第8話 検証と弾幕
やはりどんな魔物でも頭部はクリティカル判定で致命傷になるようだ。ハルトは倒れた魔物を見て、ホッと息を吐く。
「やったなハルト!」
茂みから出てきたソウタが、意気揚々とこちらに歩いてくる。
「――にしても、あの兵士けっこう強いな」
「ああ」
ハルトが目を向けると、兵士は立ち上がり、何事も無かったように歩いてくる。
まるで戦闘のお手本のようだ。AIが最善の行動を選択してるのか?
兵士はハルトの近くまで来ると、直立して動かなくなる。
「兵士が持つライフルの残弾って分かるか?」
ソウタに言われてウインドウを確認する。兵士の装備欄を見ると10/30と表示されていた。
「89式の弾は、あと十発残ってるよ」
「そうか、じゃあ一回森を出よう」
ハルトは頷き、兵士と共に森を出る。弾は戦闘域を出ると元に戻るため、兵士の残弾も戻るか確認するためだ。
「どうだ?」
森の入口でもう一度ウインドウを開き、装備の欄を見る。
「俺のライフルの残弾は元に戻ってる。だけど兵士の持つ武器の残弾は変わってない。そのままだ」
「やっぱりそうか……別ルールがあるってことだな」
召喚された兵士について調べるため、森を出たり入ったりしながら詳細を確認してゆく。
まず弾を全部撃ち尽くした場合どうなるのか? 試しに全弾撃ってみると兵士の体が光始め、そのまま消えてしまった。
「戦う手段が無くなると消滅するのか……」
ハルトは改めてMPを消費し、再び『召喚:二等兵』をタップする。現れた兵士の装備を確認すると、無くなったはずの弾数は全て戻っていた。
「思った通り……召喚し直すとリセットされるみたいだな。任意で兵士を消すこともできるのか?」
「う~ん、ちょっと待ってくれ」
ハルトはウインドウに表示された『召喚:二等兵』の文字を、兵士が目の前にいる状態でタップしてみる。
すると、兵士の足元が輝きだす。光の粒子へと変わってゆき、サラサラと砂が舞うように消えていった。完全に兵士がいなくなった後、もう一度『召喚:兵士』の文字をタップする。
MPが消費されると、魔法陣が地面に描かれ、
「すげーな! これってMPが続く限り、何回でも召喚できるってことだろ!?」
「そうだな。これなら戦力として、かなり役に立つ」
二人は森の奥へと入って行き、何体かの魔物と兵士を戦わせた。
大抵の魔物は、兵士の遠距離からの射撃で死んでしまうため、あえて近づいて戦うよう命令する。
獰猛な牙を持つシルバーウルフ三匹を相手にした時、二匹は倒したが最後の一匹に肩を噛まれ倒されてしまう。光となって消えた後、ハルトはすぐに『召喚:二等兵』をタップする。
再召喚された兵士は、無傷の状態で魔法陣から飛び出してきた。
なんの恐れも抱かず、シルバーウルフに向かってゆく。89式5.56mm小銃のバットプレートを肩につけ、チークピースは頬に当てて照準を安定させる。
放たれる銃弾の雨。狼の体を貫いて、その命を絶つ。
地面に転がり、動かなくなったシルバーウルフは光の粒子となって消えていった。
兵士は銃を下ろし、無表情で戻ってくる。
「う~ん、防御やHPは高くないようだが、銃の扱いや射撃精度はかなり高いように見えるな」
兵士の戦闘を見たハルトが呟く。兵士のステータスは表示されないため、強さは想像するしかない。
「ああ、訓練された軍人ってイメージだな。もう少し戦わせてみようぜ」
その後もハルトとソウタは森の奥に分け入り、多種多様な魔物を討伐してゆく。
大型の手長猿の怪物を、長い角を持つ鹿の化物を、群れをなし飛び回る蟲の魔物を兵士との同時射撃で撃破していった。
そして――
「レベルが7に上がったみたいだ」
「マジか! 見せてくれ!!」
ソウタと一緒にウインドウを覗き込むと、やはり『Summon addition』と表示されている。タップして展開してみると、
『召喚:【二等兵】2名』[装備 89式5.56mm小銃 コルトガバメント]
「おお! 召喚できる兵士の数が増えてるぞ!!」
「全部で三人か……」
同時に召喚すれば戦力としてはかなり強力だとハルトは思った。
実際、銃弾が切れていなければ、ほとんどの魔物は相手にならない。モルゼの森にいる、もっとも強い犬の魔物〝オルトロス″に出会った時も――
「危険だぞ! ハルト!!」
「やるだけ、やってみるよ」
ハルトと三人の兵士はオルトロスと対峙する。二つの頭を持つ魔物は深紫色の体毛を風になびかせ、獰猛な口から
二人の兵士が片膝をつき、しゃがんだ姿勢で銃を構え、その後ろでハルトともう一人の兵士が立ったまま銃を構える。
対するオルトロスも身を屈め、大地を蹴って襲いかかってきた。
巨大な体躯からは黒い瘴気が漏れ出ている。ソウタがはらはらする中、ハルトは冷静に敵が近づいて来るのを待つ。
充分引き寄せた所で一斉射撃。鳴り響く銃声。無数の弾丸は正確に敵を捉え、オルトロスに直撃した。頭を、顔を、肩を足を貫いてゆく。
いかに強い魔物でも、アサルトライフルの弾幕を突破することはできなかった。それを見たソウタは呆れるように口を開く。
「これは……もう〝
「どこか別の場所に行くのか?」
ハルトが聞くと、ソウタはニヤリと笑みを浮かべた。
「ああ、ちょうどいい場所が近くにあるぜ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます