第25話 ランキング

「すごい……HPが六割くらい減ってる」


「まあ、あれほどの爆発だ。当然だろうな」



 シドラ・フォレストは燃え盛る炎に包まれながら、大きな根を動かして前進してくる。身を引き裂かれても、その闘争心は衰える様子がない。


 耳を劈く咆哮。


 地中から長い根を引き抜き、鞭のように振り回す。ヴァイパーやアパッチ、ブラックホークは避けることができず、次々と破壊されていった。


 地上で応戦していた戦車部隊も、足のようにうねる根に蹴り飛ばされ、光の粒子となって消えていく。



「くそ! 大ダメージを与えたのに、まだあんなに動けるのか!?」


「ハルト、ここもヤバイぞ! 一旦下がろう」



 ハルトは装甲車を召喚し、ソウタと共に魔物から距離を取る。上空ではC-17が旋回し、再びMOAB投下の準備を始めていた。


 だがシドラ・フォレストが動き回っていると、直撃させることができない。



「何とか足止めしないと……」



 ハルトはソウタから貰っていたエーテルの瓶を取り出す。蓋を外して、クイッと中身を飲み干した。


 ほとんど尽きかけていたMPが、みるみる回復していく。



「召喚! 攻撃ヘリ部隊、戦車部隊!!」



 魔法陣から再び現れる二個小隊。ヘリは迂回しながら、戦車部隊は正面から相手を迎え撃つ。


 ハルトたちは車を止め、戦況を見守る。


 戦車は砲門をシドラ・フォレストの幹ではなく〝根″に向けた。倒すのが目的ではなく、あくまで足止めをするためだ。


 うねる根に、砲弾は容赦なく襲いかかる。


 本体の幹ほどの硬さはない。徹甲弾が当たれば弾け飛び、多目的誘導弾が当たれば爆発の衝撃で根は裂けていく。



「ガァァァァァァッ!」



 苦し気に叫ぶ魔物。戦車は砲撃の手を緩めない。


 砲弾が自動装填され、砲撃可能になればすぐさま発射。相手の攻撃を受けないよう無限軌道キャタピラをうまく操り、走行しながら砲撃を続ける。


 車上からは機関銃の掃射、細い根などは一撃で吹っ飛んでいった。


 明らかにシドラ・フォレストの動きが鈍る。空中にいたヘリ部隊は、その状況を見逃さない。


 空対地ミサイル〝ヘルファイア″を一斉に射出。


 数十発の誘導ミサイルが、木の幹や根に着弾。爆発が繰り返され、樹の魔物は動きを止めた。効いている。


 遠目で見ていたハルトは確信した。



「MOABの爆発で硬い樹皮が消し飛んだんだ! 砲弾やミサイルの攻撃が、前より効くみたいだぞ」


「ああ、だが油断するな。確実に倒すためにMOABで止めを刺せ!」



 ハルトは頷き、攻撃ヘリにも〝根″を攻撃するように命令する。念には念を。完全に敵の足を止めないと。


 ヘリは魔物の後ろに回り込み、根に向かって機関砲で攻撃。


 ヴァイパーはハイドラ70ロケット弾を連射し、やや太い根でも吹き飛ばしていく。


 燃えているシドラ・フォレストの体がガクンと揺れ、完全に足が止まる。ダメージが大きいのか、苦しそうに頭を振っていた。


 その間にC-17は魔物の頭上に差し掛かる。二発目のMOABをパラシュートを使って輸送機の外へ放出。


 パレットから切り離された爆弾は、垂直にまっすぐ落ちてきた。


 ハルトたちは乗っている装甲車を発進させ、魔物との距離を取る。近くにいては爆発に巻き込まれる可能性があったからだ。


 ヘリや戦車は攻撃を続ける。相手の注意をギリギリまで惹き付けるために。


 だが、シドラ・フォレストは上から落ちてくるMOABに気づいた。最後の力を振り絞り、地中から全ての〝根″を引き抜いて上に持ち上げる。


 まるでドームのような防御壁を数十本の〝根″で作り出し、落ちてくる爆弾に備えた。それを見たハルトは息を呑む。



「あれじゃあ、直撃しない!」


「いや……あんなものじゃ防げねーよ」



 頭の上で重ね合わせた〝根″に、超大型爆弾が直撃する。瞬間――


 光と共に爆炎が広がる。根は全て消し飛び、シドラ・フォレストの頭上から爆撃による炎と衝撃が降り注ぐ。


 防げるはずがなかった。


 枝は折れ、幹は割れ、魔物の体は炎に飲まれた。爆発音が聞こえてくる頃には、巨大な火と煙が、柱のように上空に昇ってゆく。



「やった……やったよな……?」


「HPはどうなってる?」



 ソウタに言われてウインドウを確認する。シドラ・フォレストのHPは間違いなくゼロになっていた。



「……勝った……」


「やったな、ハルト! ハハハ、これは凄いことだぞ」



 ハルトの背中をバンバン叩き、ソウタは大笑いして喜ぶ。ハルトもつられて笑いだすが、ウインドウに何かあることに気づく。



「これは?」



 ウインドウに表示された手紙のようなマークをタップすると、クエスト攻略についての報告がきていた。



 『おめでとうございます! 【神樹の森を踏破せよ】のクエストクリアを確認しました。クリアボーナスとしてアイテムを贈呈します』


 神樹の魔石★★★★★☆☆



 ランキングが上がりました。82400174/102364603



「お! クリアボーナスか。五つ星のレアアイテムなんて良かったじゃないか!」


「う~ん、アイテムが貰えたのは良かったけど、この『神樹の魔石』って何に使うんだ?」


「普通は〝魔道具″に加工して武器や防具、あるいは装飾品にするのが一般的かな。今度、街に行ったら鍛冶屋に案内するよ」


「ああ、頼む。でも軍人アーミーの武器や防具ってどんなのだ?」


「さあ……分からんが、腕のいい鍛冶屋なら、金はかかるが何とかしてくれると思うぞ。心配いらねーよ」



 ソウタがそう言うなら、と安心するが、もう一つ気になるものがある。



「このランキングってのはなんだよ? そんなものがあるのか?」



 ウインドウには『82400174/102364603』と、数字の表記がある。ソウタはそれを見ると「ああ」と言って微笑む。



「こいつは定期的に報告がくるけど気にしなくていいよ。ランキング上位者は化物みたいなガチ勢だ。俺たちみたいにゲームを単純に楽しみたい人間とは人種が違う」


「そうか、それならいいけど……ちなみに分母は登録者数か?」


「そうそう、今は1憶200万人いるってことだよ」


「ちょっと待ってくれ、俺が1憶人目だから、もう200万人増えたってことか?」



 自分が登録してからまだ一週間も経っていないため、ハルトは目を見開いて驚く。



「まあ、それだけ人気のゲームってことだ。別に驚くほどのことでもないよ。それよりレベルはどれくらい上がってる?」


「ああ……」



 ハルトはウインドウを操作して、自分のステータスを確認した。

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