さっさと降伏すればいいものを」
「いかがいたしましょう?」
「ナルセスの軍一万を送り込め。それで終わりだ」
テオドールはつまらなそうに後方へと下がる。軍の野営地に置かれた椅子にドスンと腰を下ろし、大きな溜息をつく。
アルマンド攻略戦の最終段階。本来なら士気は高まるはずだが、相手に手応えがなさすぎて感情の高ぶりはまるでない。
ナルセスがアルマンド軍を制圧すれば、後は入城するだけ。
ゴルタゴ帝国軍の中でも猛将として知られるテオドールとしては、実に退屈な仕事でしかなかった。
自分は、ただ待てばいい。そう思っていたが、
「テオドール様、帝国からの使者と名乗る者たちが来ております」
「なに?」
部下の言葉に、テオドールは訝しがる。戦争を始める直前に使者だと? 普通ならありえないことだ。
椅子に座っていたテオドールは立ち上がり、野営地の東側からやってくる集団に目を向ける。それは五十人ほどの武装した男たちだ。
「テオドール将軍。お初にお目にかかります」
先頭に立って歩いていた漆黒の甲冑を着た男が、テオドールの前で膝を着き、頭を垂れて挨拶する。
「何者だ!? なんの用があってここへ来た?」
「テオドール様の援軍としてやってまいりました。ここに王より賜った書簡がございます」
男が持っていた封書を受け取り、テオドールは中身を確認する。そこには送り込んだ五十名の援軍と共に、アルマンドを攻略せよといったものだった。
「確かに王の書簡だな。間違いない」
「では我々を――」
漆黒の甲冑を着た男はニヤリと笑みを見せるが、テオドールの反応はひどく冷たいものだった。
「せっかくの王のご厚意ではあるが、必要なかろう。相手は五千の兵力も持たぬ弱小国、尖兵だけで問題なく殲滅できるわ」
自信を見せるテオドールだったが、甲冑の男は不敵に笑って進言する。
「テオドール様、向こうには変わった能力を使う援軍がおります。無策で挑めば、手痛い反撃を受ける可能性があるかと」
「なに!? そんな情報は初めて聞くぞ。本当なのか?」
テオドールは顔をしかめ、甲冑の男を睨みつける。
「ご安心下さい、テオドール様。我々は相手と戦う準備をしております。もし予想外の敵が現れましたら、是非お任せ下さい」
「ふん、いいだろう。それで貴様の名は?」
「はい、〝サカグチ″とお呼び下さい」
彼らは全員プレイヤー。アズサやマイに絡み、ハルトによって叩きのめされた者たちが仲間を連れて戻ってきた。
ハルトに復讐するために。
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