第24話 神の雷

「戦車部隊、召喚!!」



 ハルトが持つ最強の部隊が姿を現し、相手を睨むかのごとく居並んだ。



「いいかハルト、こいつの攻撃範囲はイヴィル・フォレストの三倍はある。相手の範囲に絶対入るな。一撃で殺されるぞ!」


「分かった!」



 戦車部隊は距離を保ちつつ、攻撃準備に入る。例え距離を開けたとしても、砲撃の威力に問題はない。


 ハルトはそう考え、号令をかける。



「全車砲撃!!」



 120mm滑腔戦車砲から放たれた七発のタングステン合金弾、16式機動戦闘車のライフル砲からも二発の105mm砲弾。


 そして六発の中距離多目的誘導弾が発射される。


 その全てがシドラ・フォレストのどてっ腹に命中した。


 樹皮は砕け、幹は裂け、誘導弾が炸裂して炎が舞い上がる。だが――



「え!?」


「どうした、ハルト?」


「あいつのHPが、ほとんど減ってないぞ」



 ウインドウを見ながら、ハルトは眉間に皺を寄せる。イヴィル・フォレストには、かなり効いた攻撃なのに……。


 そう思った次の瞬間、



「ヴオオオオオオオーーーーーーーッ!!」



 初めて聞いた巨木の咆哮。根を触手のように操り、土煙を上げながら向かってくる。ハルトは右手を高々と上げ、召喚を宣言した。



「来い! 攻撃ヘリ部隊!!」



 上空に、縦に描かれた魔法陣。その中からヴァイパー、アパッチ2機、ブラックホーク2機が現れ、シドラ・フォレストの周りを旋回する。


 突如現れたヘリに、魔物はピクリと反応した。頭をバサリっと振って、大量の葉を手裏剣のように飛ばしてくる。


 イヴィル・フォレストの葉より射程距離が広いため、ヘリは急上昇して何とか攻撃を躱す。ヴァイパーとアパッチは機首下にある機関砲を掃射、ブラックホークは搭乗していた兵士がアサルトライフルを撃ちまくった。


 魔物は鬱陶しそうに根や蔦を振るが、効いている様子はない。


 ヴァイパーとアパッチは両翼下のパイロンに装備した対戦車ミサイル。AGM-114 ヘルファイアを次々と発射。


 計40発のミサイルは、太い幹に確実に着弾してゆく。


 鳴り響く轟音、広がる衝撃と爆炎。辺りには、もくもくと煙が充満する。



「どうだ……?」



 不安気な表情を浮かべるハルト。煙が晴れると、樹皮が傷ついた魔物が姿を現す。


 ウインドウで確認すると、HPは10%も減ってない。



「ウヴァアアアアアアアアアアア!!」



 魔物は絶叫で、炎と煙を掻き消す。間髪入れずに長く伸びた蔦を振るい、アパッチ一機を打ち払った。


 元々、防御面で弱さがあったヘリは一撃で粉砕される。ローターブレードはへし折れ、そのまま墜落していった。



「くそ! イヴィル・フォレストには、あんなに効いたのに……」


「あいつは格が違うぞ、油断するなよ!」



 ソウタの言葉に頷き、攻撃ヘリ部隊と戦車部隊に再度の攻撃を命令する。


 例え攻撃が効いていなくても、相手の注意を引ければそれでいい。ハルトは上空に向かって手を伸ばす。



「召喚! C-17!!」



 大きな魔法陣が、シドラ・フォレストのちょうど真上に現れる。


 高度にして300メートル以上、敵が気づくことはない。垂直に描かれた魔法陣から、ゆっくりと航空機の機首が出てくる。


 それは全長53メートル、最大積載量77tの巨大な輸送機。


 ゆっくりと飛翔し、高度を上げていく。右に旋回しながら、貨物室のハッチが開き、二人の兵士が積載しているMOABの投下準備に入った。



「大丈夫だハルト。あの爆弾さえ当たれば、いくらシドラ・フォレストでも無事ではすまない」


「ああ、だがそのためにも注意をこちらに向けないと」



 例え威力が強くても、避けられる可能性もあれば、葉や蔦で防がれる可能性もゼロではない。確実に着弾させるため『部隊』に総攻撃を命令する。


 戦車部隊により連続砲撃。ギリギリまで近づき、滑腔砲とブローニングM2重機関銃を撃ちまくる。


 攻撃ヘリも機関砲で弾幕を張り、ブラックホークは兵士を地上に降ろして、空と陸の両面から銃撃を行う。



「召喚! 砲撃歩兵部隊、スナイパー部隊!!」



 歩兵部隊が根に近づいて銃撃を開始した。ほとんどダメージにはならないが、相手の気は引く事ができる。


 そしてロケットランチャーを持つ兵士が、シドラ・フォレストに向け照準を合わせた。ハルトもウインドウを操作し、『パンツァーファウスト3』を取り出す。


 全十一門による砲撃。発射されたロケット弾頭は、まっすぐに敵に向かって飛んでいく。全てが着弾し、連続して爆発していった。


 炎と煙が舞い上がるが、やはり大きいダメージは与えられない。


 だが――



「ウヴァァァァァッ、アアアアアア!!」



 魔物は怒り狂い、根と蔦、そして頭を振り乱す。充分相手の気を引けたようだ。


 ギリギリの距離で攻撃していた兵士や戦車が、根や蔦に打ち据えられ、どんどん倒されてゆく。それでも攻撃の手は緩めない。


 地上で兵士たちが奮闘している間に、上空で旋回していた大型輸送機C-17が樹の魔物の真上に差し掛かる。


 飛行中のC-17の後部貨物扉から、パラシュートが開かれた。そのパラシュートに引き出され、MOABを載せたパレットが機外に放出される。


 落下後、MOABはパラシュートが付いたパレットから切り離され、GPS誘導装置でフィンを調整しながら対象物に向かっていく。


 大型の爆弾が垂直に落ちてきた。魔物が気づく様子はない。


 地上で戦っているシドラ・フォレストの頭上に、最強の爆弾が突き刺さる。

 ――それは神の雷。


 巨木の樹冠を突き抜け、幹に激突して大爆発した。


 その衝撃は、ハルトの想像を遥かに超えていた。光が広がり、衝撃が一帯の木々を激しく揺らす。兵士たちも飛ばされないように踏ん張り、100メートル以上離れていたハルトとソウタも、身を屈めて爆風に耐える。


 遅れて聞こえる大轟音。見れば爆弾が落ちた場所から炎が噴き上がり、溢れ出した火と煙が空へ昇ってゆく。


 あれほど硬かったシドラ・フォレストの幹が、真っ二つに割れていた。


 生い茂っていた葉は全て燃え、割れた幹も炎に包まれる。縦横無尽に動き回っていた蔦や根は、その半数が焼け落ちていた。

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