第33話 作戦会議

「あ! 来た来た。ハルトだ」



 ガーナの町の宿屋の前。待っていたのはアズサとマイだ。


 ハルトを見つけるなり、笑顔で手を振ってきた。



「紹介するよ。友達のソウタだ」


 

 ハルトに紹介されたソウタは「コホンッ」と一つ咳をして前に出る。



「ソウタだ。職業は重戦士でレベルは56、このゲームはそこそこやり込んでるから、分からないことがあったらなんでも聞いてくれ!」



 アズサが前に出て、ソウタと向かいあう。



「君がソウタか、ハルトから話は聞いている。頼もしい仲間ができて嬉しいよ」



 アズサとソウタが、がっしりと握手をする。どちらも力強い戦士なだけに、握手しただけでも凛々しく様になっていた。


 ソウタは隣にいたマイとも握手を交わす。



「重戦士って〝上級職″だよね! 凄いよソウタさん」


「ソウタでいいよ。歳は変わらないって聞いてるし」


「分かったよ。よろしく、ソウタ!」


「ああ、よろしく」



 ハルトは、アズサから自分たちと同じ高校二年生だと聞かされていた。


 そのため敬語は使わず、ため口で話そうと言っていたのだが、ハルトは少なくともアズサは年上なのではないかと思っていた。


 しかし、実年齢は開示されない個人情報。


 本人が高校二年生と言うのなら、それを信じるしかない。



「じゃあ、入ろうか。王女様がお待ちだよ」



 アズサが宿屋に入り、マイが続く。ハルトがソウタを見ると、親指を立てて笑いかけてきた。どうやらアズサとマイの事を気に入ったようだ。


 ハルトは小さく微笑んで、ソウタと一緒に宿へと入った。



 ◇◇◇



「さて、作戦会議だ」



 ソウタの言葉に、他の三人も頷き耳をそばだてる。ダイニングテープルには大きな地図が広げられていた。


 それはアルマンド公国の王城を中心とした地図だ。


 そしてソウタの傍らには、そのアルマンド公国の王女、リラが立っていた。



「以前はもっと大きな領土だったんです……。でもゴルタゴ帝国の侵攻によって、今ある領土はこの地図に示された、西南のカンザス地方のみ……」



 リラは言葉を切ると、俯いて瞼を閉じる。だが気を取り直すように再び口を開いて語りだした。



「残された王城が落ちれば、アルマンド公国は滅亡します。どうか皆様、アルマンドを……アルマンドの国民を、お救い下さい!」



 リラは金の髪をかすかに揺らし、青い瞳を潤ませて懇願した。


 まだ十五にも満たない子供なのに、こんなにもしっかりしていることにハルトたちは感心する。



「大丈夫だ! 心配するなリラ、俺たちがなんとかするからさ!」



 ソウタが笑顔でリラを励ます。アズサやマイ、ハルトも頷いて同意した。


 

「さてさて、そのためには戦い方が重要になってくる! まともに戦えば、勝ち目がないのは明らかだからな」


「戦力差はどれくらいなの?」



 アズサの質問に、ソウタはウインドウを開き、過去ゴルタゴ帝国が送り込んできた兵隊の規模データを見る。



「今回の侵攻でどれくらい来るかは分からないが、アルマンド攻略の最終戦。そう考えると今までの最大戦力、五万以上の兵力で来るのは間違いないだろう」


「五万……」



 ハルトは途方もない数字を口にして噛み締める。五万の兵士など、実感を持って想像できない。



「それに対して、アルマンドの兵力は三千しかいない。城攻めは攻める方が三倍の戦力が必要だと言われるが、十六倍以上の差では話にならない」



 リラは申し訳なさそうに俯く。それを見たソウタが慌てて「まあ、それをひっくり返すのが腕の見せ所なんだけどな!」とフォローする。



「具体的にどうすればいいの?」アズサが真剣な面持ちでソウタに聞く。


「そのためにハルトの力が必要なんだ」



 ソウタの言葉で、全員の視線がハルトに集まる。



「ハルトが銃を使えることは知ってるが、それだけじゃ勝てないだろ?」


「そうだよ! 相手は五万人いるんでしょ?」



 アズサとマイが否定的な意見を言うも、ソウタは首を横に振る。



「いや、ハルトは召喚魔法も使えるんだ」


「召喚魔法!? 銃を使うだけじゃなくて?」



 アズサが驚く。それは召喚術士が〝最上級職″であることを知っていたからだ。


 【剣と魔法のクロニクル】では、最初に選べる『基本職』と基本職がレベル99になってから選べる『上級職』。


 そして上級職を極めた後なることができる『最上級職』がある。


 このことは公式に発表されていたが、最上級職に至ったプレイヤーは、まだ世界に数人しかいなかった。


 その中でも『召喚術士』は、誰もなったことのない激レアの職業だ。



「すごーい! 初心者の私たちでも召喚は珍しいって知ってるのに、ハルトはそんなこともできるんだ! それなら絶対勝てるよ」



 マイがぴょんぴょん跳ねながら喜ぶ。リラはよく分かっていないようだが、マイにつられて同じように喜んだ。   



「待てくれ! 例え召喚魔法が使えたとしても、それだけで戦況がひっくり返せる訳じゃないだろ!? それはソウタだって分かってるはずだ!」



 アズサが窘めると、ソウタも頷いた。



「確かに召喚魔法が使えるだけじゃダメだ。勝つためには俺とアズサ、そしてマイの三人の働きが重要になる」


「どういうこと?」



 マイが目をしばたかせる。レベルの低い自分にできることがあるだろうか? と疑うような気持ちでソウタを見た。



「これを見てくれ」



 ソウタが指で差し示したのは、テーブルに広げられた地図の中央。


 そこにはアルマンドの王城の対面、広い草原に陣取った敵を表す無数の駒が置かれていた。全員が地図を覗き込む。


 

「敵の陣地か……でも、それがどうしたんだ?」



 ハルトが不思議そうな顔をすると、ソウタが「ちっちっち、ハルト君、ここが大事なんだよ」と、おどけた様子で言ってくる。



「いいか、ハルトの火力を最大限発揮しようと思ったら、相手が集まった所で一気に叩く必要がある。つまり、どうやって大勢の敵を引き付けるかが重要なんだ」


「ちょっと待ってくれ」ソウタの話に、ハルトが異議を唱える。


「ここに相手の兵力が集まってるんだろ!? だったらそこに突っ込んでいけばいいじゃないか」



 ハルトは地図に置かれた敵の駒を指差し、ソウタに抗議する。だがソウタは冷静に説明した。



「このクエストは、あくまで『防衛戦』なんだ。俺たちは守る側、相手が攻撃に出てこない限り、こちらから攻撃できない」


「じゃあ相手が攻めてこないと、なにもできないってことか?」


「そういうこと。それがルールだ」



 ハルトは黙って考え込む。確かに、こちらから攻撃できないのは大きなデメリットだ。ハルトの『軍人アーミー』は完全に攻撃型の職業、守りに向いているのかは分からない。



「いや、そうだとしても」アズサが口を挟む。


「攻めてこないと攻撃できないのは分かった。だけど相手は五万の兵力で一斉に攻めてくるんじゃないのか?  その時ハルトが迎え撃てば……」


「それはない」



 アズサの意見を、ソウタはバッサリと切り捨てた。

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