第22話 攻撃ヘリ

 ゲームの世界から、現実世界へ意識が舞い戻る。


 ヘッドギアを外し脇に置くと、額が汗ばんでいることに気づく。



「風呂に入りたい所だけど……」



 母親から、早めに風呂に入るように言われていたため、ゲームをする前に入ってしまっていた。


 やっぱりゲームをした後に入るべきだったと、ハルトは少し後悔する。


 う~~~~んと言って体を伸ばし、立ち上がって勉強机に向かう。


 寝るまでの二時間、集中して勉強する。これがいつものルーティーン。


 ハルトはゲームをどれだけ楽しもうと、この生活スタイルを変えるつもりはなかった。


 そして翌日――


 

 神樹の森の、木々がざわめく。


 木の葉が風に舞い、そこに息衝いきづく動物たちが我先にと逃げ出していた。


 鉄の羽が風を切り裂き、回転音が森の静寂を打ち破る。厳かな森に現れたのは、異形なるもの。怒り狂う樹の魔物に、悠然と向かってゆく。



「ヴァイパー! アパッチ! 相手の攻撃範囲には入るな」



 ハルトの檄が飛ぶ。


 攻撃ヘリは、イヴィル・フォレストの周りを距離を取りながら旋回した。


 ヘリが上空にいるため、根を振り回しても届かない。葉っぱを飛ばして攻撃してきたが、プロペラから巻き起こる風によって全ての葉が吹き飛ばされる。


 攻撃ヘリは樹の魔物に取って、相性は最悪のようだ。


 『ヴァイパー』が前に出る。見た目はよく見かけるヘリコプターではない。戦闘機のようなコックピットに、短い両翼がある。


 一定の距離を保ちつつ、両翼に装備した対戦車ミサイル〝ヘルファイア″8基を、一斉に発射した。


 全長160センチ、重量45キロもあるミサイルが、火を噴きながら飛んでゆく。


 イヴィル・フォレストの樹冠に、枝に、幹に根に着弾。大爆発し炎上した。


 見ていたハルトやソウタも仰け反るほどの、想像以上の威力。戦車も吹き飛ばす空対地ミサイルは、樹の魔物を炎に包む。


 

「畳み掛けろ! ヴァイパー!!」



 間を置かず、両翼にあるハイドラ70ロケット弾ポッド2基から小型ミサイルが矢のように射出された。


 合計76発。ヘルファイアより威力は低いものの、圧倒的に数が多いため、魔物の体表は粉砕されていく。悶え苦しむイヴィル・フォレスト。


 ――効いている。戦車の砲撃よりも、明らかにダメージを与えている。


 ヴァイパーは最後に残った二基のミサイル、〝サイドワインダー″も発射。一直線に敵に向かい、着弾すると烈火の如く爆発した。


 衝撃で幹は割れ、木片が舞う。


 火と煙に覆われ、フラつくイヴィル・フォレスト。ヴァイパーは機体の先端にある3砲身20mmガトリング砲を敵に向ける。


 パイロットは照準を合わせ引き金を絞った。火を噴く機関砲。合計750発の弾丸は、容赦なく魔物の体を貫く。


 弾を撃ち尽くし、カラカラとなる20mmガトリング。全ての弾丸を使い切ったヴァイパーは、静かに光となって消えていった。



「すごい……ヴァイパー1機で、HPの40%以上を削り取ってる」



 ウインドウで、相手のHPを確認したハルトが目を見張る。



「さすが空飛ぶ戦車……いや、それ以上か」



 ソウタも実際に見るヴァイパーは想像以上だったようだ。後方で、ホバリングしながら控えていた『アパッチ』2基も前に出る。


 バリバリと音を立て近づいてくる無機質な敵。だが樹の魔物は、以前のように威嚇する様子がない。


 弱っているせいか、そんな気力も体力も無いようだ。



「ハルト、あともうちょっとだ!」


「ああ、分かってる。行け! アパッチ!!」



 二機の攻撃ヘリは左右に別れ、示し合わせたように同時にAGM-114 ヘルファイアを発射する。


 アパッチは両翼に、ヴァイパー以上の16基のヘルファイア搭載しているため、その火力は絶大。巨木に炸裂し、魔物の生命力をごっそりと奪い取っていく。


 二機は機首下にある、30mm単砲身機関砲を掃射。


 弾数は1200発。絶え間なく打ち続けられる銃撃の嵐。木の魔物の根を、葉を、枝や幹を吹き飛ばしていく。


 もはや反撃する力は残っていないイヴィル・フォレスト。チリチリと体を燃やしながら、その活動を完全に停止した。


 ハルトもウインドウを見て、HPがゼロになったのを確認する。



「本当に三機だけで倒したぞ……いいのかな、これで?」


「確かにバグってんのか? って思うほど強いけど」



 ソウタの言葉に、ハルトも頷く。いくら一億人特典の職業ジョブとはいえ、やり過ぎではないだろうか? ゲームバランスを崩すほど強力なアイテムや魔法には、後から修正が加えられることがあるとソウタから聞いていた。


 この軍人アーミーに関しても、なんらかの修正がかかるんじゃないかと、ハルトは一抹の不安を抱く。


 そんな不安そうな表情のハルトに、ソウタが声をかける。



「まあ、なんにせよ公式に認められてる職業なんだから、ガンガン楽しんでプレイすればいいと思うぜ」


「……そうだな」



 二人はハルトのステータスを確認する。レベルは一つ上がっていた。



「う~ん、もうレベルの上がりが悪くなってきてるな」ソウタが渋い顔になる。


「仕方ないよ」ハルトはそう言って、獲得した『Summon addition』をタップした。



『召喚:【UH-60 ブラックホーク】2機 【一等兵】28名』

[装備 M27 IAR・シグ・ザウエルP320 各種マガジン×2 手榴弾×2]



「あ! ブラックホークが出てきたぞ!」


「これも攻撃ヘリか?」


「いや、違う。こいつは多目的軍用ヘリだ。兵士を運ぶのが主な役割だけど、上空からの攻撃や、救助なんかにも使われてる」


「そうか……人員が多いのもそのためか」


「フル武装の一等兵がパイロットも含めて28人……大幅な戦力増強だな」


「ところで前から気になってたんだけど、このM27 IARとかシグ・ザウエルP320って銃の名前だよな? いつの間にか変わってたから聞きそびれたけど」


「ああ、M27 IARってのはアメリカの海兵隊で使ってるアサルトライフルだ。基本的に20式5.56mm小銃と大まかなスペックは変わらないけど、射撃精度が高いことで知られてる。利便性もあっていいライフルだよ」


「シグ・ザウエルは?」


「それはアメリカ陸軍で採用された自動拳銃だよ。9x19mmパラベラム弾を15発装填できる。特徴としては撃鉄ハンマー方式じゃなくて撃針ストライカー方式が使われてる所かな」


「ちょっと分からないな」


「まあ、それは覚えなくていいよ。重要なのは拡張性があるモジュラー式拳銃だってこと」


「モジュラー式?」


「多様なニーズに応じてカスタマイズできるってことだよ。色々なアタッチメントが付けらるんで、あらゆる状況に対応できるんだ」


「へ~」



 ハルトはソウタの知識に感心しつつ、改めてウインドウを見る。そんな装備を持つ兵士が28人もいるのか。心強いな、っと思いながら『部隊編成』の項目を使って、ブラックホークを『攻撃ヘリ部隊』に組み込む。

 

 《分隊》だった『攻撃ヘリ部隊』が《小隊》へと格上げされた。

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