第28話 特殊部隊
ハルトと盗賊の間に、光り輝く魔法陣が出現した。
馬は驚き、前足を跳ね上げ止まってしまう。突然の出来事に、武器を構えた男たちも怯んでいた。
魔法陣から現れたのは一台の1/2tトラック。
車には五人の兵士が乗っている。
「こいつらが……」
「よう、大将。俺たちに何の用だ?」
ハルトは驚く。兵士が初めて言葉をしゃべったからだ。話しかけてきたのは助手席に座る短髪の男。
恐らく、こいつが隊長のカイゼルなんだろう。
「俺たちゃ、あんたの手下だ。何でも言ってくれ、命令には従う」
殊勝なことを言っているように聞こえるが、カイゼルはガムをくちゃくちゃと噛みながら、半笑いでハルトを見ている。
他の隊員も薄ら笑いを浮かべ、およそ忠誠心があるようには感じないが――
「まあいい、命令だ。そこにいる盗賊たちを倒せ!」
カイゼルは振り向いて盗賊の姿を確認すると「ああ、分かったぜ大将。仰せのままに」と言って、一人車から降りた。
不思議なことに、他の隊員は車から降りようとしない。
ある者は鼻歌を歌いながら景色を眺め、ある者は自分の銃の手入れをする。中には雑誌を読んで笑っている者までいた。
「なんなんだ? こいつらは……」
怯んでいた盗賊たちも、たった一人で向かってくる兵士に苛立ちを表す。
「おい、野郎ども! なめてる奴らをぶち殺すぞ!!」
「「「おおっ!!」」」
リーダーの男を筆頭に、盗賊が一斉に襲い掛かってきた。狙われたのは一人で無防備に歩いてくるカイゼルだ。
カイゼルは相変わらずガムを噛みながら、腰にある二丁の拳銃をゆっくりと抜く。
ハルトがウインドウで確認すると、カイゼルの持つ武器が表示された。
[装備 デザート・イーグル(50AE)×2]
迫り来る盗賊を見て、カイゼルは口の端を吊り上げる。
銃口を向け、引き金を絞る。発射された50アクションエクスプレス弾は、拳銃で撃つことのできる弾丸の中で最強クラス。
弾丸は、盗賊のリーダーが乗る馬の脚を撃ち抜いた。
馬はガクンと体勢を崩し、そのまま転倒してしまう。乗っていた男は投げ出され、地面に激しく体を打ちつけた。
「があっ!」
呻き声を上げ転がる男を横目に、カイゼルは次々と迫って来る騎馬の脚も撃ち抜いた。馬は倒れ、乗っていた男たちは容赦なく地面に叩きつけられる。
走って襲ってくる盗賊たちも、次々に銃撃していく。
足や肩を撃ち抜かれ、悲鳴を上げながら男たちは倒れていった。拳銃の弾が無くなると、カイゼルは銃をホルスターに収め、代わりにサバイバルナイフ二本を抜く。
「くそったれ!!」
盗賊が振り下ろした剣を易々とかわし、カイゼルはナイフを相手の肩口に突き立てた。もう一本のナイフで腰を切り裂くと、盗賊は絶叫しながら崩れ落ちる。
「この野郎!」
「ぶっ殺してやる!!」
残り二人。同時にカイゼルに襲いかかるが、彼らが何度剣を振るってもカイゼルにはかすりもしない。
逆に盗賊は腕や足を切りつけられ、一人は情けない声を上げ倒れる。
最後に残った男が「ひい」と言って怖気づき、背を向けて逃げ出した。カイゼルはつまらなさそうにナイフの刃を持つと、そのまま投擲。
ナイフは、男の太ももの裏に深々と突き刺さる。「ぎゃあ!」と悲鳴を上げ、男はその場にうずくまった。
カイゼルはたった一人で、あっと言う間に十五人の敵を倒してしまった。
「すごい……」
殺すことなく、相手を無力化するなんて……。これが〝軍曹″の力なのか。
ハルトが感心する中、カイゼルは振り返って不敵な笑みを浮かべる。
「さあ、お前ら。お楽しみの時間だ!」
カイゼルの言葉を聞いて、何もしていなかった四人の隊員が車から降りてきた。
何をするんだろうと、ハルトが思っていると、隊員たちは銃を抜いて、倒れている盗賊を撃ち始めた。
それもワザと急所を外し、死なないようにいたぶっている。
「ぎゃあああああ! や、やめてくれ、俺が悪かった!」
盗賊のリーダーが悲鳴を上げ、助けを求める。だがカイゼルは構うことなくナイフで腕や足を刺してゆく。
ニヤニヤと笑いながら、楽しんでいるようだった。
「やめろ! 何してるんだ!?」
ハルトが語気を強めて、カイゼルを制止する。
「ああ? 何って、大将の命令通りこいつらを倒してるだけだろ?」
「いたぶる必要がどこにある!」
憤慨するハルトに、カイゼルはやれやれと
「これが俺たちのやり方なんだよ。口を出さないでもらえるか、大将」
見れば他のレッド・スコルピオンの隊員も、それぞれ盗賊たちを痛めつけていた。辺りからは悲鳴と泣き声が聞こえてくる。
あまりに凄惨な光景に、シルキーも『ひ~』と言って目を覆う。
「もういい!」
ハルトはウインドウにある【レッド・スコルピオン】の文字をタップして、部隊を強制的に送還した。
カイゼルや他の隊員たちは、光りの粒子となって消えていく。
「消費MPが多いだけで、ろくでもない連中だ!」
『ほ、ほんとに感じの悪い人たちでしたね。あんな人たちも『
その口ぶりだと、シルキーも『
「うう……」
倒れている男たちは、呻きながら悶えていた。
「なあ、こいつらはどうしたらいい? まだ死んではいないようだけど」
『ハルト様、クエストが達成されたか確認して下さい』
シルキーに促され、ハルトはウインドウを見る。クエスト『向かい来る盗賊たちを撃滅せよ!』がクリアと書かれていた。
「クリア扱いになってる」
『だったら問題ありません。この人たちは放っておいて、先に進みましょう』
「いいのか? このままで」
『はい、このゲームのNPCは自分で考え行動します。彼らも自分の頭で考え、どうするか決めるはずです』
「そうなのか……でも重症だから死ぬ奴らもいるんじゃ……」
『そうだとしても自業自得。ハルト様が気にするようなことじゃありません。さあ、行きましょう!』
「ああ……」
ハルトはやはり気になったが、自分を襲ってきた連中を助ける気にはなれない。シルキーの言う通りガーナの町へ行くため、『
大きな魔法陣から現れた装甲車。
ハルトとシルキーは車に乗り込み、一路『ガーナの町』を目指して出発した。
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