第21話 戦力大幅強化
樹皮が弾けて、木の形成層が粉々に吹き飛ぶ。七発の徹甲弾は、魔物の胴体を深く貫いていた。
あまりの衝撃で、後退するイヴィル・フォレスト。
ボロボロになった自分の体を見て、頭を振って怒りを表す。どうやら全てのイヴィル・フォレストに共通する行動エフェクトのようだ。
「スナイパー部隊召喚! 左の魔物を倒せ」
三十名の兵士が召喚され、無傷で向かってくる木の魔物を視界に捉える。
兵士たちは進行し、最良の狙撃ポイントを探す。ハルトは一気に決着をつけようと、立て続けに魔法陣を開く。
「来い、砲撃歩兵部隊! 装甲車両部隊!!」
召喚可能な全戦力を投入し、相手に攻撃する隙を与えない。
全ての兵士は上官である【少佐・碓氷ハルト】の命令に従い、行動を開始した。
砲撃歩兵部隊は、右の傷を負った魔物に狙いを定める。砲身を肩に乗せ、二つのグリップを握って弾頭を敵に向けた。
その後ろには、アサルトライフルを構える五名の二等兵。
ハルトも『パンツァーファウスト3』を取り出し、構える。戦車七両も次弾装填が完了、フラつく魔物に照準を合わせた。
計十八基の砲撃。戦車の徹甲弾は幹を貫き、ロケットランチャーの擲弾は体表で大爆発する。イヴィル・フォレストの体は木っ端微塵。
煙と炎に巻かれ、虫の息。さらに兵士五名の銃撃は、傷ついた樹幹をさらに削り取ってゆく。
大気が揺れる。まるで魔物が叫んでいるようだ。
植物ゆえ聞き取ることはできないが、もはや絶命するのは時間の問題。それでも兵士たちは手を緩めることなく、戦車の機関銃で一斉掃射。
弾丸は根を抉り、枝を弾き、幹に食い込んで止めを刺す。
巨木は倒れ、一体のイヴィル・フォレストは絶命した。残り一体。
装甲車部隊は機関銃を掃射しながら、木の魔物に突撃してゆく。12.7mmと5.56mmの1000発を超えるNATO弾が、豪雨のように降り注ぐ。
後ろには、スナイパーライフルSR-25Mを構えた狙撃兵。アサルトライフルで狙いを定める兵士を含めて、計三十名での銃撃。
少しづつではあるが、魔物のHPを確実に減らしてゆく。
だがライフルの銃弾だけでは火力不足。イヴィル・フォレストは暴れ回り、根で近くの岩や木々を破壊していった。
「戦車部隊! 他の隊を援護しろ!!」
ハルトの命令で、七両の戦車は方向を変える。キャタピラがガリガリと稼働し、デコボコの地面も難なく走行する。
砲門を敵に向けた。戦車の砲弾は30から40発ある。
もう一体を屠るには、充分な弾数だ。
「撃てーーーーーーーーーーーーーっ!!」
七つの砲口が爆発し、徹甲弾はイヴィル・フォレストのどてっ腹に命中した。
大きくよろめく神樹の魔物。怒りに震えるように枝や樹冠を揺らす。幹にはいくつもの大穴が空き、パラパラと木片が落ちていた。
聞こえない断末魔の絶叫、だが確実に叫んでいる。
「終わらせろ!」
七両の砲撃と、装甲車八台の一斉射撃。魔物は為す術はなく、バキバキとへし折れ完全に沈黙した。完膚なきまでの勝利だ。
「ふー、手に汗握ったけど、やったなハルト!」
「ああ、やっぱり兵士たちは凄いよ」
戦場から戻ってくる兵士を見ながら、二人は感嘆の息を漏らす。
今日のゲームは終わりにしようとハルトは考え、ウインドウを操作して兵士たちを消すことにした。
兵士も、装甲車も、戦車も光の粒子となって空へ昇ってゆく。
「ログアウトする前に、レベルアップで追加されたものは教えてくれよ」
「ああ、分かってる」
ハルトはソウタに見えるように、ウインドウを縦スクロールして、今回、獲得した三つの『Summon addition』を表示させた。
「レベルは三つ上がって『21』になってるな」
「三つか……まあ、いいや。早く中身を教えてくれ!」
「いっぺんに開いていくぞ」
「おうよ!」
ハルトが立て続けに『Summon addition』をタップしていくと、追加召喚の項目がそれぞれ開示された。「なっ……」見ていたソウタが絶句する。
レベル19
『召喚:【16式機動戦闘車】×2両【中距離多目的誘導弾搭載高機動車】×2両 【搭乗員】12名』[装備 ベレッタ92F]
レベル20
『召喚:【攻撃ヘリ(AH-1Z「ヴァイパー」)】【搭乗員】2名』
レベル21
『召喚:【攻撃ヘリ(AH-64 「アパッチ」)】2機【搭乗員】4名』
「お、おおおお……攻撃ヘリが出てきたぞ……『ヴァイパー』に『アパッチ』かよ」
「攻撃ヘリ……なんだか強そうだな」
「そりゃそうだよ。本来、ヘリってのは輸送用なんだ。戦場に多くの兵士を運ぶのが主な役割になる」
「確かに、そのイメージがあるな」
「だけどコイツは違う。機関砲やロケット弾を装備し、戦車よりも高い機動性を持つ。もっとも、打たれ弱いっていう防御面の弱点はあるけどな」
「じゃあ、相手の射程距離外から攻撃すれば、かなり強いってことか」
「そういうこと。特に『ヴァイパー』は最新鋭の機体だからな。戦力としてはメチャクチャ強いと思うぞ!」
なるほどな。と感心しながら、ハルトはウインドウに目を落とす。『ヴァイパー』はともかく、アパッチぐらいなら聞いたことがあった。
そんな物をゲームの中とはいえ、自分が扱えるようになるとは不思議な気分だ。
「この16式機動戦闘車って、どんなものなんだ?」
「ああ、それはキャタピラがついてない戦車だよ。まあ、厳密に言うと戦車とは違うんだが、八輪のタイヤで高速移動もできるし、砲門も戦車と変らないから、かなりの戦力強化にはなるな」
「ふ~ん、それじゃあ、この中距離多目的誘導なんちゃらってのは?」
「対戦車ミサイルだ。それを高機動車に取り付けたんだと思う。これも戦力としてはかなりデカいな」
「そうか……じゃあ、さっそく『部隊編成』してみるよ」
ハルトはウインドウを操作して、各部隊に新戦力を割り振った。
「16式機動戦闘車と誘導弾搭載高機動車は戦車部隊へ。攻撃ヘリ三機は、新しい『攻撃ヘリ部隊』を作ってまとめておく」
ハルトの編成を見たソウタも、納得したように頷く。
「うん、それでいいと思う。『攻撃ヘリ部隊』はまだ人数が少なくて《分隊》扱いだけど、そのうち人数も増えてくるだろうし」
ウインドウで現実時間を見ると、プレイしてから一時間が経っていた。
「九時も回ったし、今日はこれで帰るよ」
「本当にきっちりしてるな。これから面白くなりそうなのに……」
「まあ、そう言うな。また明日な」
ハルトはそう言ってログアウトボタンを押した。視界が閉じる瞬間、ソウタが「分かったよ」と諦めるように手を振っているのが見えた。
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