第11話 召喚、人ならざるもの

「おお……本当に倒しちまった」



 ソウタが呆れるように呟く。二人でトロールの元へ行き、本当に死んでいるか確認する。HPはゼロになり、復活する様子もない。


 たとえ再生能力があっても、胴体を分断されては再生できないようだ。



「ハルト、レベルはどうなってる?」



 ソウタに聞かれて、ハルトはウインドウを開く。そこには『Summon addition』の文字が二つ並んでいた。



「レベルが10になってるな。二つ上がったみたいだ」


「まあ、トロールは本来レベル8のソロで勝てるような相手じゃないからな。当然と言えば当然か」



 さっそく『Summon addition』の一つ目をタップする。出てきたのは――



『召喚:【二等兵】8名』

[装備 20式5.56mm小銃 ベレッタ92F サバイバルナイフ]



「おお、今度は八人か! どんどん増えてくな。しかも装備が新しくなってサバイバルナイフも持ってるぞ」



 ハルトも兵士の持つ装備が気になった。



「初めての刃物だけど、これがあれば消えないんじゃないか?」


「確かに! 弾薬は無くなれば強制的に兵士が消えるけど、ナイフは消えないからな。これがあれば戦い続けられる……今度、試してみようぜ!」



 ソウタの提案に頷きつつ、もう一つの『Summon addition』をタップする。出てきた表示を見た二人は、自分の目を疑う。そこに表示されていたのは――



『召喚:【82式指揮通信車(12.7mm重機関銃搭載)】【二等兵】2名』

[装備 20式5.56mm小銃 ベレッタ92F]



「え?」


「これは……」さすがのソウタも絶句する。



 表示されているのは兵士付きの装輪装甲車だ。MPの消費量は多いが、兵士以外のものが召喚できることに二人は驚く。



「おいおいおい、マジか!? なんでもアリなのか、この職業?」


「指揮通信車ってどんなのだ? いまいち想像できないんだが……」


「自衛隊にあるヤツだよ。写真で見たことはあるけど……取りあえず召喚してみようぜ!」



 ソウタに促され、ウインドウの『82式指揮通信車』の文字をタップする。地面に大きな魔法陣が描かれ、一際強い光が溢れる。


 眩い輝きの中から現れたのは六輪のタイヤを持つ大型の装甲車。見た目は厳つく、迷彩柄の車体の上には重厚感がある機関銃があり、兵士がトリガーを握っていた。



「すげ~」



 ソウタは目を見開き、子供のようにはしゃいでいる。まじまじと観察し、鋼鉄の車体をコンコンと叩く。



「すげー、すげーよ! 82式指揮通信車をこんな間近で見れるなんて!!」


「あくまでゲームの中だけどな」


「おいおい、ハルト! なんでそんなに冷静なんだよ! この車両を見てなんとも思わないのか!? 大口径のタイヤに重厚なボディ、そして鈍く光る銃口が――」


「これ、乗れるのかな?」


「聞けよ! 人の話!!」



 ハルトは車両の後部扉を開けて中を見る。それほど広くはないが、数人は乗り込めるようだ。


 中にいるのは運転手と機関銃を撃つ兵士の二名だけ。そんな車両を見たソウタは、う~んと唸り悩み始める。



「どうした、ソウタ?」


「いや、こんな強力な車両が使えるなんて想像してなくてさ。トロールを倒したら一旦いったんダンジョンを出ようと思ってたんだけど……」


「やめるのか?」


「せっかくだから最下層、十層のボスまで倒しに行くか! エーテルも全部使えば魔力はなんとかなるだろうし」


「いいのか? けっこう高いんだろ?」

 

「こんな面白いもん見せられて後に引けるかよ! 出発しようぜ!」


「……分かった」



 ハルトとソウタは指揮通信車に乗り込み、最下層を目指して車を走らせた。



 ◇◇◇

 


 ガタガタと揺れる車内。洞窟とはいえ、ダンジョンの中は歩きやすいように作られている。


 下層へ下りる際も階段ではなくスロープ状の道であったため、大型の装甲車でも問題なく走らせることができた。


 ドッドッドッドッドッド! っと、車両にも響く機関銃の掃射音。ハルトは銃を撃つ兵士に目を向ける。



「すごい音だな」


「12.7mm重機関銃だからな。アサルトライフルより強力で、大抵の魔物は瞬殺だろう」



 ソウタは小さな小窓から外を見る。狼やホブゴブリンの死体が転がっていた。


 たまに魔物が車両に突っ込んで来るが、鋼鉄の装甲はビクともしない。二人は安全な車内にいながらダンジョン攻略を進めてしまう。



「これならけっこう早く最下層まで行けそうだな!」



 ソウタの言う通り、指揮通信車は数十キロの速度で洞窟内を走る。足の遅い魔物は置き去りにし、向かってくる魔物は12.7mm重機関銃で撃ち払う。


 魔物が群れで襲ってきても兵士をまとめて召喚し、銃弾の雨で押し切った。


 ソウタが洞窟の地図マップを持っていたのも大きく、おかげで道に迷うことも罠にかかることもない。


 結果、一時間もかからずに最下層に辿り着く。



「またレベルが上がったみたいだ」



 ハルトは改めてウインドウを開き、自分のステータスを確認する。



「そりゃそうだろう。上の階層より下の階層の方が強力な魔物が出てくるからな。経験値も多く入る」


「でも車に乗ってるだけで、なにもやってない感じがするんだが……」


「まあ、召喚なんてそんなもんだよ。それより次は何が召喚できるんだ?」



 ソウタは好奇心に満ちた顔で聞いてくる。ワクワクした様子のソウタを尻目に、ハルトはステータスに目を移す。


 相変わらずMPだけが大きく伸び、その他の数値はさほど変わっていない。


 ソウタによれば魔法使いのステータスより偏っているそうだ。ハルトは新しく表記された『Summon addition』の文字をタップする。


 どんなものが出てくるかは当然、ハルトも興味があった。何が召喚できるのか確認するため、二人はウインドウを覗き込む。



『【軽装甲機動車(5.56mm機関銃MINIMI搭載)】×2台【二等兵】4名』

[装備 20式5.56mm小銃 ベレッタ92F]



「おお! 軽装甲車!? それも2台!」


「また車か?」



 怪訝な顔をするハルトをよそ目に、ソウタは興奮を抑えきれない。


 

「陸上自衛隊に配備されてるヤツだな! 5.56mm機関銃、通称ミニミを搭載! そんな車両が2台もあるなんて~」



 ソウタだけが夢み心地で、ハルトはついていけない。



「これだけの装備があれば、ボス戦でも楽勝だな! 今から楽しみだ~。早く行こうぜ。な、ハルト!」



 浮かれたソウタを見ながら一つ息を吐き、兵士に命じて車を発進させた。そして、とうとう目的の場所に到着する。



「ここが……」



 車から降りて、二人は目の前の扉を見上げた。


 それは十メートル以上ある重厚な鉄の門扉。豪奢な装飾が施され、訪れた者に異様な緊張感を与えている。



「この奥にダンジョンのボスモンスターがいる。中はトロール戦の時と同じように開けた空間だから車は入れると思うが……準備はいいか?」


「ああ」



 ソウタは門の前まで進み、手を伸ばして門に触れる。触った部分から光が広がり、軋むような音と共に門がゆっくりと開いていった。

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