第6話 無反動砲

「な、なんだ一体?」



 ハルトは怪訝な表情でソウタを見る。突然大きな声を出したと思ったら、目を見開いて固まっていた。


 なにを見たんだと、ハルトもウインドウを覗き込む。


 そこに書かれていたのは『パンツァーファウスト3』の文字。何のことかサッパリ分からない。



「なんなんだ? 強力な武器なのか?」


「………………砲だ」


「え?」


「対戦車砲だ! 陸上自衛隊でも採用されてるドイツ製の無反動砲の一種!!」


「む、無反動砲!? 要するにバズーカみたいなものか?」


「まあ、厳密に言うと違うが、似たようなもんだ」



 実物を見てみようと、『パンツァーファウスト3』の文字をタップする。ヴンッと低い音が鳴り、手元に長い筒状の物体が顕現した。


 全長は一メートル四十センチほど、ロケットランチャーにしか見えない形状だが、弾頭部分に小さなプロパンガスボンベのような物がついている。


 十キロ以上の重さがあり、持ったハルトはよろめいた。



「凄いな……こんな物までレベルアップで貰えるなんて」


「確かに。本来は一発限りの使い捨てだけど、戦闘から離脱すれば、また使えるってことだろ? 凄すぎる能力だ。さっそく試してみようぜ!」



 ソウタは森の奥へと分け入っていく。パンツァーファウストが重すぎるので、ウインドウの表示をタップして実物を消す。


 こうやって出し入れできるのは便利だな。と思いながら、ハルトはソウタの後について行った。



 ◇◇◇



「あそこにいるぞ。右の大きな木だ」



 木の陰に隠れながら、二人で五十メートルほど先にいるアグリーベアの群れを見つめる。全部で六頭。



「ちょっと多いんじゃないか?」ハルトが不安そうに聞くと、ソウタはニンマリと笑って白い歯を見せる。


「大丈夫だよ。いざとなったら俺が倒すから、ハルトは武器の扱いに慣れることと、レベルを上げることだけ考えてればいい」



 ソウタは背中に背負った大剣を鞘から抜き、木の陰から出て行く。



「パンツァーファウスト3を構えろ。俺があいつらを誘導する」


「分かった……」



 ハルトはウインドウを開き、無骨な無反動砲を取り出す。14キロもある鉄の筒は、ズシリっと腕にもたれかかる。


 発射筒を肩に乗せ、二つあるグリップを握った。弾頭を熊のいる方に向け、照準器を覗き込む。



「おい、熊コロ! こっちだ、こっち!!」



 ソウタが叫ぶとアグリーベアが一斉に振り向く。鋭い牙を剥き、低い唸り声を上げながら、ゆっくりと近づいてくる。


 ソウタが剣を構えると、危険を感じたのか熊は歩みを止めた。


 一瞬の静寂。一定の距離を開けてソウタと熊が睨み合う。


 どちらが動くか互いに牽制していたが、先に動いたのは熊の方。六頭が同時に駆け出し、ソウタに向かってくる。



「頼んだぞ、ハルト! さすがに六頭相手にするのはしんどいからな!!」



 ハルトは先頭の熊に狙いを定めた。初めて撃つ砲撃。後は引き金を引くだけだが、緊張で喉が鳴る。


 あくまでゲーム。自分にそう言い聞かせ、肩の力を抜く。


 熊との距離は二十メートル。射程距離としては充分引き付けた。外すことはない。


 右手の人差し指でトリガーを引く―― 瞬間。



 耳をつんざく爆音。弾頭が発射された瞬間、筒の後ろからも衝撃と煙が噴き出す。


 無反動砲とはいえ反動がまったく無い訳ではない。初めて撃ったため前後の爆発に驚き、視線が泳ぐ。


 弾頭の行方は!? と思い視線を戻すと、狙い通り熊に向かって行き着弾した。


 爆発し、土砂が舞い上がり、遅れて轟音が耳に届く。


 その威力は想像以上。直撃した熊は即死。近くにいた二頭の熊は爆発に巻き込まれ、五メートル以上吹き飛ばされた。



「お、おお~……さすがに凄い威力だな……」



 ソウタは呆気に取られているが、残り三頭のアグリーベアは、怯むことなく襲いかかってくる。


 ハルトは弾頭が無くなった砲筒を投げ捨て、肩にかけていた20式5.56mm小銃を構える。ソウタの横まで歩み出て、熊に照準を合わせた。



「いくぞ、ハルト!」


「ああ」



 右から来るアグリーベアにソウタが斬りかかり、ハルトは左から来る猛獣に銃口を向ける。セレクターはフルオート。


 出し惜しみはしない! 恐ろしい形相で襲いかかる熊に向かって、引き金を絞る。


 無数に射出される弾丸。呼応するように飛び散る薬莢。


 熊の頭に、顔に、肩に胸に、ライフル弾が炸裂する。突進してきた勢いは止まり、転がるように倒れて動かなくなった。


 ソウタも一刀両断の元、熊を撃破。残り一頭。


 目と牙を剥き、ハルトに向かって駆け出して来る。「ハルト!」とソウタが叫ぶが、ハルトは冷静だった。


 ライフルの照準を合わせ、しっかりと構える。


 発砲―― 残弾を撃ち尽くす。全ての弾は命中し、熊は雄叫びを上げながら後ろに倒れた。舞い上がる土煙。



「終わったか……」



 安心したのも束の間、パンツァーファウストの爆発によって大ダメージを受けていた二頭のアグリーベアがヨロヨロと動き出した。


 ハルトは弾数の無くなった20式5.56mm小銃を消し、89式ライフルを取り出す。


 小走りに駆け出して、熊の眼前で発砲。三点バーストが炸裂し、熊は動きを止める。もう一頭にも間髪入れずに銃撃。完全に沈黙させた。


 二頭とも仕留めることができ、ホッと息を吐く。



「おお、やったなハルト! 俺が一頭倒す間に全部倒すとは……凄い成長だぞ」


「まだ行けそうだ。もう少し魔物を狩りにいこう」


「やる気になってきたな。そうこなくっちゃ!」



 二人はモルゼの森を進み、遭遇する魔物を倒していく。水辺にいる毒ガエルを、頭上を飛ぶ大きな蛾を、角の生えたウサギを次々撃破。


 ライフルなどの弾丸が無くなれば一旦森を出てリセットし、ダメージを負えばソウタからポーションをもらい回復させた。


 そして――



「レベルが6に上がったぞ」


「おお、やっとか! 他の職業より成長スピードが遅いな」


 

 ソウタの言葉に、ハルトは眉をひそめる。



「そうなのか? 職業によって違うとは知らなかった」


「まあ普通、基本職ではそれほど違いはないんだが、お前のは特殊だからな。しょうがないよ」



 そんなものかと思いながら、ハルトはウインドウに目を移す。次はどんな武器がもらえるのか期待していたが、予想とは違う表記があった。



「なんだ、この『Summon addition』って文字。今までと違うな……」


「ん? どれどれ」



 ソウタがウインドウを覗き込む。取りあえず文字をタップしてみると、そこに表示された文字に二人は目を見開く。



『召喚:【二等兵】1名』[装備:89式5.56mm小銃 コルトガバメント]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る