第23話 MOAB

「よし! もう一体、倒しに行くか!」



 意気揚々と歩くソウタの後についてゆき、イヴィル・フォレストを探して回る。


 途中からは車に乗った方が早いということで、73式小型トラックを召喚して乗り込み、かなり楽をしながら森を進んで行く。


 すると、ものの数分で会敵することができた。



「次は強化された『戦車部隊』で戦ってみる」



 ハルトが大声で召喚を宣言すると、目の前にいくつもの魔法陣が光り輝く。中から分厚い装甲の車両が現れた。


 居並んだ戦車は壮観の一言。


 中心にエイブラムス、その両脇にレオパルド二両、さらに隣に10式が整列し、一番端には16式機動戦闘車を配置。


 後ろには中距離多目的誘導弾搭載高機動車が陣取り、準備は完成した。


 イヴィル・フォレストは地中から根を引き抜き、頭を振り乱して向かってくる。



「全車前進!」



 ハルトの号令で、戦車は一斉に動きだす。


 敵との距離は、約百メートルに。お互いが向かっていく中、距離はどんどん詰まってきた。先頭を行くエイブラムスとの距離は、およそ五十メートル。


 相手の攻撃範囲外で、こちらの射程距離。ハルトは大きな声で叫ぶ。



「全車、砲撃!!」



 一斉に火を噴く砲門。爆発と共に装弾筒付翼安定徹甲弾が初速1,580m/s以上で発射された。


 敵の体に次々と着弾。衝撃で幹は割れ、外皮を吹き飛ばす。


 魔物が後ずさると、追い打ちをかけるように、さらに砲弾が発射される。魔物は葉を飛ばして砲弾を防ごうとするが、当然、そんな物で妨害することはできない。


 〝根″を振り回して体を守ろうとしても、その根ごと破壊されてしまう。


 何発もの攻撃をくらい、体がうまく動かせなくなっていた魔物は、さらに何かが飛んでくることに気づく。


 今までと同じ攻撃か。イヴィル・フォレストはそう思った。


 だが違う――


 六発の飛翔体は、魔物の樹皮に当たると爆発して、残り少ない巨木の生命力を奪い取っていく。


 火が全身に回り、わずかに動いていた木の魔物は完全に沈黙した。



「おーやっぱり、すげー威力だな」



 ソウタが右手でひさしを作りながら、攻撃の成果に感心する。



「中距離多目的誘導弾。六発しかないけど、充分強力だな」



 初めて使う兵器に、ハルトも少し興奮していた。



「なんにせよ、ちゃんと倒せて良かったぜ。レベルは上がってるか?」


「ああ、一つ上がって『23』になってるよ。イヴィル・フォレスト一体では、もう上がらないかもしれないな」



 そんな心配をしながら、ハルトはウインドウを操作して新しく獲得した『Summon addition』をタップする。


 出てきた内容を、ソウタと一緒に確認した。



『召喚:【大型輸送機C-17(MOAB×3基搭載)】【搭乗員】4名』



「……え? なんだよ、コレ」



 ソウタが唖然としていた。ハルトにはよく分からなかったが、大型の輸送機とある。戦闘用ではないようだ、と思っていると。



「MOAB……搭載……嘘だろ、そんなことあるのか……?」


「どうした? ソウタ」



 ソウタは頭を振って、もう一度ウインドウを確認する。やはり間違いないと言って、真剣な顔をした。



「MOABを搭載してるなら、こいつは攻撃用だ!」


「え? でも〝輸送機″って書いてあるぞ」


「その輸送してる物が問題なんだ。運ぶのは兵士じゃない! このMOABを運ぶために大型輸送機C-17が採用されてる。つまり獲得した兵器はMOABってことだ」


「なんだよ、そのMOABって?」


「超大型の爆弾だよ!  Massive Ordnance Air Blast。通称MOABモアブ! 全ての爆弾の母とも呼ばれる、核爆弾の次に威力が強いって言われる爆弾だ」


「核爆弾の次って……」



 ハルトはゾッとする。そんな物まで組み込まれているのか……。だとするとゲームの運営は、軍人アーミーを持ったプレイヤーに何をさせたいんだろう?


 ハルトはそんな事を考えずにはいられなかった。



「爆弾は全長9メートル、重さは9800キロもある。普通の航空機で運ぶのは難しいだろう。まして投下するとなると……」


「だから大型輸送機なのか」


「そういうことだ。だけど、こんな物が使えるなら、この『神樹の森』を踏破できるかもしれないな」


「え? 踏破って……」



 ◇◇◇



 神樹の森の最奥――


 高い樹海を抜け、流れ落ちる滝の先に、その魔物はいた。


 高さ150メートル、太さ20メートル以上の太い幹。イヴィル・フォレストの三倍はあろう巨大な樹の魔物。


 とても立派な広葉樹で、樹冠には青々とした葉が生い茂る。辺り一帯に太い根を張り巡らせ、静かに佇んでいた。



「これが……」


「ああ、この神樹の森の主。〝シドラ・フォレスト″だ!」



 ハルトはごくりと唾を飲み込む。そのあまりの迫力と、数キロ離れていても感じる威圧感。


 この敵は間違いなく強い。自分の直感が、そう告げていた。



「本来なら上級プレイヤー50人がかりのレイドで倒す魔物だ。どうだハルト、やってみるか?」



 ソウタに問われて少し悩む。もう四十分ほどゲームをしているため、あと二十分くらいで切り上げたい。



「この魔物と戦ったとして、時間はかかるかな?」


「いや、あんまりかからないと思うぞ。もっとも――」



 ソウタはニヤリと微笑む。



「負ける時も早く終わると思うけどな」



 なるほど、確かに勝てるとは限らない。勝つにしろ負けるにしろ、短期決戦になるってことだな。



「分かった。やってみるよ。ソウタ、アドバイスを頼む!」


「ああ、任せとけ!」



 二人でシドラ・フォレストのテリトリーに足を踏み入れる。


 一瞬の静寂。森がその活動を止めたかのように、一切の音が聞こえなくなる。そして徐々に感じる変化。


 空気がピリピリと張り詰め、緊張感が増してゆく。やがて大気が怒りを纏う。


 地面が揺れ始め、バリバリと音を立て目の前にある根っこが地中から引き剥がされて、大きな蛇のようにうねり始めた。


 巨大な木の幹が裂け、阿修羅のような顔が浮かぶ。


 ハルトたちの前に、最強の〝神樹″が立ちはだかる。

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