第四章 少女からの依頼

第27話 出発

 ウインドウから光が飛び出し、キラキラと舞い上がる。


 顔の前までくると、パチンッと弾けた。



『あー! やっと呼んでもらえたー!! ハルト様、今まで何やってたんですか?』



 現れたのはナビゲートAIの〝シルキー″だ。少し不貞腐れた様子で、あたりを飛び回る。



「なんだ? どうしたんだ。こんな所で」


『どうしたんだ。じゃないですよ! ハルト様が〝始まりの村″に入ったら、私を呼び出せるアイコンが追加されることになってたんですよ。なのに全然来ないから~』



 そう言ってシルキーはプンプンと怒っているようだった。



「ナビゲーションAIって、最初だけ現れるんじゃないのか? 後からアドバイスしてくれるなんて知らなかったが」


『ええ、ハルト様がおっしゃる通り、本来なら私の役割は最初のチュートリアルで終わりです』


「だったらどうして?」


『それはハルト様が特別だからです! 誰も使ったことのない『軍人アーミー』になって、さぞお困りだろうと思い、私がサポートすることになったんです』


「あーそうなんだ。でも、友達と一緒に何ができるか検証して大体のことは分かったから、もういいよ」


『え!? もういいとは?』


「いや、だからサポートしてくれなくていいよ。さっきのアイコンを押したら消えるのかな?」


『ちょ、ちょっと待って下さい! なにを早々に消そうとしてるんですか!! 私は絶対役に立ちますよ。ここは喜ぶべき所です!』


「うーん、でも君、うるさそうだしな」


『う、うるさそう!?』



 シルキーはショックを受けたように、目をしばたかせる。



「そういう訳だから消すね」



 ハルトがアイコンをタップしようとすると、シルキーは慌てて飛び回り、なんとか止めようとする。



『ダー、ダメです! 私も報告とかしなきゃいけないんです! 勝手に切らないで下さい!!』


「報告? だれに……もしかして運営とか?」


『あ、いえ、それはこちらの話です。そ、それよりも私は絶対役に立ちますから一緒に連れてって下さい』



 シルキーの態度に、ハルトは若干の胡散臭さを感じたが、確かに役には立ちそうだと思って消すのをやめることにした。



「分かった。一緒に連れていくよ」


『ありがと~ごぜ~ますだ~』



 なぜか滝のような涙を流し、手を合わせて感謝するシルキー。こんな演出があるのか? と戸惑いながら、ハルトは知りたかったことを聞いてみる。



「今からガーナの町に行こうと思ってるんだ。目的はエーテルの購入と、この……」



 ハルトは胸のポケットから、小さな翡翠の石を取り出す。



「〝神樹の魔石″の加工をしたいんだが、できるかな?」



 シルキーは空中に浮かびながら、翡翠の魔石を見る。『う~ん』と唸りながら腕を組み、眉間に皺を寄せて考え込む。



『エーテルの購入は大丈夫です。ガーナの町に売ってますから、ただ〝神樹の魔石″の加工は無理ですね。もっと大きな、錬金術師がいる街に行かないと』


「そうか……」



 取りあえずエーテルが買えるなら良しとするか。ハルトはそう思い、村を出ることにした。



『行くんですね、ガーナの町に!』


「ああ」


『いよいよ本格的な冒険の始まりです。ワクワクしますよね!』



 シルキーは興奮していたが、すでに上級クエストをクリアしていたハルトに取っては、さして興奮するようなイベントではない。


 〝始まりの村″の裏手から街道に出て、しばらく歩くと、のどかな風景が目に入ってくる。ここからガーナの町までは、五キロほどしかないそうだ。



「車で行こうかな」



 歩いても行ける距離だが、時間がもったいないと思い、装甲車を召喚しようとした。すると、村の方から何かがやって来る。



「ん? あれは……」


『あ! なんだか面白くなりそうですよ』



 シルキーが楽し気に飛び回る。やって来たのは十五人ほどの集団。数人は馬に乗り、全員が手に武器を持っていた。



「あ、兄貴! あいつですぜ、俺をやったのは!!」



 馬に乗り、こちらを指さすのは、ずんぐりむっくりした見覚えのある男。女性の鞄を引ったくった盗人だ。



「おい、貴様! 俺の弟分をかわいがってくれたらしいな。たっぷりお礼をしてやるから覚悟しろよ」



 顔に傷のある大柄の男が、馬上から凄んでくる。どうやらコイツがこの集団のリーダーのようだ。



『ハルト様、どうやら追加のクエストが始まったみたいですよ!』


「追加のクエスト?」


『ハルト様は『女性の鞄を取り戻せ!』のクエストをクリアされましたよね? この時、犯人を倒すか捕まえておけば、今回のイベントは発生しませんでした』


「じゃあ見逃したせいで、今、襲われてるってこと?」


『まあ、そういうことですね。これは情けをかけても、それが良い結果に繋がらないよ。という世の中の厳しさを伝えるためのイベントなんですよ!』


「ろくでもないゲームだな」



 ハルトとシルキーが話していると、ずんぐりむっくりした男が苛立たし気に怒鳴ってくる。



「おい! なにしゃべってんだ!? こっちは本気だぞ!」



 盗賊団は各々が持つ武器をかかげ、ギラついた目を向けてきた。ただで行かせてくれそうにないとハルトは思い溜息をつく。



「分かったよ」



 ハルトは一歩前に出て、ウインドウを開いた。そこにはクエスト『向かい来る盗賊たちを撃滅せよ!』が表示されている。


 どうやら強制参加のようで、やらないという選択はできない。


 仕方ないと思い、ハルトは兵士を召喚しようとしたが、その前に気になることがあった。



「なあシルキー、こいつらって始まりの村に住んでるのか? だとしたら村人でもあるってことだよな」


『いいえ違いますよ。この人たちは、この周辺の村を襲って回ってる盗賊たちです。たまたま〝始まりの村″に来ている時、ハルト様と遭遇したんです』


「そうか、村の住人じゃないなら遠慮なく倒していいな」


『はい! ここで倒さないと村々に被害が広がりますから』



 どれだけ凄んでも意に介さないハルトを見て、盗賊の頭は苛立ちを爆発させる。



「おい! お前ら、やっちまえ!!」


「「「おおおおっ!!」」」



 全員が一斉に襲い掛かってくる。馬に乗った五人が先行し、剣を振り上げハルトに迫った。



『わわわ、来ましたーーー!』



 シルキーが慌てふためき、飛び回っていたが、ハルトに動じる様子はない。



「ちょうどいいから試してみるか……」



 ハルトは向かって来る盗賊を見ながら、冷静に宣言する。



「召喚、【レッド・スコルピオン】」

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