第36話 部隊再編制
「それに87式偵察警戒車か……」
「これも装甲車か?」
「ああ、だが今までの装甲車とは違う所がある」
「どこが違うんだ?」
「今までの車両は、機関銃が車体上部に設置されてた。そのせいで兵士が社外に出て撃たなきゃいけなかったんだ」
「まあ、そうだな。生身で外に出るのは危ないよな」
「だが、こいつは違う。機関銃が車体の前方に付けられて、車内から銃撃できる。攻防一体の作りで、今回のような大規模戦では絶対有利だ!」
「そうか……四両もあるし頼もしいな。あとはトラック4両とオスプレイ2機か」
「この二つはどちらも輸送用だな。だが一等兵48人と、上等兵88人のフル武装した兵士は恐ろしすぎる」
確かにソウタの言う通り、これほどの人数が一斉射撃すれば相当な火力になるだろう。それだけに、次の戦いでは活躍が期待できた。
相手の戦力は五万。数こそ劣るが、こちらは一人100発以上の弾丸を持っている。
うまくすれば大量の敵を倒せるかもしれない。
「じゃあ、部隊の〝再編″をする。保留になってたC-17大型輸送機とレッド・スコルピオンは独立した分隊扱いにしてっと」
ハルトは獲得した戦力を、ソウタの意見も参考にしつつ、それぞれ適材適所と思われる場所へと振り分けてゆく。
「これでどうだ?」
出来上がった『編成』を、ソウタに見せると「どれどれ」と言って、ソウタはウインドウを覗き込んだ。
【レッド・スコルピオン】[分隊]
軍曹 5名
【大型輸送機C-17】[分隊]
搭乗員 4名
【スナイパー部隊】[小隊]
狙撃手一等兵 10名
一等兵 20名
【砲撃歩兵部隊】[分隊]
二等兵 15名
【装甲車部隊】[中隊]
82式指揮通信車 1両
軽装甲機動車 2両
73式小型トラック 4両
輸送防護車
3 1/2tトラック 4両
二等兵 24名
上等兵 80名
【戦車部隊】[小隊]
M1A2 エイブラムス戦車 1両
レオパルト2A6戦車 2両
10式戦車 4両
16式機動戦闘車 2両
中距離多目的誘導弾搭載高機動車 2両
87式偵察警戒車 4両
搭乗員 56名
【攻撃ヘリ部隊】[中隊]
AH-1Z「ヴァイパー」1機
AH-64 アパッチ 2機
UH-60 ブラックホーク 2機
V-22 オスプレイ 2機
搭乗員 6名
一等兵 56名
「うん、いいと思うぜ。中隊が二つあるってことは、ハルト自身の階級も上がったんじゃないか?」
「え? そうかな」
ハルトはウインドウ画面を一つ前に戻し、自分の階級を確認する。
碓氷ハルト 称号【大隊指揮官:中佐】
「あ、本当だ! 大隊指揮官になって、階級も『中佐』になってる」
「やっぱりな。中隊が二つ以上あって、兵士数が合計300を超えてるなら、ギリギリではあるけど大隊として認められたんだ」
「ステータス補正で、MPがプラス20%増になってる。これなら……」
「ああ、明日のクエスト、本当に勝てるかもしれない! たった四人でクリアしたら新記録かもしんねーぞ!」
ソウタは気を良くしたのか「おねーさん、DXパフェ2つ! ハルト、俺のおごりだから遠慮なく食え!」と、意味のない注文をして金を払った。
ハルトが呆れた顔をすると、「いや、このパフェやコーヒー、HPやMPを少し回復してくれるらしいぞ。まったくの無意味って訳でもないんだよ」と笑う。
ハルトはHPもMPも今は満タンだろうと突っこもうとしたが、それこそ無意味だと思い、運ばれてきたパフェを無言で平らげた。
◇◇◇
アルマンド公国――
大陸の東南に位置し、かつてはそれなりの領土があった。
だが、度重なる帝国の侵略により、今では王城がある一領地しかない最小国へと成り下がる。
それでもアルマンドの植民地化を進める帝国は、手を緩めることなく、最後の侵攻を行おうとしていた。
「うほーいるね! いるいる」
ソウタは城壁の上に立ち、眼下に見える平地を見渡す。そこにはゴルタゴ帝国の軍、総勢五万が壮観に並んでいた。
「あれ全部と戦うのか……」
「ひええええ、絶対ムリだよ~」城壁の上でゴルタゴ兵を見たアズサとマイは、あまりの数に改めて
「大丈夫、大丈夫。このハルト君に任せたまえ!」ソウタはハルトの肩をパンパンと叩いて、余裕だろ? みたいな顔をしてくる。
「
ハルトがジロリと睨むと、ソウタは「そんなことないよ」と笑って、お茶を濁す。
「まあまあ、ハルト。そんなピリピリすんなって、さっきの王様との謁見の方がよっぽど緊張したぜ」
ソウタが「なぁ」と気軽に声をかけたのは、一緒にいたリラだ。
「は、はい、父や母も喜んでおりました。最近は助けを求めても、なかなか冒険者の方が来てくなかったので、皆様は本当に最後の希望です!」
リラの心の底からの感謝に、ハルトたちは意気込みを新たにする。
「じゃあ、さっそく作戦に入るとしよう……ハルト、あそこにある木が見えるか?」
ソウタが指さしたのは、正面に見えるゴルタゴ兵の右。起伏のある平地に、小さな木々がならんでいる。
「回り込んでいけば、敵に見つかる心配はないだろう」
「あそこに隠れて兵士が集まるのを待てばいいんだな。攻撃を仕掛けるタイミングはどうすればいい?」
「それなら俺が合図するよ。俺たち四人はグループを組んでるから、ウインドウを通じて会話できるんだ」
それを聞いたハルトとアズサ、マイはウインドウを開いて確認する。
ピコン、ピコンと点滅するアイコンをタップすると、お互いに会話することができた。ゲーム内でスマホを使っているようだと、みんな笑ってしまう。
そんな時、ハルトはウインドウでむさ苦しく光るアイコンに気づく。
「これは……」
ハルトはそのアイコンを押したくなかったが、押さないと後からうるさそうだと、仕方なくタップした。
ウインドウから光が溢れ出し、キラキラと舞い上がる。
パンッと光が弾けると、中からシルキーが現れた。
「ちょっとーーーーっ! ハルト様、なんで呼んでくれないんですか!?」
腕をおもいっきり伸ばし、怒りを表すシルキー。それを見てマイが反応した。
「また来たの? いなくてもいいのに!」
マイの軽口にシルキーはぶち切れ『うるさいブス!』と言ってマイと喧嘩になる。
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