第10話 中ボスとの戦い

「やったな、ハルト」


「ああ……スライムやゴーレム以外なら、なんとかなりそうだ」



 洞窟内を進んでゆく二人。スライムやゴーレムなどハルトが苦手な魔物はソウタが倒し、ゴブリンやワーウルフなど銃が効く魔物はハルトが倒していった。


 そして――



「レベルが8に上がってる」


「マジか! まあ、けっこう倒しまくったからな。また〝召喚″か?」



 ウインドウを開き確認すると、『Summon addition』の文字がある。



「ああ、そうみたいだ」



 ハルトは文字をタップして展開する。次は何が召喚できるのかと、二人がウインドウを覗き込むと、



『召喚:【二等兵】4名』

[装備:89式5.56mm小銃 コルトガバメント 手榴弾×4]



「今度は四人か……しかも手榴弾!?」ソウタが目を丸くする。


「本当だ。全員が四つづつ持ってるってことか?」


「だとしたら強力な武器だな。次はハルトだけでもスライムやゴーレムを倒してみろよ!」


「そうだな……やってみる」



 四人の兵士を召喚し、しばらく歩いているとゴーレムが現れる。



「よし、行け!」



 兵士に命令すると、駆け足でゴーレムに向かってゆく。手榴弾のピンを抜き、敵の足元に投げつける。


 緩慢な動きのゴーレムは避けることもできず、転がった手榴弾を不思議そうに見つめる。次の瞬間――


 強い光が弾け、手榴弾の一つが爆発した。


 立て続けに二発、三発と爆発し、ゴーレムの足を吹き飛ばす。後ろに倒れたゴーレムは体の岩も砕け、虫の息になっていた。


 思ったより爆発の威力が強かったことに驚くハルトだったが、兵士は間髪入れず倒れた敵に近づき、アサルトライフルの連射で息の根を止める。



「おお、やったな! ハルト!!」



 今まで苦手にしていたゴーレムを初めて倒した。スライムにも手榴弾を使ってみると、体の中にある〝核″ごと吹き飛ばしてしまう。


 

「これなら何とかなりそうだ」



 ハルトが大抵の敵を倒せるようになったため、ソウタはなるべく手を出さず、その戦いを見守っていた。


 倒せなかったのは金属のゴーレムぐらい。


 銃や手榴弾が効きにくい相手だけソウタが出張り、大剣で薙ぎ払ってハルトの援護をする。


 そして、とうとう目的の第五層に辿り着いた。



「ここが第五層……」


「気を抜くなよ。すぐにボス戦になる!」



 そこは開けた空間で、今まで歩いて来た洞窟とは明らかに違う。


 かすかに感じる振動。天井からはパラパラと砂や小石がおちてくる。ハルトが空洞の奥に目をやると、地響きと共に巨大な影が姿を現す。



「なんだ!? あのバカデカい魔物は?」



 緑の肌をした人型の魔物だが、明らかにゴブリンとは違う。手には巨大な棍棒を携え、まっすぐこちらに向かって闊歩する。



「トロールだ! 動きこそ鈍いが、パワーはホブゴブリンの比じゃないぞ!!」



 ソウタの言葉を聞いて、ハルトはゴクリと唾を飲む。見上げれば五メートル以上の怪物が見下ろしてきた。


 口から涎を垂らしながら、巨大な棍棒をゆっくりと振り上げる。


 ハルトはウインドウを開き、全ての『召喚:兵士』の文字をタップした。すると、目の前の岩場に次々と魔法陣が描かれる。


 光の中から出てきた兵士は七人。全員が89式5.56mm小銃を構え、銃口をトロルに向ける。ハルトも89式を構えて、大声で叫ぶ。



「撃てーーーーーーっ!!」



 計八人が持つライフルが一斉に火を噴く。重なる銃声、薬莢はカラカラと地面に落ち、舞い上がった硝煙が視界にかかる。


 フルオートで連射された弾丸は、トロールの体に吸い込まれていく。


 全弾命中。足や腹部、胸や顔、肩や腕、合計240発が着弾した。さすがの巨体もグラリと揺れる。


 肉は裂け、血が噴き出し、骨が見えている部分もあった。トロールは顔をしかめて苦しそうに雄叫びを上げる。



「やったか……?」



 ハルトが止めを刺そうと近づいた時、トロールの体に異変が起きる。血が止まり、傷口が塞がってゆく。その光景に、ハルトは唖然とした。



「気を付けろ! トロールには強力な再生能力があるぞ!」


「そういうことは最初に言ってくれ!!」



 トロールは立ち上がり、持っていた棍棒で横に薙ぎ払った。三人の兵士に直撃し、ピンポン玉のように弾け飛んでいく。


 地面に落ちた兵士は、淡い光となって消えていった。



「くそっ!」



 ハルトは弾の切れた89式5.56mm小銃を投げ捨て、ウインドウを開いて20式5.56mm小銃を取り出す。


 兵士たちも89式小銃を捨て、腰からコルトガバメントを抜いた。


 一斉に銃撃するが、やはり致命傷を負わせることができない。その時、四人の兵士が前に出る。手榴弾を持った兵士だ。


 ピンを抜いて投擲する。三発は足元で爆発したが、一発は胸に当たって爆発。


 さすがに効いたようで、トロールはたたらを踏んで後ずさる。


 あと、もう少し!!


 ハルトはウインドウにある表記に目を留めた。指で押してを『顕現』させる。


 目の前に現れたのは、長い鉄の筒。腕の中にズシリとのしかかった。



「頼むぞ。パンツァーファウスト3!」



 二つのグリップを握り、発射筒を肩に落とし安定させる。弾頭をトロールに向け、照準器を覗き込む。


 怒り狂ったトロールは、ドシンッドシンッと洞窟全体を揺らしながら駆けてきた。


 ハルトは冷静に狙いを定める。敵は目と鼻の先。棍棒を振り上げ、叫びながら殴りかかってくる。



「喰らえ!」



 ドンッと重低音が響くと、筒の前後が爆発する。煙を上げて飛んでいく弾頭。


 トロールの胸に当たった刹那――激しい爆発が起き、衝撃で巨体が吹き飛ぶ。近くにいたハルトも爆風で飛ばされ、洞窟の岩肌まで転がっていく。



「がっ!」



 岩に頭をぶつけ、思わず声が漏れる。



「大丈夫か、ハルト!?」



 ソウタが駆け寄ってきた。「ああ、大丈夫」とフラつきながら立ち上がり、ソウタに支えられながら、倒れたトロールに目を向ける。


 地面には上半身と下半身が別れた怪物が、大の字で横たわっていた。

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