第二章 ダンジョンの悪魔
第9話 洞窟の冒険
ハルトとソウタはモルゼの森を抜け、北に向かって歩いていた。しばらくすると小高い岩場が見えてくる。
その一角に目的の場所があった。
「これが……」
「ああ、中級者用のダンジョン〝カインの淵″だ。モルゼの森とは違うタイプの魔物が出てくるぞ」
切り立った岩壁にポッカリと空いた大きな穴。
危なそうな場所だなとハルトは思ったが、ここにも多くのプレイヤーがいる。
「他のプレイヤーが多すぎないか? ここで銃を使うと目立ちすぎるよ」
「ああ、大丈夫だ」
ソウタはそう言うと、自分のウインドウを開き、なにかをタップする。
すると突然他のプレイヤーがいなくなり、ソウタと二人だけになってしまった。
「なんだ!? どうした?」
「〝クエスト″をスタートさせたんだよ。クエストは人数制限があって始まるとその人数以外のプレイヤーはフィールドから消えて見えなくなるんだ」
「へ~」
「まあ、プレイヤーが1億人以上いるからな。こういったシステムがないとプレイヤーだらけになって邪魔なんだろう」
「なるほど……」
ハルトが納得している間に、ソウタは躊躇なく穴の中へ入っていく。
ハルトは少し不安になったが、ソウタに続いてダンジョンへと足を踏み入れた。
「暗いな……」
「大丈夫だ、これがある」
ソウタが懐から何かを取り出した。透明なビー玉のような物だ。
「迷宮を一定の時間明るくするアイテムだ。行動するには支障ない程度の明るさは確保できる」
そう言って、ソウタはビー玉を放り投げる。地面に当たって割れると、光の粒子が漏れ、洞窟の中が明るくなってゆく。
「便利なアイテムを持ってるんだな」
「まあな、ハルトも金が貯まったら町で買えるよ。今度一緒に行こうぜ」
二人が迷宮の奥へと進んでいくと、最初の魔物に遭遇する。
「これって……」
「ああ、スライムだ」
それはハルトが最初に戦った魔物だ。プニプニとした体は、銃で何発撃っても手応えが無かったのを覚えている。
「嫌な奴に遭ったな」
「前のより強いタイプのスライムだ。一応、試してみろよ」
ハルトは渋々アサルトライフルを構え、セミオートで発砲する。スライムの体を貫通するが、やはり効いてる感じがしない。
「やっぱりダメだぞ」
「スライムは透明な体の中に〝核″があるんだ。それに当たれば倒せるんだが」
何発か撃つが、結果は同じだった。
「当たらない……」
「しょうがねーな」
結局、最後はソウタが踏み潰す。スライムは簡単に光となって消えていった。
「弱い魔物だけどな……。ひょっとしたら『
その後も何体かのスライムに出会うが、全てソウタに倒してもらった。特に最悪なのが、金属の液体で出来たスライムだ。
普通のスライムは銃撃で多少のダメージを与えられたが、このスライムはまったくのノーダメージ。戦うだけ時間の無駄だった。
『パンツァーファウスト3』なら吹っ飛ばせるかもしれないが……。
更に進むと、今度は別の魔物が出てくる。
「なんだアレ?」
「ああ、ダンジョンなんかによく出てくる〝ゴーレム″だ。体は岩で出来てるが、アレは小型のものだな」
見ればその体格は一メートル五十センチほど、全身が角ばった岩で出来ており、顔には目のような物もあった。
「銃弾なんて効くのか?」
「さあ……やってみろよ」
ハルトは89式5.56mm小銃を構え、三点バーストで銃撃する。ゴーレムの体から岩の破片が飛んだが、大したダメージは入ってない。
「うっ、こいつも相性悪いみたいだぞ」
「はは、銃も万能じゃないってことか。まあ、そうじゃないと面白くないからな」
ソウタは背中から大剣を抜き、ゴーレムを一太刀で薙ぎ払う。上級プレイヤーのソウタに取っては苦戦するような相手でもない。
「ダンジョンは俺に取って苦手かもしれないな」
「まあ、そうかもしれないが、目的は五層にいる中ボスだからな。他の魔物なんてどうでもいいよ」
「そいつはそんなに強いのか?」
「そうだな、レベル20以上はないと普通は倒せない。だけど今のハルトならいけると思うぞ。経験値もたくさん入るし、腕試しには丁度いい」
二人は一層を抜け、下の階層へと進む。すると洞窟の奥から何かがやってくる。それも一匹や二匹ではない。
「あれは――」
「お! 出てきたな。ゴブリンの群れだ」
子供ほどの大きさの緑の小鬼がワラワラと溢れてくる。その手には棍棒や、錆びた剣など様々な武器を持っていた。
少なくとも二十匹はいる。ハルトがソウタの顔を見ると、口の端を上げて頷く。
ソウタからMPを回復するアイテム『エーテル』をもらったため、召喚を使う魔力は充分ある。
ウインドウを開き、『召喚』の文字をタップした。
地面に無数の魔法陣が描かれ、中から銃を構えた兵士が現れる。
ハルトと共に前に進み、向かってくるゴブリンに照準を合わせる。
「ギイイエエエエッ!!」
感情が高ぶって襲いかかってくるゴブリンの群れ。武器を片手に奇声を上げる。
「撃てっ!!」
四人が持つ89式5.56mm小銃が一斉に火を噴く。数十発の弾幕が、ゴブリンたちに襲いかかった。
特に兵士が撃った弾丸は、正確にゴブリンの頭を捉える。
その射撃精度に感心しながら、ハルトは更に前進し、向かってくるゴブリンを一匹残らず狩り取っていった。
「やったな。銃が通じる魔物なら無敵に近いんじゃないか?」
辺りには、二十体以上のゴブリンの死体が転がっている。サラサラと砂のように崩れ、次第に消えていった。
兵士たちの持つライフルの弾数が減ってくれば、一旦召喚を消し、もう一度召喚しなおす。改めて召喚された兵士は、弾倉が満タンの状態で付き従う。
「先を急ごう」
「ああ」
ハルトの言葉にソウタも頷く。例え魔力が尽きても『エーテル』で回復することができるが、ソウタによれば『エーテル』は値段が高い上、自分ではあまり使わないので多くは持ってきていないとのこと。
もたもたしてられないな。早く先に進まないと……。
その後も現れるゴブリンを倒しながら、下層を目指す。
「ん? なんだ、あのゴブリン。大きくないか!?」
「ホブゴブリンだ。少し強いぞ、俺も手を貸す!」
大人の体躯で、長い棍棒を振り回すゴブリンが七体ほど迫ってくる。その内の一体に、ソウタは斬りかかっていく。
振り下ろされた大剣は、防ごうとしたゴブリンの棍棒ごと頭をかち割った。
残り六体―― 三人の兵士が、ホブゴブリンに対して銃口を向ける。
撃ち放たれる弾丸。フルオートの銃撃は、敵の顔面を捉える。血と悲鳴を上げながらホブゴブリンは転倒し、苦しみながら消えてゆく。
ハルトもライフルを構える。
何発か発砲すると、89式5.56mm小銃の弾薬が尽きてしまう。ウインドウを展開、20式5.56mm小銃の文字をタップし、持ち替えた。
向かってくるホブゴブリンの胸に狙いを定め、引き金を引く。
鳴り響く銃声。フルオートで撃ちだされた弾丸は、見事に相手の頭を貫いた。
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