第三章 神樹の森でレベリング
第19話 初陣
「こ、これが魔物……?」
「気をつけろ、ハルト! そいつの攻撃範囲は30メートル、近づき過ぎれば強力な根っこに叩きつけられるぞ! 葉っぱを手裏剣みたいに飛ばす攻撃もあるから遠距離から攻撃するんだ!」
イヴィル・フォレストはバリバリと地中から根を引き抜いて、まるで歩くように向かってくる。これはマズイと思い、ハルトは召喚を実行する。
「召喚! M1A2戦車!!」
ハルトの前に大きな魔法陣が現れ、鋼鉄の怪物が降臨する。
60tを超える重量、それを支えるキャタピラが大地に食い込む。主砲は44口径120mm滑腔戦車砲。
車上には副武装として12.7mm重機関銃M2、M240機関銃、M153 CROWS IIなど重火器を装備。対戦車ミサイルを迎撃するAPSまで搭載される。
敵との距離70メートル。M1A2戦車、通称〝エイブラムス″は、その主砲を緑の頭を振りながら歩いて来る〝樹″の魔物に向ける。
主砲の有効射程は4000メートル以上、この距離なら充分な威力が見込めた。
「撃てっ!!」
主砲の先端が爆発。苛烈な火花と共に、装弾筒付翼安定徹甲弾が砲口初速1,580m/sを超える速度で飛び出す。
貫通するのに特化したタングステン合金の砲弾は、イヴィル・フォレストのどてっ腹に炸裂した。わずかに遅れて轟音が鳴り響き、辺りは煙で覆われる。
着弾した魔物の樹皮は粉々に砕け散り、幹に大きな傷を付けた。
「おお……」耳を塞いでいたソウタが目を丸くする。
「さすがに凄い威力だな」
巨大な木の魔物は動きをピタリと止める。恐らく自身でも想像していなかった攻撃の威力なのだろう。
自分の体についた傷に怒りを覚えたのか、イヴィル・フォレストは頭を振り乱し、巨大な根をバタつかせて向かって来た。
「枝が手みたいに見えるぞ、人間みたいだよな」
呑気なことを言うソウタをよそに、ハルトは焦る。相手に近づかれては勝ち目がない。ある程度距離があるうちに決着をつけなければ。
「撃ち続けろ! エイブラムス!!」
二発目の砲撃、着弾すると木の魔物は声にならない叫びを上げた。上体はよろめき、幹には大きな穴が開く。
パラパラと舞い散る木片。戦車の攻撃力に驚愕しているようだ。
「ハルト!」
「ああ、分かってる。召喚! レオパルト2A6戦車、二両!!」
手前に二つの魔法陣が光輝く。出現したレオパルト2A6は、エイブラムスにつき従うように前進した。
三両の砲門がイヴィル・フォレストに狙いを定める。
「吹き飛べ!!」
ほぼ同時に火を噴く主砲、三発の徹甲弾が次々と着弾し、木の樹皮を吹き飛ばしてゆく。あまりの威力に樹の魔物は踏鞴を踏むように後退。
ウインドウで相手のHPを確認すると、すでに30%以上減っていた。
「いける! そのまま突撃しろ!!」
相手との距離を保ちながら、全速全進。戦車は意外と速く、時速70キロで走行することができる。左から回り込み、砲撃を続けた。
イヴィル・フォレストも反撃しようと、太く長い根を振り回すが、射程距離外で戦車には届かない。
反面、120mm滑腔戦車砲は動き回る根っこも弾き飛ばし、幹にも直撃。
更に副武装である12.7mm重機関銃M2やM240機関銃の一斉掃射。戦車の装甲さえ貫く銃撃に、魔物は藻掻き苦しみながらHPを削られてゆく。
まさに走る武器庫。その光景をハルトとソウタは息を呑んで見守っていた。
戦車の絶え間ない攻撃に、イヴィル・フォレストの動きは鈍くなってくる。樹冠が揺れ、葉がパラパラと落ちてきた。
弱ってきてる。ハルトはそう確信し、一気に勝負を決めようとする。
「兵士十名、召喚!」
大きな魔法陣が開き、十名の兵士がまとめて現れた。彼らは全員SMAW ロケットランチャーを持っている。
ハルトの前で扇上に展開し、片膝をついて射撃体勢に入った。
ハルトもウインドウから『パンツァーファウスト3』を取り出し、肩に乗せてグリップを握る。それぞれの弾頭は、怒り狂う樹の魔物に向けられた。
「これで終わらせる!」
計十一人が引き金を引く。爆発音が重なり、白煙が噴き出す。初速220m/sで発射された擲弾は、イヴィル・フォレストの樹冠や、幹や、根元に全て着弾。
次々に爆発、炎上してゆく。
木の魔物は枝を振り乱し、苦しんでいるように見えた。火に包まれる様子を横目に、ハルトはウインドウを確認する。
魔物のHPは、残り一割もない。
三台の戦車は、主砲の照準をピタリと燃え上がる敵に合わせる。
「行けーーーっ!!」
三つの砲門が爆発、徹甲弾はどれも木の腹に直撃した。樹皮が吹き飛び、幹の一部が木っ端微塵になる。
樹幹は大きく
「やった、やったぞ、ソウタ!」
「お、おう……本当に一人で倒しちまうとは……」
イヴィル・フォレストは完全に倒木し、燃え上がっている。ウインドウを見ても、HPはゼロになっていた。
完全勝利だ。ハルトは強敵を倒した喜びを噛みしめつつ、自分のステータスを確認する。
「よし! レベルが二つ上がって18になってるぞ」
「二つか……三つぐらい上がるかと思ってたんだが」
ソウタが少し残念そうに呟く。以前、ソウタは
ウインドウをスクロールしてみると、いつものように『Summon addition』が二つ並んでいた。
一つ目の『Summon addition』をタップする。
開いて表示されてものを、ソウタと二人で覗き込んだ。
『召喚:【10式戦車】4両 【搭乗員】12名』
「ああああああああ!!」
「なんだ、いきなり!?」
突然大きな声を出すソウタに、ハルトが驚く。
「ついに出た! 『ヒトマルシキ』だ!!」
「そんなに有名なのか?」
「自衛隊で正式採用されてる戦車だよ。小型だけど小回りがきいて機動性が高いんだ。日本では一番人気のある戦車だな」
「へ~」
相変わらずソウタの知識には感心する。10式か……小型とはいえ、四両の戦車は大きいな。
ハルトはそんなことを考えながら、次の『Summon addition』をタップした。
『召喚:【
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