第14話 追撃者

 ソウタとハルトは必死で逃げる。だが、魔物の群れは恐ろしい速さで迫ってきた。


 それはヤドカリのような見た目の魔物。六本の脚を忙しなく動かし、青白い甲殻は不気味に輝く。



「ダメだ! このままじゃ追いつかれる!!」



 絶叫したソウタはアイテムの『エーテル』を取り出しす。



「ハルト!」


「ああ、分かった!」



 走りながら『エーテル』をハルトに放り投げると、それを受け取ったハルトは小瓶の栓を抜き、一気に飲み干す。


 空になった瓶を投げ捨て、大声で叫ぶ。



「召喚! 輸送防護車ブッシュマスター!!」



 走って行く先に魔法陣が描かれ、その中から鋼鉄の車が姿を現す。プロテクトガードに覆われた小型のバスのような見た目。


 分厚い後部ハッチを開け、二人は飛び乗った。


 装甲車は急発進して、なんとか追いつかれずに済む。



「ふー……危なかったな。ソウタに教えてもらった通り、ウインドウを開かなくても叫ぶだけでも召喚できたよ」


「音声認識ってやつだな。急いでる時に、いちいちウインドウ開いてたら、それこそられちまう」



 二人が車の中でホッと息をついていると、上から機関銃の掃射音が聞こえてくる。


 慌てて後部ハッチの窓から外を覗くと、大量のヤドカリが引き離されることなく追走していた。


 それは地上だけでなく、岩壁や天井をつたい走っている。



「おいおいおい、嘘だろ! この装甲車100キロのスピードで走れるのに、それについてくんのか!?」



 ハルトもその光景にゾッとしたが、5.56mm機関銃の弾丸は確実に魔物を捉え、体に風穴を開けていた。



「効いてるな……」



 ハルトはウインドウを開き、二名の兵士を召喚する。



「どうする気だ? ハルト」


「あの敵にも銃は通用するみたいだ。なんとか足止めしてみる」



 兵士は輸送防護車ブッシュマスターの後部に二つある上部ハッチから体を出し、20式5.56mm小銃を構えた。


 足で踏ん張り、上体を安定させる。二名の兵士は後方から雪崩をうって襲ってくる魔物にフルオートで銃撃。弾丸は容赦なく魔物の外皮を貫く。



「大丈夫そうだ。あの魔物二、三発撃ち込めば足が止まる。弾倉にも余裕があるし、持ちこたえられるかもしれない」



 弾倉や武器は、ウインドウ操作を通して兵士に割り振ることが出来る。


 ハルトの命令によって、20式5.56mm小銃を持つ二人の兵士は地上を走る敵を、機関銃を操作する兵士には天井をつたってくる敵を銃撃させた。


 撃たれたヤドカリは天井から地面に落下すると、次々に迫り来る魔物に踏み潰されていく。攻撃は通用する。だが――



「ダメだ、ハルト! 数が多すぎる。このままじゃ追いつかれてられるぞ!!」



 焦りの色を見せるソウタ。いくら高レベルのソウタでも、あれだけの数相手では勝てないだろう。



「一応聞いておくが、ゲーム内で死んだらどうなるんだ?」


「まあ、強制的にログアウトになって半日はログインできない。それに持ってる金も半分になるし、高い装備が壊れることもある。結構、損害はデカいぞ」


「そうか……じゃあ、死ぬ訳にはいかないな」



 ハルトは自分よりも、ソウタにこれ以上迷惑をかけたくなかった。色々頼ってる上に、こんな所で死なせるのは忍びない。


 ウインドウを開いて、弾倉などを兵士に割り振る。小銃の弾倉は最大二つ、拳銃の弾倉は一つ、手榴弾は四つまで一人の兵士に持たせることができた。



「73式小型トラック4台、召喚!!」



 輸送防護車ブッシュマスターと並走するように、光の中から4台の73式小型トラックが現れる。


 1台ごとに四人の兵士を乗せ、一人が運転、一人が12.7mm重機関銃を操作し、残り二人が20式5.56mm小銃を構える。



「撃てっ!!」



 4台のトラックと輸送防護車ブッシュマスターに乗る兵士の一斉射撃。その威力は凄まじく、追いすがる魔物の群れを蹴散らしていく。



「すげえ!」



 ソウタが窓から外を眺めて、感嘆の声を漏らす。ヤドカリの甲殻を突き破り、何本もある足を吹き飛ばした。


 辺りには緑色の体液が撒き散らされ、断末魔の奇声を上げながら、魔物は迫り来る群れの中に沈んでいく。



「魔物を倒してるけど、奥の方からどんどん出てくる……。一体、何匹いるんだ?」


「いや、分からない。この魔物大暴走スタンピードは滅多に起こらないうえ、クリアしたプレイヤーがいないんで、ほとんど情報が無いんだ」


「クリアしたプレイヤーがいない!?」


「俺が知る限りではな」



 ハルトは絶望的な気分になる。銃弾は無限に撃つことはできない。兵士たちがどれだけ敵を倒しても、次々に代わりが出てくる。


 これではキリがない。せめて出口まで持てば……。


 そう考えたハルトだが、魔物の群れは増え続け、トラックに迫ってくる。


 指揮通信車や軽装甲機動車も出したい所だが、洞窟の幅を考えると五台の装甲車が限界だろう。


 ハルトもウインドウから20式5.56mm小銃を取り出し、後部ハッチを開けて発砲しようとする。その時、トラックの一台がヤドカリの足に絡めとられ横転した。


 地面に投げ出された兵士たちは、ダメージを受けながらも立ち上がり、アサルトライフルで迎撃する。――が多勢に無勢。


 何体かの魔物を倒した後、迫り来る群れに飲み込まれ、光となって消えてしまう。



「くそ!」



 残り三台のトラックに乗る兵士たちが、手榴弾のピンを抜いて投げ落としてゆく。


 すぐに魔物の群れが通り過ぎ、手榴弾は見えなくなったが―― ボンッ、ボンッと下腹に響くような音がして爆発していった。


 ヤドカリは足が裂け、体が吹き飛び、体液を流しながら死んでいく。だが倒せたのは数体のみ、波のように押し寄せる大群には銃弾の雨を浴びせかける。


 兵士たちは残弾が無くなると、弾倉を交換するためマガジンリリースボタンを押す。マガジンは自重で落下し、空いたスペースに予備のマガジンを装填した。


 再び魔物に銃口を向け、絶え間ない銃撃を続ける。


 すでに数百匹のヤドカリを屠っているはずだが、敵が減る気配はない。天井から飛び下りた魔物に二台のトラックが襲われ、そのまま横転してしまう。

 

 地面に転がった兵士は弾の切れた小銃を捨て、ホルスターから拳銃を抜く。何発も発砲して対抗するが、圧倒的物量の前に成す術なく殺されしまった。

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