第13話 迷宮脱出
倒れたミノタウロスは動かない。今の爆発でHPを全て持っていったようだ。
「勝った……よな」
「やったな、ハルト!」
ソウタが笑顔で駆けつけてくる。
「ああ、それにしても兵士たちの行動には驚いたな。車を運転したり、突っ込んで自爆するなんて……」
「兵士にもNPCと同じように、独自で行動するAI機能があるのかもしれないな。このゲームはNPCがリアルで有名だから」
「そうなのか……」
ゲームに詳しくないハルトは、そんなものかと深くは考えなかった。
「そうそう、『エーテル』は使わずに済んだよ」
「なんだよ! 使えば良かったのに。装甲車を召喚して機関銃で掃射すれば、あっと言う間に倒せたと思うぞ。いや~見たかったな」
悔しがるソウタに『エーテル』を返し、ハルトはウインドウを開く。ステータスを確認すると、レベルが13まで上がっていた。
「レベルが二つ上がってる。トロールの時と同じだな」
ハルトが素っ気なく言うと、ソウタはハアーッと大きな溜息を吐く。
「おい、ハルト! そんなに落ち着いてないで、もっと喜べよ! 中級者用のダンジョンを踏破したんだぞ。それも、ほぼソロでだ」
「そうかもしれないが、ソウタの手助けが無かったら無理だったよ」
「相変わらず淡々としてるな。まあ、ハルトらしいといえば、らしいけど……」
小言が終わったようで、ソウタもウインドウを覗き込んでくる。
「――で、今度はどんなものが召喚できるんだ!?」
「結局、興味津々だな」
ソウタは、ハルト以上にレベルが上がるのを楽しみにしているようだ。早く確認してくれと、急かしてくる。
「分かったよ」
ソウタに言われて、ステータスの項目に視線を移すと、いつもとは違う表記があることに気づく。
『Summon addition』
『Summon addition&Weapon addition』
「ん? Summon additionは分かるけど、Summon addition&Weapon additionってなんだ?」ハルトは初めて見る文字列に訝しがる。
「取りあえず開いてみようぜ」
我慢できないソウタに促され、まずはレベル12に上がった時に獲得した『Summon addition』を開く。
『召喚:【73式小型トラック(12.7mm重機関銃M2搭載)】×4台【二等兵】16名』[装備 20式5.56mm小銃 ベレッタ92F]
「おおおおっ! 73式小型トラック!? それも4台! 兵士も16人だぞ。すげえ!!」ソウタが興奮して目をしばたかせる。
「確かに……どんどん凄いものになっている感じだな。もう一つの方は……」
ハルトは『Summon addition&Weapon addition』をタップする。ウインドウに表示された内容を見て、二人は言葉を失う。
『召喚:【
[装備 20式5.56mm小銃・ベレッタ92F]
『
ベレッタ92F用×30 89式5.56mm小銃用×50 20式5.56mm小銃用×50
手榴弾×100 スタングレネード×30 サバイバルナイフ×20
SMAW ロケットランチャー×10 バレット M82A1』
「これは……」
いつもは、はしゃいでいるだけのソウタもさすがに眉間に皺を寄せ、唸り声を上げていた。
そんな中、ハルトは冷静に獲得した武装の内容を確認する。
「初めて予備の弾倉が出てきたな。それに、この輸送防護車って……」
「陸上自衛隊が採用してる人員輸送車両だ。防弾ガラスや車体の炎上を防ぐプロテクト装甲。とにかく防御力が高いのが特徴だな。最大10人まで兵士を運ぶことができる。――にしてもマニアックだな」
「車もそうだが、それ以上に武器、弾薬が多すぎないか?」
「ああ、確かに。ロケットランチャー10基に手榴弾が100、スタングレネードが30か……運営サイドのシステムが壊れたんじゃないのか?」
呆れかえるソウタだったが、ハルトはそれ以上に気になる武器があった。
「このバレットM82A1ってなんだ?」
「ああ、対物ライフルだな。凄まじい威力のライフルで、対戦車ライフルとも呼ばれてる」
「対戦車ライフル……」
ハルトはなぜか、その銃が気になった。『バレット M82A1』その後長く愛用することになるなど、この時は知るよしもなかった。
「じゃあ、ダンジョン攻略も終わったし、戻るとするか!」
ソウタはウインドウを開き、アイテム欄を表示させる。目の前に緑色に輝く羽が現れたので、パシッと掴み取った。
「迷宮脱出用のアイテム〝エメラルドの羽飾り″だ。こいつで一気に出口まで行こうぜ!」
「便利な物を持ってるんだな」
「まあな、困ったことがあったら、いつでも俺に言いたまえ。ハルト君」
ソウタはおどけた様子で、持っていた羽飾りを放り投げる。地面に当たるとパリンと砕け、中から眩い光が漏れ出た。
一瞬でダンジョンの出入口に移動してしまう。
……はずだったが。
「あれ?」ソウタがキョロキョロと辺りを見回し、驚いた表情を浮かべる。
二人が移動したのは先ほどとは違う場所だが、ダンジョンの出口ではない。
「なんでだ?」
怪訝な顔をしながら、ソウタは自分のウインドウを開く。
「おっかしいな……なんでこんな中途半端な所に……」
「こんなこと、今までもあったのか?」
「いや、初めてだ。システムエラーかな?」
ソウタが不思議がっていると、洞窟の奥から、なにかの音が聞こえてくる。
「なんだ?」
二人は洞窟の奥に視線を向ける。なにかがやって来る。それも一匹や二匹ではない、もっと大勢。ソウタは嫌な予感が脳裏をかすめた。
「まさか……いや、そんな……」
「どうした、ソウタ?」
「逃げるぞ、ハルト! こいつは滅多に起こらない特殊イベント――」
出口の逆方向からワラワラと魔物が這い出してくる。それはヤドカリのような青白い姿をし、体高が2メートルほどの多足生物。
地面を埋め尽くすほどの数が、二人に向かって迫ってきた。
「ダンジョン・スタンピードだ!!」
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