第18話 待ち望んだ兵器

 それはマーキーズ・ブリリアントカットされた琥珀色の宝石に、チェーンがついたペンダントだ。


 ハルトは自分の首に『カリブディスの結晶』をかけてみる。初めて手に入れたドロップアイテムに、思わず顔が綻ぶ。


 ウインドウで確認すると、ちゃんと装備扱いになっていた。



「魔力を20%削減か……結構大きいな」


「レベルはどうなってる?」



 ボーナスアイテムに気を取られていたな。と思い、ハルトはステータスを見る。



「すごい、三つも上がってレベル16になってるぞ」


「まあ、あれだけの数の敵を倒したんだから、当然と言えば当然だよな。で、今度はどんなものが召喚できるんだ? それとも武器の追加か?」



 相変わらずソウタはハルト以上に楽しんでいる様子が見て取れる。ハルトは一つ嘆息し、レベルアップの詳細を確認した。



『Summon addition』

『Summon addition』

『Summon addition』



「全部、召喚みたいだ。武器の追加はないな」



 ハルトは一番上にある『Summon addition』をタップした。



 『召喚:【一等兵】20名』[装備 コルト M45A1 CQB・M249(MINIMI) 

各種マガジン・サバイバルナイフ・手榴弾×2]



「おお、ええ? 一等兵!? 今までの二等兵より強いってことか? 武装も一新されてるし……小銃がM249になってる!?」



 混乱してるソウタは無視して、次の『Summon addition』をタップする。出てきた内容を見て、ハルトとソウタの動きが止まる。



「……え? これって……」


「とうとう出てきやがった! 絶対あると思ってたぜ」



 そこには『【M1A2エイブラムス戦車】【搭乗員】4名』と書かれていた。ミリタリーの知識がないハルトでも、さすがに戦車は知っている。



「すげーよ、ハルト! 最強の攻撃力を持つと言われるアメリカの主力戦車、M1エイブラムスだ!!」



 ハルトは「へ~」という感想しか出なかったが、ソウタはえらく興奮していた。



「こんなのを間近で見れるなんて……マニアなら垂涎物だぜ! ハルト、さっそく出してみてくれよ!!」


「ん? なに言ってんだ。もう魔力がないんだぞ」


「ああ……そうだった」



 心底残念そうに項垂れるソウタ。そんな時、ウインドウに視線を移すと、現実時間を表す時計が目に入る。



「あ! もうこんな時間か、またやり過ぎたな……帰らないと」


「ええええ!? ちょっと待ってくれ! せめて三番目の『Summon addition』で何が召喚できるようになったのか教えてくれよ」


「明日にしよう、じゃあな」



 ハルトはそう言って、ログアウトボタンを押す。呆気に取られるソウタを残して、ハルトの視界は暗転した。



 ◇◇◇



「おい! もうちょっとぐらい続けてもいいだろう。早すぎるよ、落ちるのが!」



 学校に来ると、さっそくソウタの愚痴が始まる。



「やることが沢山あるんだ。遊んでばっかりはいられないよ」


「じゃあ、レベル16で何が召喚できるようになったか見たのか?」


「いや、見てないな」


「なんでだよ! 気になるだろ、普通!?」


「どうせ今日またやるんだから、その時確認すればいいだろ」


「……ドライすぎる……」



 ソウタが呆れた顔をする横で、ハルトは鞄から文庫本を取り出し、いつものように読書を始めた。


 ソウタが溜息をつき、トボトボと自分の席に帰ろうとすると「あ、そうだ」とハルトが呼び止める。



「どうした?」


「今日もゲームをやろうと思ってるけど、時間は一時間だけな」


「一時間!? 短すぎるだろう!」


「いや、一時間だけにする。昨日も一昨日も三時間以上やってしまったからな。実生活に支障がでる」


「なあ、ハルト。ゲームってそんなもんだぜ」



 ソウタはもっとやろうと誘ってくるが、ハルトは頑として拒む。



「だから攻略に時間がかかるものじゃなくて、一時間以内に区切りがつくようなクエストを教えて欲しいんだ」


「マジか……空いた時間は勉強すんのか?」


「それもあるが、読みたい本が山積みになってるからな。手をつけていかないと」



 ソウタはハアーッと息を吐き、



「分かったよ、短時間で攻略できそうなところ考えとく」


「ああ、頼む」



 自分の席に戻っていくソウタを見送り、ハルトは改めて文庫本に目を落とす。いつものように授業が始まるまで、静かに読書にふけることにした。



 ◇◇◇



「……ここは」



 ログインするなりソウタに連れてこられたのは、〝モルゼの森″よりも、やたら高い木々が生い茂る森だ。


 日本の屋久島のような、神秘的な雰囲気がある。



「上級者向けの攻略ポイント『神樹の森』だ。でもハルトには向いてると思うぜ」


「ふ~ん」



 二人は森に足を踏み入れ、辺りを見回しながら歩いて行く。



「ここは魔物が一種類しか出てこないんだ。でも、やたら強い。俺もソロだと勝てない自信がある」


「そんな強い相手に、俺なんかが勝てるのか?」


「戦車を有効に使うなら、もっとも理想的な相手だ。たぶん大丈夫だよ」



 ソウタが立ち止まる。そこには五十メートル以上ある立派な木がそびえ立っていた。



「ところで最後の『Summon addition』は、何を召喚できるんだ? いい加減、確認してくれよ」


「ああ」



 ハルトはウインドウを開き、レベル16で獲得した『Summon addition』をタップする。展開した内容を二人でマジマジと見た。



 『召喚:【レオパルト2A6戦車】2両 【搭乗員】8名』



「おおおおお! レオパルト2A6、マジか!?」


「また戦車か? これで三台になったな」


「簡単に言うな! レオパルト2A6だぞ!? 感動はないのか?」


「いや、知らんし」


「ドイツが造り出した主力戦車で、とにかく性能バランスがいいんだ。拘束セラミック式の複合装甲による防御力。55口径120mm滑腔戦車砲と副武装である MG3A1 7.62mm機関銃を搭載。それにエンジンは1500馬力の――」


「――で、その強い魔物ってどこにいるんだ?」



 ソウタの講釈が終わりそうにないので、無理矢理話題を変える。



「ん? ああ、もう目の前にいるよ」



 ソウタに言われて辺りを見回すが、特になにもいない。あるのは背の高い、屋久杉のような木が立っているだけだ。



「そいつが〝樹″の魔物『イヴィル・フォレスト』だ!」



 木はメリメリと動きだし、枝に止まっていた小鳥たちは一斉に飛び立つ。幹の部分がボロボロと崩れ落ち、悪魔のような顔が浮かび上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る