第12話 最下層の激闘
中は気温が低く、とても肌寒い。
トロールがいた場所と同じように、開けたドーム状の空間。中央には、一体の魔物が立っていた。
巨大な斧を手に携え、二つの立派な角を持つ。筋骨隆々の体躯と獰猛な牛の顔。
ゲームに疎いハルトでも、その魔物は見たことがあった。
「ミノタウロス……」
「ゲームの序盤に出てくる最初の強敵だ。俺は手を貸さないから、全力で戦ってみろ。ハルト!」
ソウタが一歩下がり、戦いを見守るようだ。ハルトはウインドウを開く。
「兵士を全員召喚する!」
召喚可能な兵士15人が魔法陣から現れた。82式指揮通信車は重機関銃が弾切れになっているため、乗っていた兵士2人を降ろし戦闘に参加させる。
ハルトを含めて、計18人が銃を構えてミノタウロスと対峙した。
身の丈3メートルはある魔物は、口から白い息を吐きながら近づいて来る。のっそのっそと緩慢な歩き方から、徐々に足を速めて疾走してきた。
兵士たちは前列9人がしゃがんで銃を構え、後列9人が立ったまま銃を構える。
ミノタウロスとの距離は10メートル。射程距離としては充分引き付けていた。
「撃て!!」
ハルトの号令で一斉射撃。89式5.56mm小銃と20式5.56mm小銃から放たれた弾丸は、
銃撃があんな化物に通用するのだろうか?
ハルトの心配をよそに弾丸はミノタウロスの肩に、顔に、腕や足に着弾してゆく。トロールとは違い、強靭な肉体は弾丸を貫通させなかった。だが――
「ウオオオオオオオーーーッ!!」
ミノタウロスの足が止まる。体からは血が流れ、HPも削れていた。
確実に効いている。兵士たちは前進し、ミノタウロスを囲い込みながら発砲する。
フルオートの銃撃。相手は堪らず斧と腕で攻撃を防ごうとした。だが、全ての銃弾を防げるはずがない。
――いける。ハルトはそう考え一歩前に出たが、銃弾の雨は突然ピタリと止まってしまう。
「弾切れ……」
フルオートで撃っていた分、弾が尽きるのも早かった。兵士たちはアサルトライフルを投げ捨て、腰のホルダーから拳銃を抜く。
ミノタウロスは、その時を待っていたかのように、ゆっくりと腕を開いた。
発砲―― 兵士が魔物の頭を狙うが、一歩踏み込んだミノタウロスの一振りで、二名の兵士が斬り殺された。
後ろに倒れると、光の粒子となって消えてゆく。
残った兵士も頭に向けて撃つが、HPの減りが遅い。
「頭が弱点じゃないのか……?」
更に4人の兵士が斬り飛ばされる。残り8人。ミノタウロスの動きは速く、一歩で距離を詰め、兵士を殺してしまう。
「足だ! 足を狙って撃て!!」
兵士に命令を送る。以前、ソウタに聞いた話によれば、ダメージを与える部位によって効果が違うそうだ。
足のダメージは俊敏性や回避率に影響するらしく、素早い相手はまず足を狙うのがセオリーだと言っていた。
ソウタを見ると納得した顔をしている。これで正解らしい。
全員がコルトガバメントやベレッタをミノタウロスに向け、残弾を撃ち尽くす。怒りをあらわに斧を振って兵士を殺してしまうものの、明らかに動きが鈍っている。
手榴弾を持つ兵士がピンを抜いて投げつけた。魔物の足元で爆発するが、けたたましい咆哮を上げ、かまわず突進してくる。
弾が切れた兵士では、ミノタウロスの相手にはならない。
一方的な蹂躙。サバイバルナイフを持つ兵士が斬りかかっていくが、斧を振り回すミノタウロスに斬り裂かれていく。
17人の兵士が全員殺された。それでも相手のHPは半分近くになっている。
「いける……充分あいつに通用するぞ!」
ハルトはウインドウを開き、再び兵士を召喚する。MPはほとんど無くなったが、これで相手を倒せるはずだ。
ハルトはそう考え、兵士たち全員を突撃させる。フルオートで連射される弾丸。
次々と着弾し、ミノタウロスの体力を削っていく。もう少し――そう思った瞬間、魔物の様子が変わり始める。
皮膚は赤黒く変色し、目は血走って全身から蒸気を噴き上げる。
「なんだ!?」
「気を付けろ、ハルト! HPが3分の1になると第二形態に移行して、攻撃力と俊敏性が50%上昇するぞ!!」
「そういうことは最初に言ってくれ!」
ミノタウロスが屈みこみ、力を溜めて一気に間合いを詰める。斧を振り抜くと5人の兵士が腹から両断された。
残った兵士が一斉に発砲、当たっているが構わず斧を振り下ろす。
兵士がまた一人殺され、光の粒子となって消えていく。ミノタウロスは背後から発砲していた兵士を、振り向きざまに斧で斬りつける。
簡単に首が刎ねられ、二人が倒れた。
「くそっ! さすがに強いな」
弾幕を張っても鋼鉄の斧で防ぎながら突っ込んで来る。HPは残り5分の1を切った。あと、もうちょっとなのに――
そう思った瞬間、ミノタウロスはハルトの目の前にいた。
気づけば、残った兵士はハルトの前にいる2人だけ、ギラギラとした目で睨みつけてくる双角の悪魔。容赦なく斧を振り上げる。
その時、ガリガリっと地面を削る音がした。振り返ると、止めてあったはずの82式指揮通信車が走行している。運転席にいたのは召喚した兵士の一人。
アクセルを全開にして向かってくる。ミノタウロスは興奮し、通信車に対して攻撃しようとした。
だが相手は重さ13トン、最高速度100キロを出す鋼鉄の装甲車だ。
ミノタウロスの斧は車体のフロント部分を傷つけたが、車両はそのまま突っ込み衝突した。ミノタウロスの体が九の字にひしゃげる。
あまりの衝撃に両者吹っ飛び、通信車は横転、ミノタウロスは地面に体を打ちつけ、岩壁まで転がっていった。
走行できなくなった車両は、そのまま光となって消えていく。
「……やったのか?」
動かなくなったミノタウロス。だがウインドウで相手のステータスを確認すると、HPがわずかに残っている。
見ると斧を手にした怪物は、ヨロヨロと立ち上がった。こちらはアサルトライフルの弾はすでに切れ、拳銃の弾も残りわずか。兵士も二人しかいない。
これで相手のHPが削り切れるだろうか……。
ソウタにもらった『エーテル』は後一本あるが、できれば使いたくなかった。
高いアイテムを何度も使わせてしまったのが、申し訳なかったからだ。だが、このままでは負けてしまう。エーテルで魔力が回復できれば『装甲車』を召喚できる。
そう思っていると、二人の兵士が飛び出した。
なにも命令はしていない。ベレッタで数発撃ち込むが、ミノタウロスの強靭な筋肉に弾かれ、大したダメージは与えられない。
それでも兵士は前進し、タクティカルベストに付けられた手榴弾のピンを抜く。
持っていた拳銃を投げ捨て、二人の兵士はミノタウロスの足にしがみついた。怒った魔物は兵士の頭をつかんで引きはがそうとするが、瞬間――
手榴弾が爆発。ベストについていた他の手榴弾にも次々に着火し、大きな爆発となって、ミノタウロスの足を吹き飛ばした。
「ウガァァァアアッ!!」
絶叫と共に、化物は炎に飲まれてゆく。
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