第3話 レベルアップ特典

「いや、ちょっと待ってくれ! 弾を使い切ってるから武器が無いんだ。手伝ってくれよソウタ!」



 数十体のアンデッドを見て、後ずさるハルト。


 死体の群れは構うことなく前進してくる。



「大丈夫だハルト。俺の予想では、その弾丸はMPで補充できると思うぞ。ウインドウに何か書いてないか?」


「ウインドウ!?」



 ハルトは手を横に振り、ウインドウを表示させる。中を確認するが、どこにも弾丸に関する記述はない。



「いや、なにも無い――」



 ソウタに文句を言おうとした時、あることに気づいた。


 コルトガバメントの残弾表示が元の十発に戻っている。いつ戻ったのか、さっぱり分からないが――



「弾が十二発になってる。撃てるみたいだ!」


「そうか、じゃあアンデッドの頭を狙え! 頭だぞ!」


「頭が弱点なのか?」


「そうだ! アンデッドの弱点は頭だ。そこを破壊すれば動かなくなる」


「でも、アンデッドって死んでるんだよな? 生きてる生物の弱点が頭なのは分かるけど、死んでるのに頭が弱点って理屈がよく――」


「いいんだよ、そんなこと! ゲームなんだから!! ほら、来るぞ!」



 ハルトは納得できなかったが、迫って来るアンデッドの頭に向けて発砲する。


 パンッパンッと銃声が鳴ると、アンデッドの額に二つの穴が開く。撃たれた魔物は白目を剥いて、ゆっくりと倒れた。



「やった! やったぞソウタ」


「おお、倒したな。でもまだまだいるぞ、気を抜くなよ」



 墓から這い出した数体のアンデッドは、尚も向かってくる。ハルトはありったけの弾丸を撃ち尽くす。


 三体倒れたが、まだ二体残っていた。


 攻撃手段を無くしたハルトに変わり、後ろで見ていたソウタが割って入る。


 背負っていた大きな剣を抜き、アンデッドを薙ぎ払ってその体を両断した。魔物は木の葉のように飛んでいく。



「はあ……心臓に悪い。モンスターがリアルすぎる」



 墓所から離れ、二人は原っぱにある岩に腰かけた。隣に座るソウタが、からからと笑う。



「なに言ってんだ。そこがいいんじゃないか!」


「簡単に言うなよ……それにしてもソウタは強いんだな。アンデッドをあっと言う間に倒したし」


「まあな、俺は上級職の『重戦士』で、レベルも56だからな。結構やりこんでる方だと思うぞ」



 ハルトは一息ついて、改めてウインドウ画面を確認する。やはり銃の残弾数が十発に戻っていた。



「弾がまた補充されてる。戦ってる時、弾は切れて撃てなくなってたのに」


「たぶんMPを使って自動装填されてるんじゃないか? MPはどうなってる?」



 ソウタに促されステータスのMPを確認するが、特に変化はない。



「いや変わってないな。そのままだ」


「おかしいな」



 ソウタは腕を組み、眉間に皺を寄せる。どうやらゲームの常識とは違うようだ。



「もしかして……もう一度墓所に行こう、ハルト!」



 ソウタと共に墓所に行き、再びアンデッドと戦闘。一体を倒して早々に戦いをやめて墓所を出た。五発発砲したが、ステータスを確認すると十発に戻っていて、MPも減っていない。



「やっぱり、戦闘から離れると残弾数がリセットされるんだ。MPを使わず弾だけが戻る。これは凄いぞ!」


「なにが凄いんだ?」



 ゲームの知識がないハルトは、チンプンカンプンで要領を得ない。



「武器には色々種類があるんだ。俺が持つ剣は何度でも使えるけど、耐久値ってのがあって、いずれ壊れる。そうなると、また買わなきゃいけない」


「けっこう大変なんだな」


「剣ならまだいい。弓やボウガンなんかは、威力が強くて長距離から攻撃できるけど、その都度つど〝矢″は買わなきゃいけないから効率が悪い」


「そうなんだ……」


「それに対して、お前の銃はどうだ? 長距離から撃てる上、無限に弾が補充される。ハッキリ言って反則レベルだと思うぜ」



 ハルトはピンときていなかったが、確かに規格外なんだろうと認識する。



「それにしても不思議だな。弾丸の補充にMPを使わないんだったら、何にMPを使うんだ? 銃とは別に魔法みたいなの覚えるのか?」



 ソウタの疑問に、ハルトも「う~ん」と唸って腕を組む。


 二人で考えるが、当然答えなど出るはずもない。もう一度墓所に戻り、レベルを上げるためアンデッドを数体倒す。



「あっ! レベルが2に上がったぞ」



 ステータスを確認すると、やはりMPの伸びが高く、それ以外は低調だった。



「やっぱり魔法使いと同じパラメーターの上がり方だな……何に使うか分からないけど」



 ソウタが考え込む中、ハルトはステータス画面の下に『Weapon addition』と書かれた、点滅する文字があることに気づく。


「なんだろう?」と思ってタップすると――



「あ!」


「どうした? ハルト」


「武器みたいなのが追加されてる」


「え? 武器?」



 ソウタがステータス画面を覗き込むと、そこには『ベレッタ92F』の表記がある。



「ベレッタ!? コルトガバメントの次はベレッタかよ!」


「知ってるのか? ソウタ」


「拳銃だ。アメリカ軍がコルトガバメントの次に正式採用した十五発式の拳銃」


「十五発撃てるってことか? 弾数が増えるのはありがたいな」



 喜ぶハルトとは逆に、ソウタは怪訝な顔をする。



「どうかしたのか? ソウタ」


「いや……レベルが上がって武器が追加されるなんて聞いたこと無かったからな。まさか上がるごとに……とにかく試してみよう!」



 ハルトは墓所に戻り、二丁の拳銃を使ってアンデッドを十数体倒した。初心者用の魔物ということもあって、それほど苦戦することもない。



「おお! レベルが3に上がったぞ」


 

 ハルトはソウタと共にステータス画面を確認する。MPの上昇は変わらないが、それよりも『Weapon addition』の文字に目を移す。


 タップすると『89式5.56mm小銃』の表記が目に飛び込む。



「ええっ!?」



 よく分かっていないハルトとは裏腹に、ソウタは驚愕する。



「今度は89式かよ! 自衛隊じゃねーか!!」


「なんだ? 凄いものなのか?」


「取りあえず実体化させてみろ」



 文字をタップすれば、その武器を出現させ、実際に使うことができる。ヴンッと音を鳴らし、ハルトの手に大きな銃が収まった。



「これは……」


「アサルトライフルだ。拳銃より遥かに威力が強いし、弾数も三十発撃つことができる」



 銃身の長さは九十センチ以上あり、ズッシリとした重みのあるライフル銃。


 妖しく光るグレーのボディに、ハルトはごくりと喉を鳴らした。

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