第17話 重火器
何十、何百の弾丸が放たれる。確実に着弾するが、巨大ヤドカリの甲殻で弾かれてゆく。
「くそ! なんだ、あの硬さ」
「さすがラスボスだな。ハルト、俺が突っ込んで足止めするよ」
「ダメだ! そんなの危険すぎる!!」
死んでしまうと、ゲーム内で稼いだ金や装備が失われてしまう。特にやり込んでいるソウタは失う物が多い。ソウタを生かすのは最低条件だ。
ハルトはそう考えていたが、もう魔力はない。
何もできないのか――と思った時、ソウタが声を上げる。
「おい! アイツの体、傷ついてないか!?」
俯いていたハルトが顔を上げる。見れば、確かに巨大ヤドカリの甲殻に傷が入っていた。
「おかしい……俺が撃った銃弾は弾かれて、大した傷になってない。どうしてあんな傷が……」
不思議に思ったハルトだが、ふと、上から聞こえる大きな音に気づく。
「12.7mm重機関銃だ!」
ソウタが車の天井を見上げて叫ぶ。確かに自分たちが乗る82式指揮通信車に搭載された機関銃の音だ。
20式5.56mm小銃は小火器だが、12.7mmは重火器。威力は格段に強い。
12.7mmの弾幕によって、巨大ヤドカリは車に近づけないようだ。銃撃で外殻に傷が入り、明らかにダメージを受けている。
「このままいけるんじゃ……」
ハルトが希望を抱いた時、鳴り響いていた機関銃の掃射音が止まる。
「え?」
「まずい! 弾が切れたんだ」
ソウタの言う通り、12.7mm重機関銃はリンクベルト給弾で、弾帯一本につき110発。それが三本の予備しかないため、5.56mm機関銃より早く弾が尽きる。
「ダメだ……もう、予備の弾がない。改めて召喚するための魔力もない……」
「なに言ってんだハルト、12.7mmの銃ならあるじゃないか!」
絶望的な気持ちになっていたハルトは一瞬、ソウタがなんのことを言っているのか分からなかった。
「まさか――」
「ああ、あの化物ライフルだよ!」
ソウタの言葉にハルトは頷き、ウインドウを開く。巨大ヤドカリの体はボロボロだ。強力なライフルなら貫けるかもしれない。
ウェポンのメニュー欄から、『バレットM82A1』をタップする。
目の前に1メートル40センチ以上もある、大型のライフルが姿を現す。手に持てばズシリっと重く、鋼鉄の銃身は鈍く輝いていた。
「おお! 実物はやっぱり迫力があるよな」
ミリタリーマニアのソウタは目をキラキラと輝かせているが、今はそれどころではない。
ハルトはライフルの
長いストロークのボルトを引くと、ガチャリッと重々しい金属音が鳴る。
安全装置をはずし、照準器を覗き込む。マガジンにある弾は11発、予備は無い。
「来るぞ!」ソウタの檄が飛ぶ。
12.7mm重機関銃の弾幕が切れたことで、巨大ヤドカリが加速して迫ってきた。
狙撃対象が自分から近づいてくる。外すことはない。
「喰らえ!」
トリガーを引き絞る。想像以上の音と衝撃。反動で銃床が肩に食い込む。
マズルブレーキから煙が噴き出し、銃口速度853m/sの弾丸が容赦なくヤドカリの甲殻を貫いた。
「ギイィィ、エッ!?」
ヤドカリも驚いたのか素っ頓狂な声を上げる。すでに12.7mm重機関銃でかなりのダメージを受けていたうえ、至近距離からの発砲で遂に外殻を破った。
だが反動が大きすぎて狙いが逸れ、頭の右側に着弾。
巨大ヤドカリは少しよろめくも、すぐに体勢を立て直し追いかけてきた。
ハルトはもう一度狙いを定める。
怒りを露にする魔物は、長く伸びた脚を車の屋根にかけた。指揮通信車のスピードはガクンッと落ち、ガリガリと地面を削る音がする。
この車を止めようとしてるのか? 確かにそれだけのパワーはありそうだ。
だが車体に脚をかけたことで、ヤドカリの顔は目の前にある。銃口との距離はわずかに一メートル。
さっきは射撃時に狙いがブレたが、次は絶対に外さない。
「グオオオオオオオオオッ!!」
悍ましい咆哮。巨大ヤドカリの口が開く。
「終わりだ」
ハルトが引き金を引いた瞬間、衝撃と共に12.7mm NATO弾が発射される。回転する弾丸は、狙い通りヤドカリの口の中へと吸い込まれていった。
そのまま内部を突き破り、後頭部を吹っ飛ばす。体液と脳髄が辺りに飛び散り、巨大ヤドカリは動きを止めた。
脚は力なく車から離れ、後方に倒れ込む。
絶命した魔物を置き去りにし、車は速度を上げて引き離していく。それでも小さなヤドカリたちは諦めることなく追ってきた。
倒れた巨大ヤドカリを飲み込み、集団となって向かって来る。
「まだ来るのかよ!!」
苦々しく叫ぶソウタ。ここまで来て捕まる訳にはいかない。
三台の装甲車はスロットルを全開にして洞窟を駆ける。ガタガタと揺れる車、走っているのは舗装された道路ではない。
それでも100キロ近い速度を出し、追いすがる魔物たちを引きはがす。
そして――
洞窟の出口を駆け抜け、陽光の下へと飛び出した。
車は急ブレーキをかけ、後輪がスリップしながらもなんとか止まる。指揮通信車の後部ハッチからソウタが降りると、
「やっと出れたぜ! 長かったーーーー!」
大きく腕を伸ばし、満面の笑みを浮かべて喜ぶ。ハルトも車を降り、洞窟の入口を見やる。
そこには大量のヤドカリが押し掛けていた。太陽の光が苦手なのか、日陰の部分までしか来ることができないようだ。
「やったな、ハルト!」
「ああ」
ウインドウを確認すると『特殊ミッション:悪魔の洞窟からの脱出完全クリア』と表示されていた。
「クリアによるボーナスがあるみたいだぞ」
ソウタの言う通り、クリアボーナスというのが表示があった。タップしてみると、一つのアイテムがウインドウ画面に映し出される。
『カリブディスの結晶』★★★★☆☆☆
MPの消費を20%削減する。
「おお、すげーいいアイテムじゃん。ハルト、良かったな!」
「え? 俺がもらっていいのか、二人でクリアしたミッションだろ?」
「なに言ってんだ、いいに決まってんだろ! 敵のボスだってお前が倒したんだし、それに俺は重戦士で、魔力なんかほとんど使わないからさ」
「そうか……だったら遠慮なく貰うよ」
ハルトはウインドウにある『カリブディスの結晶』をタップして顕現させた。
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