第26話 始まりの村

「レベルが四つ上がって『27』になってる」


「27か……けっこう上がってきたな」



 ハルトはウインドウを操作して、獲得した『Summon addition』を開いてゆく。



レベル24

『召喚:【V-22オスプレイ】2機 【一等兵】48名』


レベル25

『召喚:【特殊部隊レッド・スコルピオン】【軍曹】5名』


レベル26

『召喚:【87式偵察警戒車】4両【搭乗員】20名』


レベル27

『召喚:【3 1/2tトラック】4両【上等兵】88名』



「お、おお……オスプレイ? 48人? 3 1/2tトラックが4両で88人も……それも上等兵って……突っ込みどころが多すぎないか?」



 ソウタは眉根を寄せ、表示された情報を凝視している。ハルトも目を丸くして見ていたが、その中でも特に気になるものがあった。



「この〝特殊部隊″ってなんだ?」



 【特殊部隊レッド・スコルピオン】と書かれた表示は、他のものとは違い、明らかな異彩を放つ。



「う~ん、確かによく分からないな。こいつらだけ【軍曹】だし……装備も各種個別武装になってるみたいだ」



 ソウタも初めて見る兵士たちに困惑しているようだ。



「取りあえず一旦召喚して調べてみようぜ」


「いや、もう時間だから帰るよ」


「ええ!! 少しだけだよ! いいだろ、ハルト!?」


「ダメだ。もう一時間二十分を過ぎてるじゃないか! 少し遊び過ぎた」



 ハルトはすぐにログアウトボタンを押そうとしたが、ソウタが「ちょ、ちょっと待ってくれ!」と慌てて止めてきた。


「なんだ?」


「明日、学校休みだけどさ、俺、用事があってゲームに入れないんだ」

 

「そうなのか……じゃあ、俺もゲームするのはやめておこうか」


「いや、丁度いい機会だから〝始まりの村″に行ってみろよ」


「始まりの村?」


「普通、ゲームを始めたプレイヤーは、あそこで基礎を学ぶんだ。ハルトはイレギュラーすぎて、そこを飛ばしてきたからな」


「確かに……」


「あそこなら簡単なクエストもあるし、村を出て少し行けば『ガーナの町』もある。店も色々そろってるから、回ってみるといいよ」


「そうだな、行ってみる」


「それから【特殊部隊】についても知りたいから、調べたら教えてくれよ」


「ああ、分かった」



 ハルトは今度こそ、本当にログアウトボタンを押してゲームを終了した。


 翌朝――


 学校が休みの日でも、ハルトはいつもと同じように起床する。


 今日は休みだし、二時間くらいゲームをやってもいいだろう。ハルトはそう考え、まずは気になっていた【レッド・スコルピオン】について調べることにした。


 調べるだけなら、わざわざVRにダイブしなくても【剣と魔法のクロニクル】の公式サイトにアクセスして確認できるようだ。


 さっそくスマホからログインし、自分のマイページに飛ぶ。


 獲得した『Summon addition』の一覧から、特殊部隊【レッド・スコルピオン】の詳細をタップしてみる。


 表示された部隊の情報を、細かくチェックした。



「隊員五人の〝班″なのか……」



 そこには兵士五人の名前や性格、持っている武器などが書いてあった。



「隊長はカイゼル……生粋のサディストで、中距離の戦いが得意。か……すごいな、個性がある兵士なんて」



 他にも『大柄で筋骨隆々な戦士』や『冷静沈着なスナイパー』など、今までの無個性な兵士たちとは180度違う者たちだ。



「とは言え、これだけじゃあ、どんな役に立つのか分からないな……実際に召喚してみないと……」



 ハルトはゲームを始めるため、ヘッドギアを手に取り頭にすっぽりと被った。


 ウインドウを操作し、ゲーム開始地点を決める。選べるのは前回ゲームを中断した場所か、〝始まりの村″のどちらかだ。


 ハルトは〝始まりの村″を選びタップした。


 視界が暗転し、しばらくすると見覚えのある光景が目の前に広がる。



「ここに来るのも久しぶりだな」



 辺りには雄大な草原と、その中にポツンとある小さな村が見えた。


 ハルトはテクテクと村の入口へと歩いていく。村に入ると、簡素な家が二十軒ほど並んでおり、行き交う村人と数人の冒険者が目に入った。


 思ったよりも、賑わっている印象だな。


 村人に話しかけると、近くにいる魔物の情報や、この村から行ける町の情報など、ゲームに必要な知識を教えてくれた。


 また、簡単なクエストなども発生する。



「きゃー!? 泥棒!!」



 女性の村人が地面に倒れ、助けを求めている。


 見れば女性の物を盗んだ、ずんぐりむっくりの男が走り去っていく所だった。

 

 ハルトの目の前に、突然ウインドウが開き『女性の鞄を取り戻せ!』と書かれた緊急クエストが表示される。


『受けますか? 受けませんか? Y/N』の文字が出てきた。


 ハルトは当然、YESの文字をタップし、逃げていく男を追いかける。腰のホルスターからガバメントを抜き、両手で構えた。


 五十メートルほど離れているが、特に問題はないだろう。


 ハルトは拳銃のオープンサイトで狙いを定め、引き金を引く。放たれた二発の銃弾は男の足に命中した。


 低い声の悲鳴が辺りに響く。


 男は倒れ、地面に転がりながら呻いている。ハルトは銃を構えながら、慎重に近づいていった。


 男は恐怖の表情を浮かべ、すがるように懇願する。



「た、頼む! 助けてくれ、盗んだ物は返すからよ!」



 男は麻で作られた手提げ鞄を、恐る恐る差し出してきた。先ほどの女性の物だろう。ハルトは鞄を受け取ると、



「今回は見逃すが、もう盗みなんかするなよ!」


「あ、ああ、分かった!」



 そう言うと男は足を引きずりながら、一目散に逃げて行った。



「まあ、ゲームのキャラクターにそんなこと言ってもしょうがないか……」



 ハルトが女性に鞄を返すと「ありがとうございます」と言って、お礼にポーションを貰うことができた。


 ウインドウを確認すると『クエスト『女性の鞄を取り戻せ!』をクリアしました』と書かれている。


 なるほど、こうやって小さなクエストをクリアして慣れていくのか。と納得して

他にも数件、お手伝いレベルのクエストを引き受けた。その結果――



「ポーション二つに、エーテル一つ。それに50ゴールドか」



 始まりの村には〝店″が無いため、アイテムを得るにはクエストをこなすしかない。


 ハルトはソウタの言う通り、そろそろ町に行こうかと考えていた。そんな時、ウインドウの左下に何か光っていることに気づく。


 

「なんだろう、これ?」



 ハルトは、その光るアイコンをおもむろにタップした。

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